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1章

「眩しい」

一気に射し込んで来た光に思わず私は手を翳す。

でもそれは祝福の陽光かな。

温かい光が私の全身に降り注がれる。


外は暖かい陽光に満たされ、気持ち良い秋晴れ。


「うーっ」

私は両腕を思いっきり天に伸ばす。ちょっと反らし気味で。肩が伸びて気持ちいいっ。


商業ビルを出ると同時に緊張感から一気に解放される。

私はカバンからペットボトルを取り出して水を飲む。

「ふーっ。落ち着く」


目の前で一心不乱にスマホ画面を高速タップしまくってる金髪ロングのギャルが私に気付いたようで顔を上げる。


「おっ。お水チャージした?」

私の友人、南野東子(みなみのとうこ)だ。

「おつかれー」

何か軽い“おつかれー”だな。

服装もいかにもギャル。

SNSで必死にバズろうとしている。

今も必死になって投稿していたんだろう。


私の服装は東子とは全く正反対のスカートタイプのリクルートスーツ。

最終面接終えたばかりだから。

私の髪型もロングだけどもちろん黒髪。


私は北都水悠(ほくとみゆ)。大学4年生。

未だに内定出てないけど、今日の最終面接はかなり手応えあった。


「内定おめでとうパーティやろ」

東子が笑顔で駆け出し、私を手招きする。

「ちょっと。あんたが内定もらったわけじゃないでしょ」

東子を追いかけるように私も歩き出す。

リクルートスーツじゃ早く動けないし。私はゆっくり歩く。

「みゆの喜びは私の喜びだよ」

東子は更に先に行ってしまう。

「早く早く」

振り返って更に大きなジェスチャーで手招き。


「でもまだ正式に内定で出たわけじゃないし」

かなり先の方にいる東子に対し、私は大きな声で言った。

「大丈夫大丈夫。みゆ絶対内定だよ。私には分かる!」

ちょっとデカイ声で恥ずかしい。

また東子は早足で行ってしまう。



東子は昔からそうだった。近所に住んでる幼馴染だ。もう一人男の幼馴染がいて、東子と3人でよく遊んでた。

何か感じる力を持っているというか、勘が良いというか、東子のちょっとした予言めいたものは割と当たっていた印象。

男の幼馴染がケガをすると予言めいたこと言ったら、しばらく後本当にその子がケガしたとか。



再び東子が振り返る。

「今日夜勤だから、時間ないの!」

「そういうことか」



東子は短大卒業して、バイト先だったファミレスにそのまま就職してしまった。

就職できればどこでも良いという感じで、遊びやオシャレ最優先。

これがギャルってヤツ?


ブルルッ。

「ん? 電話?」

私はスマホを手に持ち、電話に出る。


「はい。北都です」

「北都水悠さんですね?」

男性の声だ。

「はい」

「おめでとうございます! あなたは内定です」

「えっ?」

「どうしたー? みゆ〜」

遠くから東子が叫ぶ。


「!」

分かった!

さっきの面接官だ!

って、今終わったばっかりなのにはやっ。


「つきましては諸々説明ありますので、今日これからお時間ありますか?」

「えっ? これから?」


これからだとめんどいな〜。

と思いつつ・・・




心配した東子が戻って来た。

「はい。はい。かしこまりました〜。よろしくお願いしま〜す」

私は電話を切った。

「どした?」


なんだか・・・どんよりした気持ちで歩き出す。

「今面接したばっかりの四井商事、内定決まった」

「えっ? 凄いじゃん! マジ!」

「でも何かウソくさくない? たった今面接終わったばかりだよ?」

「えっ? 私だってそうだよ? 面接終わった直後にはい!即採用〜って」

「あんたはずっとバイトやってたからでしょ」

すかさず東子に脳天チョップ。

「ハハハ。それもそうだね」


東子の能天気ギャルぶりに少し心が安らぐ。

でもすぐさまブルーな気分に襲われる。


「それでさ。内定おめでとうパーティはまた今度ね」

「えっ? 何で?」

「これからすぐ諸々の説明あるからって、四井商事本社ビルの前で19時に待ち合わせ」

「え〜っ。あの面接したビルでそのまま説明すりゃいいじゃん」

「まあいろいろ準備もあるだろうし、本社ビルの方が都合良いんじゃない?」

「あのビルは本社じゃないんだ? けっこうデカい会社だね。確かに四井商事って何か聞いたことある会社だけど」

「まあ本社は駅2つ分しか離れてないけど」

「そうなんだ」

「でも何か話し方が軽かったっていうか、何かウソくさいんだよね〜」

「ウソくさいって」

「あとはっきりとは言ってなかったけど、多分二人きりで会うっぽいんだよね」

「え〜。それやめときなよ。実はね、さっきから嫌な予感してんだよね」

「えっ、マジ? 東子の予感当たるからな〜」

「バックレてパーティやろパーティ」

「大学の授業とかバイトじゃないんだから」

「うん。でもね・・・」

能天気ギャルに似つかわしくない真剣な表情。


「何?」

私の顔をじっと見つめる東子。

「やっぱり何かあるの?」

でも私は思い返す。

「でもやっぱりお母さんのこと考えると・・・」

「あっ、そっか。母子家庭だもんね・・・」

「4年制大学にも行かせてもらってお母さんには散々苦労かけたから」

「そうだね」

「もうお祈りメールばっかだし。この唯一もらえた内定を信じるしかないっていうか」

「もし全く内定取れなかったら、就職浪人? 周りに就職浪人する人はいないんだ?」

「え〜・・・ いないと思うけど」

「赤信号、みんなで渡れば怖くない! 周りも就職浪人ばっかりだったら不幸感和らぐっていうか、私だけじゃないんだ!ってなるじゃん」

「何言ってんの」

思わず苦笑。

「それは絶対避けないと! これ以上お母さんに迷惑かけれない」

「そっか。うん。じゃあ行っておいで。私も一緒に行きたい所だけど、これから夜勤だから」

「分かってる。行って来るよ」

私は笑顔で答えた。

別れ際、東子は一瞬私の後ろの方に目線を遣った気がした。

「東子?」

「何でもない。行っておいで」

何となく不自然な笑顔のような・・・




とにかく私は不安を抱えたまま、本社ビル前に到着した。

今日面接してくれた男がビシッとしたスーツ姿で立ってる。

「よっ。みゆちゃん」

手を上げていかにも軽い挨拶。

えっ。面接の時と全然態度違う。


「光本で〜す」

「あっ・・・はい・・・」

光本って名前だっけ。さっきと全然印象違くて、怖すぎる。

自然と体がブルブル震えだした。


「早速行こうか」

「えっ? 行くって・・・?」

「やだなあ。ホテルに決まってるじゃない」

「!」

「行こ行こ」

光本は私の手を引いて歩き出す。

それなりに人通りのあるビジネス街。私はリクルートスーツのままだから、光本と並んで歩いても傍目には不自然じゃないか。


「えっと・・・ホテルって」

「内定取り消してもいいのかよ」

光本は小声だがドスを利かせて言った。

「俺はなあ。人事のトップなんだよ。このままおとなしく俺のいうこと聞いてりゃ悪いようにはしない」

「えっ・・・」

「言っとくがなあ。俺の会社はほぼ俺が実権握ってる。助け求めてもムダだぜ。お前はもう俺の言いなりになるしかねえんだ」

私は更にブルブル震え出す。

泣きそう。

っていうか既に涙目。


「ねえ? みゆちゃ〜ん」

キモ! キモくて怖い。

「一目見て、この子かわいい〜って思ってたんだよね〜。狙ってたんだよ。へへ」

サーッと足のつま先から頭のてっぺんまで全身に氷気が走った。


もうどうしていいか分からない。

すぐ近くに人は歩いてるけど、助けも求められない。

スマホを出す気力もない。

交番あったとしても多分助けも求められない。

あまりの震えに体の自由も利かないし、声も出そうにないから。


ただただ光本の横を震えを必死に抑えながら歩くだけで精一杯。


「着いたよ。みゆちゃん」

眼の前にはラブホテル。



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