3章
ドアには鍵がかかっていた。異変を感じた警備員がドアの鍵を開け、私を助けてくれたらしい。
警備員は若い男性で、私に人工呼吸を施し、ホテル内にAEDもあったのでそれを使って私を助けてくれた。
多分私の胸見られたと思うけど、あともしかしたら口と口を重ねたかも知れないけど・・・そんなことは全然気にしていない。
だって私を助けてくれたんだから。
その男性はサーファーだったらしく、私を助けて一週間後、サーフィンをやっている最中に大波にのまれて死亡した―――。
―――一体何が起きているのか。
光本はもちろん即死で溺死。
お風呂での溺死はまああることだけど、あんな部屋中水で満たされるなんて・・・
あれから10ヶ月―――。
夏の太陽は眩し過ぎる。
特に最近は雨も降らず、毎日38℃越え。
私たちは海に来ている。
UVカットのビーチパラソルの陰の下、私は東子と二人寝転がっている。
二人ともけっこうセクシーな水着。
東子に乗せられる形で、私もけっこう際どい水着買ってしまった。
もちろん紫外線対策の日焼け止めは私も東子も全身塗りまくり。
そして二人ともかわいらしいオシャレなサングラス。
海水浴シーズン真っ盛りで、周りは海水浴客だらけ。
二人でボーッとしていると、向こうからいかにもヤンキーな水着の男性集団5人がやって来て私たちの所に。
「おっ。いいね。いかしたギャル二人」
「セクスィ〜」
「誘ってんの?」
「俺たちとやろうぜ!」
「バカ。何やんだよ?」
東子が手を挙げてシッシッとあっち行けのジェスチャー。
「あんたらに用はないの」
そして私の飲みかけのペットボトルを掴み、男どもに渡しやがった。
「ほら。これやるから」
「ちょっと、あんた」
「えっ。マジ?」
男の一人がガシッとそのペットボトル掴み、興奮しながらフタを開け、一口水を飲んでしまう。
「やった間接キス」
その男はよく分からないガッツポーズ。
「俺にも飲ませろよ」
男どもがどんどん回し飲みし始め、結局男ども全員私のペットボトルに口を付けてしまった。
私と間接キスしたのは最初の男だけってことになるけど。
「直接でもやらせろよ」
男の言葉にちょっとビビる。
だけど東子が何か私の後ろの方に目線を遣る。
振り向くと、救世主だった。
「何ですか? あなた方は」
「あ? 何だお前?」
「まさかこいつの男じゃねえだろうな?」
「いかにもそうですけど」
「何だよ。男いたのかよ」
「おい。行こうぜ」
「何だこのイケメン。ちっ」
ヤンキー集団は残念がって去って行った。
救世主はもちろん私の彼氏ではない。
私を救うためにウソを言ってくれたんだろう。
私の通う公務員試験の予備校のチューターだ。
そう。私は大学の友だちに倣って結局就職浪人して公務員試験を受け、今の所は全滅。
全滅した受験生は時期的に一段落したので、このチューターが数人の生徒を息抜きにと海に連れて来てくれていたのだ。
連れて来てもらった数人の中には男性も何人かいるし、私たちの他に女性も何人かいる。
下心があるわけじゃない・・・と思いたい。まあ真面目な方だし、本当にいろいろお世話になってるから、そんな下心あるなんて感じ全然しない。
東子はもちろん予備校の生徒ではなく、勝手に付いて来たのだ。
「いやあどうしようかと思ったけど、向こうの方で勝手に彼氏と勘違いしてくれて助かったよ」
水着姿のガッチリした肉体の男性。大岳諒也さんだ。
「ありがとうございます」
「ごめん。勝手に彼氏って設定にしちゃって」
「いいんですいいんです。おかげで助かりました。ほら、東子もお礼言いなよ」
「あざーす」
「ハハハ。じゃあ僕はまたひと泳ぎ行ってくるよ」
大岳さんは行きかけるも私に振り返る。
「北都さん。どう? 一緒に泳がない?」
私は静かに首を振る。
「そっか。やっぱりそうだよね。ごめん」
大岳さんは走って行ってしまう。
「やっぱりまだ海・・・っていうか、たくさん水ある所は怖いんだ? 飲む水は大丈夫だもんね」
「うん・・・」
「あの事件・・・事故? よくわかんないけどやっぱり何かおかしいよね・・・」
「やっぱり・・・何か霊的なもの? 東子の得意分野」
「全然得意じゃないよ。何となくそういうもの感じれるだけっていうか」
「昔からそういうの得意じゃなかったっけ?」
「なんちゃって霊能者みたいなもんよ」
「何それ?」
思わず苦笑する。
「あの内定出た時・・・」
「うん」
「誰だっけ? あのくたばったヤツ」
「くたばったヤツって。亡くなった人なんだから」
「でもみゆに酷いことしようとした人なんでしょ?」
「それはそうだけど」
「何か嫌な感じが伝わって来たんだ。だから一旦は止めとけって言ったんだけど」
「そうだったんだ・・・」
「でもあの時、みゆの後ろに何か見えたんだよね」
「何それ? 怖っ」
「大丈夫。何か護ってくれる方の」
「何? 守護霊とかっていうヤツ?」
「でも何か邪悪なものも感じたんだ」
「え〜」
「・・・・・・」
「あ、だから私も一緒にやられそうになったのか」
「えっ?」
「私も死にそうになったじゃん」
「えっ? あっ・・・うん。そうだね。そうかも知れない」
「?」
「実はね・・・さっきもその・・・」
「ん?」
「邪悪だけど護ってくれるっていう・・・あの時と同じものを感じたんだ」
「えっ? マジ!?」
「あの・・・チューチューだっけ?」
「チューチュー?」
「さっきの・・・大岳さんだっけ? 凄い肉体の」
「チューターだよチューター」
「何かスポーツでもやってんの? もしかして剣道やってる?」
「全然。大岳さんは登山が趣味で、けっこう山登ってるみたい。本当は夏の海より、冬の山が好きみたいだけど」
「真逆だね」
「それで何? 大岳さんが邪悪で護ってくれる人なの?」
「う〜ん。そう感じた気もしたんだけど、違うような・・・微妙だった」
「何それ?」
「コラーッ!」
突然拡声器を通したバカでかい声。
ライフセーバーだ。
「早く向こうに行けー!!」
「うるさい」
「何?」
東子は突然立ち上がった。
「どした?」
「あれ」
東子は遠くの方を指差す。
「さっきのヤンキー5人組が沖の方まで行ってる」
「えっ?」
「あんなとこまで泳いでたんだ」
「ここは一般遊泳区域だ! 水上バイクは認められてない!」
「水上バイク?」
私も立ち上がって沖の方を見る。
沖の方だからよく見えなくて状況掴めないけど。
一体どこからやって来たのか、物凄いスピード出してる水上バイクが。
物凄い勢いでヤンキー5人組に突っ込もうとしている。
「!」
「でも何とか避けようとしてる」
視力の良い東子が言ってるんだから間違いないだろう。
「ホント?」
「大丈夫。何とか避けれそう」
ブーン! バッシャー!
物凄い音を立て、5人のほぼ直前で後ろを向くように急ブレーキ。
物凄い水しぶき。
「?」
あの水しぶきは・・・
水しぶきが恐ろしいほど大きくなって行く。
スパーン!
今までに聞いたことの無い、あり得ないほど大きな音と共に・・・
5人の首は宙を舞った。
そう・・・私ははっきり見た。
目の悪い私でもはっきり見えた。
あれは・・・間違いなく日本刀だった。
水が作り出した巨大な日本刀が、一瞬にして、一辺に、5人の首を刎ねた。
あり得ない・・・前代未聞の光景だった―――。




