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第6話 テクシウィトル 5歳の1日

こちらの世界で目を覚ましてから、もう何度か月が変わった。

土の床に布と藁を敷いただけの簡素な寝床だが、不思議と眠りの質は悪くない。

朝晩にスマホを眺めることもなければ、日が沈んでから遅くまで活動することもない。もしかすると、人間本来の生活リズムって、こういうものなのかもしれない。


この生活で一番助かっているのは、意外と自由に歩き回れる時間があることだ。

もちろん、誰かしらの監視はついているけれど、屋敷の中をうろつく程度なら許されている。

俺はアガベ―テキーラの原料になる、あの植物を探しているのだが、倉庫にしてもキッチンにしても、例の市場事件以来、警戒が強まっていて近づきにくい。

今日も倉庫を覗こうとしたら、いつものおばちゃんに見つかった。


「ぼっちゃん、また遊んでるんですか? 今日は神話のお勉強の日ですよ」


どうやらこの世界では、正式に学校に通うのは10歳くらいかららしい。

今は家庭教師のような神官に、言葉や礼儀作法、神々の名と由来、歴史、それに暦の読み方なんかを教えてもらっている。


歴史の内容は、太陽が五つの時代を経て生まれ変わったとか、ジャガーが世界を滅ぼしたとか、話のスケールがやたらと大きくて、妙に面白い。

礼儀作法は、細かい話を抜きにすればとてもシンプルだ。要点はふたつ。どんな理不尽も耐え忍ぶことと、上位者には絶対服従すること。

日本の社会人生活とあまり変わらないな。違うのは、ここでは体罰やハラスメントという概念がなくて、最悪死ぬという点だな。

死の危険はともかく、そのへんの社会人経験が普通の5歳児よりあるからか、たまに教師や家族から「飲み込みが早い」と思われているフシはある。

それはそれでありがたいんだが、どこで死亡フラグに繋がるかわからないから、目立ち過ぎないように気をつけなきゃいけない。


ちなみにこの世界、公衆の場で酔っぱらうと死罪らしい。

殺人や穀物の盗みと同列。

プルケをちょっと啜って親父から殴られたときは「さすがにやりすぎだろ」と思っていたけど、あれはあれで、けっこうギリギリだったのかもしれないな。


食事は1日2回。

勉強のあとと、日が沈む前のいちばん暑い時間帯に、トルティーヤのようなものを1枚半くらい食べる。

おかずは豆やトマト、ジャガイモっぽいものなど、知っている素材も多い。ただ、肉や魚はかなりレア。

うちがそれなりにいい家だから、この程度でも恵まれているんだろうが、こうしてみると、現代日本って毎食がごちそうみたいなもんだったんだなとしみじみ思う。


いまだに、今が何年なのか正確にはわからない。

この国が異世界人に侵されるまで、あとどれくらい猶予があるのかも。

おそらく今は、まだその時じゃないはずだ。けれど、身体的にも社会的にも、まだ表立って酒造りに動けないのがもどかしい。


あー、そんなこと考えてたら、今夜あたり、また夢に出てくるかもしれないな。

いつもの「アガヴェ」のカウンターで、テキーラのショットを喉に流し込むやつが。

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