2章
私は光本とラブホテルの部屋に入る。
凄い高級そうなラブホテル。
もちろん普通のも高級そうなのもラブホテル自体初めて。
ただただ震えながら一緒に入るしかなかった。
抵抗したってどうにかなるもんじゃなさそうだし、何をする気力も失われている。
これが“同意があった”ってことにされちゃうなのかな・・・
「何か震えてるね。みゆちゃん寒いの? みゆちゃん先にシャワー浴びて来て良いよ」
「えっ?」
「いやー僕って紳士だなー。どう? 僕に惚れちゃった?」
寒いわけじゃないし惚れるわけない。凄まじいまでの嫌悪感しかない。だけどもうどうでもいい・・・
この地獄の中で、お風呂場だけが唯一のオアシスって感じ。お風呂入れるなら今すぐ入りたい。
こうしてお風呂に自ら入って行ったって事実も、“同意があった”ってことにされちゃうのかな?
脱衣所に入り、ようやく一人になれた所でホッとする。
まさか中入って来ないよね?
水飲んで落ち着こう。
ペットボトルを取り出して水を飲む。
ペットボトルにはラベルは無い。はがしてある。
私の実家からいつも送って来てもらっているもので、私は幼い頃からこの水を飲んでいて、飲むとなぜか落ち着く。
私の田舎は綺麗な水10選に選ばれるほど、綺麗で美味しい水が湧き出てくる所。
その湧き水だからかも知れない。
お風呂入りたい。
浴槽はさすが高級ラブホテルで凄いデカい。
蛇口ひねってお湯を入れる。
ジャーッって音聴かれるかな?
「あれっ? みゆちゃんお風呂入るの?」
「!」
光本の声。
「大丈夫大丈夫。僕は入らないよ。紳士だからね。だいぶ寒がってたようだから、ゆっくり湯船に浸かるといいよ。僕は待ってるから」
「ふーっ」
一安心。こんな地獄の中じゃ些細な一安心なんてすぐかき消されるけど。
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ものすごい不安、恐怖の中にも、こうして湯船に浸かっていると、一方で落ち着く気持ちもある。
落ち着く気持ちはすっごく小さい餡なんだけど、恐怖と不安というとてつもなくデカい餅に包まれている感じ。
餡はすぐにでも周りの餅に圧迫されて、押し潰されて無くなりそうなんだけど、だけど決して無くすもんか!っていう、ささやかながら強い気持ちを何とか保っている。
だけどその餡を大きくすることは出来る。
それは・・・内定のためだと割り切ること。
お母さんのためにも一刻も早く就職したい!
そのためだからと自分を納得させる!
・・・と思ったけど、ぶっちゃけ私は処女・・・
泣きたくなってくる・・・
ていうか既に泣いてる。
「うっ・・・」
顔をうつ伏せて涙をお湯でごまかす。
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バスタオル1枚だけ巻いて待ってろっていう光本の命令で、私はその格好でベッドに腰掛けて待っている。
もう海のどん底にいるかのような悲しい気持ち。
でもお風呂で温まったし、光本がいない空間は何とか落ち着きを保っていられる。
「いいか分かってるな。このまま逃げたりしたらお前の内定はあっと言う間におじゃんたぞ」
風呂場からの光本の声。
シャワーの音は消えたし、私が浸かった湯船に光本も浸かってるのか・・・
キモすぎる。
ふとベッドに置いてあったリモコンに手が当たる。
「ん? 何だこれ?」
でたらめにスイッチ押してみる。
すると突然部屋の明かりが赤色になり、明滅する。
ラブホテルにありがちな雰囲気出す照明かな?
「ふ〜 赤信号みたい・・・」
東子のヤツ、何が“赤信号、みんなで渡れば怖くない!”だよ・・・
そんな他人の不幸を喜ぶなんて・・・
「あ」
そういえば一人大学の友達で、公務員試験受験のために浪人するって言ってたな。
「・・・・・・」
そっか・・・
何だか私も就職浪人してもいいんじゃないかって気がして来た。
お母さんには申し訳ないけど、あと1年・・・あと1年踏ん張れば・・・
だってこんなキモいヤツの言い成りになるの、バカげてる!
「ふふっ」
東子のかわいいバカ面思い出して思わず笑ってしまった。
笑って頬が上に上がったからか、一筋の涙が・・・
「ありがとう、東子」
何だかだんだん気持ちが軽くなって来た。
私はだんだん海のどん底から、上へ上へと上昇して行く。
光本何かに負けない!
そして海面に浮上!
光本のバーカバーカ。
バーカバーカ。
「バッ」
やばっ。声に出ちゃった。
思わず手で口を抑える。
「ん? 何か言った? みゆちゃん」
「あ、いえいえ、何も」
気付かれなかったかな?
「ふー」
「いいか。この世の中ってのは」
は? 何光本? 説教?
「全て権謀術数なんだよ」
何か聞いたことある言葉。
「社会の大人は皆裏では悪いことばっかやってんだよ。アメリカの大統領がよく“ディール”って言ってるな?」
うん。まあ言ってるけど。
「裏取引だ。結局は皆裏取引でお互い妥協点見出して折り合いてけてやってんだ」
ふうん。
「だからみゆちゃんもこうして汚い手で内定勝ち取って、これからどんどん汚くなってくんだ! 僕が汚い社会生き抜いて行くためのエロ汚い処世術伝授してあげるよ。これからは裸の付き合いでマンツーマンだ」
ぞわっ。
「キモっ」
「ん? 何か言った? みゆちゃん?」
「キモいって言ったんだよ! アホキモ光本!!」
「あ! 何言ってんだテメー! 殺されたいのか!」
「私内定なんていらない! 私逃げるから!」
「何だと!」
「あ・・・」
この格好じゃ逃げられない・・・
「このアマ! ナメんじゃねえぞ! 今すぐ犯してやる!」
ゾワッと、私は一瞬にして凍り付く。
この格好だけど、恥も外聞も無く逃げた方がいいかな?
「おわっ!」
「?」
何かあった?
「ぶわっ」
・・・何か・・・溺れてるような声?
「ぶわっ」
「?」
「ぶはーっ」
何とか必死に海面(?)から顔を出した?
「テメー! 何すんだ!?」
「えっ? 誰かいるの・・・?」
ぶくぶくぶくっ。
何か・・・海中に引きずり込まれたような・・・感じ?
ドボドボドボドボ・・・
「えっ? 何? 水・・・の音?」
ばしゃーっ!
風呂場から一気に水が溢れ出て来る。
「きゃーーーっ!!!」
部屋が水浸し。
「!」
どんどん水かさが増してく。
このままじゃ死ぬ!
「逃げないと!」
水は一気に腰まで上がって来ている。
まずい!
ものすごいスピードで水は部屋に充満!
水の中、視界不良だけど何とかドアまで進む。
水のものすごい抵抗の中、何とか一歩一歩前に進む。
やっとドアに辿り着く。
ドアノブを回す。
「!」
開かない!
このままだと・・・死ぬ・・・
・・・気を失いそう・・・
水がガバガバと口の中に・・・
このまま死ぬのか・・・
バッシャー!!!
私は・・・投げ出された?
・・・・・・・・・。




