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9話 失われた記憶③

 

 走れ、走れ、時は短い。

 記憶の淵が途切れる前に一目散に、街中を駆け出す。


 俺たちは全速力でオルマの案内した堀師の店に向かい、店の中へ入った。


 そこには渋い顔をした職人独特の面構えをした老人がいた。

 しかし、俺たちの姿を見るやいなや、非常に鬱陶しそうな顔をして、持っていた道具を乱暴に床に叩きつけた。

「またテメーらか!!  今度は何しにきやがった!?」


 いったい俺たちが何をしたっていうんだ。


 こっちが聞きたいぐらいだったが、老人のこのあからさまな態度から相当厄介なことをしたのは予想がつく。

 オルマが頭を掻きながら恐る恐る尋ねる。

「ねぇ、ジェラルド、そのことなんだけど昨日のことまるで覚えてないんだ……。なんかやっちゃった……?」

 老人が煙草に火をつけ、深く吸い込む。

「やっちまったじゃねーよ! 店を無茶苦茶にしやがって! ここはパーティー会場じゃねーんだぞ!!」

 オルマが頭を深くさげ、申し訳なさそうに尋ねる。

「そこんとこ、くわしくーーー」

 老人が煙草を灰皿に投げつけて、ため息混じりに答える。

「娼婦どもを連れて、『この街一番の掘師ならその芸術の全てを俺たちの背中にぶつけて見ろ!』って俺の顔に大量の金貨を投げつけやがった。頭にきたから、俺の最高傑作をその背中に刻んでやったぜ。それにしても、あんだけ威勢よく騒いでたのに、掘る時はピーピーとまぁ、赤ん坊だってマシな泣き声上げるぜ。娼婦どもが爆笑してたぞ」

 その言葉を聞いて、思わず開いた口を覆ってしまった。

 

 嘘だろ? 

 冗談だと言ってくれ!


 顔面蒼白になった三人に老人が衣服を投げつける。

「ほらよ! 昨日の忘れもんだ。外に出るときは着替えろってママに教わらなかったのか!」


 それは紛れもなく俺の着ていたはずの服だった。

 そうか、入れ墨掘る時に脱いだのか……。

 そしてそのまま裸でベガスの街を謳歌していたのか……。


「もう一人はどうした? そいつが一番はしゃいどったぞ。あんまりにもせがむから顔まで掘ってやったぞ」

 聞きたくもない言葉だった。

 顔を真っ白にしたオルマが恐る恐る答える。

「それを今探してるんだよねー……。どんな娘だったか覚えてない?」

「ん? 変なこと聞く奴だな。あんな金髪碧眼ここらじゃみないぞ。まだ十代半ばくらいだってのに、全く親の顔が見てみたいわ。それにしてもあんな大量の金貨……。お前らどうしたんだ?」


 そんなこと俺が聞きたい。

 俺たちが金貨の山を持って豪遊? 

 嘘だろ?!


 仕方がないので服を着替えていると、ジラールがやつれた声で話す。

「全裸と入れ墨の謎は解けたが、また謎が増えたぞ、金貨なんてどこで手に入れた? ポケットには銅貨一つ入ってないぞ。そして俺たちはどこへ行ったんだ? なぁゴブリンちゃん教えてくれよ……!」

 ジラールが抱えていたゴブリンの顔を変顔にして弄ぶ。


 ほんとにこいつら仲良いな、兄弟か?


 そこへオルマが急に奇声を発する。


 狂ったのか?


「アタシのポケットにこんなのが入ってた……!!」


 オルマのわなわな震える手からピンク色の名刺が差し出された。

 そこにはこう書かれていた。


『ストリップバー ドピュドピュみるく(´,,•ω•,,`)♡♥』


 ジラールがゴブリンを放り投げ、すかさずオルマからそのピンク色の名刺を奪い取った。


「次の行先がわかったな……」


 俺は頭を抱えながら、深く頷いた。

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