94話 逆転劇
吹雪が吹き上げる北の空の下、イゼル要塞に立て篭もるトワレ軍は必死に抵抗した。
鉄壁の魔法障壁を展開し、グラスランド軍の大規模攻撃魔法を防ぐ。
城門固く閉ざし、城壁の上から弓矢の雨を降らし、押し寄せるグリフォンやケルベロス、ケンタウロスの群れを仕留め続ける。
東西南北、全てに巨獣の大軍で囲まれていた。
逃げるという選択肢を失ったトワレ軍の兵達は果敢に戦い続けた。
敗れれば獣の餌になる。
その恐怖が兵士の心を奮い立たせた。
本国からの援軍が心の頼りだった。
しかしグラスランドの攻勢は弱まるどころか、日に日に増していった。城壁の下には見渡す限り、巨大な獣の群れが蠢いていた。
魔法障壁により、要塞側から魔法が放てないのが痛手であった。
大規模魔法さえ使用出来れば、戦況も好転するかも知れない。
しかし空から放ってくる攻撃魔法は何としても死守しなければならない。
拮抗状態の籠城戦に歪みが生まれた。
ベヒーモスの大軍が城門を猛撃したのだ。
あまりの衝撃と、大地を揺るがす地鳴り。
悲鳴を上げた城門がこじ開けられそうになった時、その場にいたトワレの守備兵は絶望した。
このままだと要塞は落ちる。
その瞬間、グラスランド軍に異変が起きた。
大規模魔法が後方から放たれ、自慢のケルン魔法師団が壊滅したのだ。
動揺が走るグラスランド軍に間髪入れず、アジムート軍が奇襲を仕掛ける。
縦横無尽に戦場をかけるアジムート軍にグラスランド軍は反転して、迎撃しようとした。
しかし、そこに要塞内に篭ったトワレ軍が攻勢に打ってでる。
前後を挟み打ちされたグラスランド軍は堪らず、態勢を立て直すべく、要塞付近から撤退を始める。
しかし使役していたベヒーモスやミノタウロス、ケルベロスは人間の兵ほど統率は取れていない。
撤退の合図を出しても動きは緩慢で、混乱していた。
そこにアジムート軍が容赦なく猛追を仕掛ける。
さらに要塞から巨大な攻撃魔法が放たれた。
散り散りになった巨獣達は確個撃破されていった。
ようやくグラスランド軍が撤退し、態勢を立て直した時に致命傷を負わされたことに気付く。
兵站部隊が壊滅していたのだ。
これでは再攻撃に次の輸送を待つしか無い。
グラスランド軍は現地徴発もしようとしたが、すでにトワレ軍によって付近の村々は避難され、食糧も焼かれていた。
焦土作戦を取られたグラスランドの大軍団は敵国で孤立してしまった。
とにかく急いで食糧の輸送をさせるために早馬を出した。
しかし、急報を届けるための伝令の前にミュラーとジラールが立ち塞がる。
「させるかよ」
ミュラーの魔法とジラールのハーミットの餌食になり、伝令は無念にも倒れ伏した。
各地の輸送要請はミュラー達によって確実に潰されていった。
それを観測したオルマはリアムに一報を届ける。
『こちらオルマ、リアム、順調に伝令は潰してるよー』
『ご苦労、リアムからクロエ。アスターテ要塞の様子はどうか?』
『こちらクロエ、まだ敵影無し。要塞内の守備も順調そうよ』
『リアムからゼニス将軍、イゼル要塞の救助は成功だ。一旦砦に引き上げ、兵を休ませて、南下の準備を願う』
『ゼニスだ。要塞から撤退したグラスランド軍は再編成している。放って置いてもいいのか?』
『安心したまえ、糧食は潰した。しばらく補給もできない。放逐して問題ない。ヤツらは何もできんさ』
『こちらゼニス、わかった。砦に戻るよう閣下に伝える』
『リアムからオルマ、ミュラー。君達は南のアスターテ要塞付近に迎え、次の戦場はそこだ。ジラールは待機してイゼル要塞近くにいる敵軍を監視してくれ』
『『『了解』』』
通信を閉じて、リアムは思案する。
この調子でアスターテ要塞も守る。
ドラゴンの群れは南側か。
ブレスが厄介だ。
まぁ、対策はとってある。
最も厄介なのはこのアルプ山脈が敵に狙われてしまうことだが、大丈夫だ。
山岳ゲリラの準備はできている。
懸念は七大聖魔。
さて、どうするか。
リアムはリューから渡された大量の結晶を眺める。そして深く溜息を吐く。
まぁなんとかしてやるさ。
まだ戦争は始まったばかりだ。
敵も本腰を入れてくる。
せいぜい粘って、決戦主義の上層部に思い知らせてやる。
もうこの戦争は総力戦なんだ。
負ければ国が滅びる。
先に息切れした方が負ける。
降伏したくないなら、国が滅ぶまで戦い続けるしかないんだ。
リアムは首都の方に顔を向け、一人静かに呟く。
「言われた通り、時間は稼ぎますよ。丞相、自慢の占星術で僕らを救ってみせて、英雄達を舞台に上げて下さい」
リアムはタバコを吸い、白い煙を吐いた。
煙が天井に上がり、形を霧散させる。
それを眺めながら、信じていない神に祈りを捧げた。
やっと戦争らしくなりましたんね。




