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53話 遺言

 

 夜のベガスの港。


 闇のように暗い海の上に一際大きく、威圧感溢れるガレー船が浮かんでいた。

 そこの船室の奥でレオンが金髪のかき上げて、囚われの身となった老人に呟く。

「全くふざけたマネをしてくれる」

 レオンが偽の短刀を握り砕いた。

 その様子を見た老人はニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 レオンは老人のその顔を見て苛立ちを覚え、自白剤を無理矢理飲ませた。

 むせかえる老人を眺めながら、レオンは告げた。

「文書はいい、また奪うまでだ。フランツ=ヨーゼフ、いやクラウスというべきか。貴様には聞きたいことがある」

 老人がニタニタと笑みを浮かべながら答える。

「なんじゃ、誕生日でも知りたいのか?」

 余裕そうな老人の態度に苛立ったレオンは老人の腹を蹴り上げ、顔を殴り飛ばす。

 そして低い声で倒れた老人に囁いた。

「……エルドラはどこにいる? 奴さえ捕えれば俺の計画は完遂できる」

 その言葉を聞いた老人は口から血を吐きながら、再び薄ら笑いをする。

「お前さんの計画か……。何もわかっておらんな……。自分が誰かの駒だということに……」

「フ、ロゼのことか。アイツとは利害の一致で手を組んだだけだ。アイツが俺を利用して、オレもアイツを利用してるだけに過ぎん」

 レオンの言葉を聞いて、老人は微笑む。

「軍部の革命か、せいぜい成功すればいいのう。奴の恐ろしさを知らんと見える……」

「なんだと?」

「この状況すらアヤツは薄汚い笑みで楽しんでおる……。どうせロゼの顔すら知らんのじゃろ……。王政を打破して、軍事強国を作りあげたいんじゃったか、お前さんは……。せいぜいアヤツの手のひらで踊っていればいい……」

 老人の挑発にレオンは激昂し、再び老人の腹を蹴り上げる。

 肩を上下させるまで、老人を痛めつけた。

 しかし老人は笑みをやめない。

「……役者は揃ったな……」

「役者だと?」

「ショーの始まりじゃ……」

 すると、突如、船内が激しく揺れ出すした。


 思わずよろめくレオンに、慌てて飛び出した船員が告げる。

「攻撃魔法を受けました! そ、空から堕天の魔女が……。ま、マルジェラが現れました……!」

 その言葉を聞いて、レオンの顔の血の気が一気に引く。


 バカな!? 

 マルジェラが出てきただと!? 

 そんな馬鹿なことがあるか! 

 まさかあの魔女もエルドラに手を貸してるというのか!?


 レオンは船内を駆け出し、甲板にたどり着く。

 すると眼前には長い白髪を揺らしたエルフがいた。

 その姿を見て、レオンは驚愕した。


 ま、マルジェラ!! 

 何故ここに!??


 レオンの顔が青ざめる。そして思考を巡らし、打開策を練る。

 

 相手は伝説級の魔女だ!

 単独で国すら亡ぼせる。

 俺とは戦う次元が違い過ぎる……。

 一刻も早く撤退だ!


 すると、突然背後から声が聞こえた。

「隙だらけだ」

 レオンの身体はすでにランスで深々と貫かれいた。

 口から血反吐を吐きながら、レオンが振り返るとそこには、ミュラーがいた。

「貴様ぁあぁ……」

 ミュラーが乱暴にランスを引き抜くと、糸が切れた人形のようにレオンが地面に倒れ伏す。

 それをゴミのようにミュラーは蹴飛ばした。

 レオンは口から血を流しながら、忌々しそうに、白髪のエルフに無念の言葉を投げかけた。

「……何故貴様が……こいつらの……」

 すると、白髪のエルフはその身体を変形させ、長躯の赤髪の青年へと変貌する。


 ジラールだ。

 ハーミットを向けていた。


 レオンはこの時になってやっと理解した。

 変化の魔法でしてやられたこと。

 そして恨みがましく、言葉をぶつけた。

「……殺すぞ……。クズどもめ……俺の……計画が……」

「死ぬのテメーだ」

 ジラールがそう呟くと、同時にハーミットの凶弾がレオンの額に風穴を開けた。

 顔から鮮血を吹き出し、レオンは物言わぬ骸と化す。

 ミュラーがジラールに話しかける。

「傷は大丈夫か?」

「死にかけてるところを、デルヴォーが助けてくれた。まだ痛みはあるけどな」

 二人はふっと互いに笑い。船内へと足を向けた。


 船室の奥では老人が死にかけていた。

 すぐにミュラーが複体修術で傷を癒すが、体力がもうすでにない。

 虫の息であった。

 老人が息も絶え絶えになりながら、ジラールに声をかける。

「……ジラール、短刀をよこせ……。今、魔法陣を解術してやる……」

 ジラールが狼狽えながら短刀を老人に見せる。

 老人はニヤリと笑い、魔法式を発動させた。

「……やれやれ……。ワシもヤキが回ったもんじや……。我が身かわいさで仲間を売った報いかの……」

 狼狽したジラールが叫ぶ。

「ジジイ! もうしゃべるな!! 今助けてやるからよぉ! ミュラー!!」

 ジラールがミュラーに顔を向けると、俯いたミュラーが首を横に振る。

 すると老人がジラールの手を弱々しく握った。

「……いい手になったじゃねぇか……。まだまだ気持ちは半人前だが……いい手になってくれた……。……思えば、お前さん一緒に鍛冶やってる時が一番心が安らいだ……」

 ジラールが泣き叫びながら声をかける。

「やめろ! 喋るな……!!」

 そして老人が優しく微笑み、最後の言葉を放った。

「……文書を……エルドラに……頼んだぞ……」


 そして老人は事切れる。

 ジラールはその骸を強く抱きしめて涙を流した。

 ミュラーは老人の遺言を聞き届け、ジラールの姿を見て固く決意する。


 仇は取る。

 必ずな。


 ジラールの、漢の無念の泣き声が、夜の海に響き渡っていった。

マルジェラ、覚えてますか?


1章で出てきたギャンブル好きの堕天の魔女です。


実は伏線キャラなんですよww


良かったら読み返して下さい。

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