↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/122

49話 闇の顔

  

 午後の昼下がり、天気は晴れてるのに、気持ちはさっぱり晴れない。


 ドラゴの指示通り俺は代筆屋で仕事に戻り、机の上で考え混んでいた。

 俺を嵌めたヤツ、俺たちをを襲ってきたヤツ、俺たちに近づくヤツ、皆得体が知れない。


 俺が何をした?


 やっぱり殺しの依頼なんか受けるんじゃなかったと反芻もした。

 しかしルカの見受けの話を聞いていてもたってもいられなかった。

 死んだヤツには悪いと思うが、済んだことだ、仕方ない。


 周囲に誰もいないことを確認して、俺はドラゴから貰ったタバコを口にし、火をつけ、一服する。


 味は不味かった。

 不安は紛れたが、味は頂けない。

 次からはもっと自分好みのヤツを買って吸おう。

 タバコの煙を深く吸い込み、気分を落ち着かせた。

 今日ここで仕事をしていれば、フランツ=ヨーゼフが現れる。

 いや、ドラゴは仕事をしていればいいとしか言ってなかった。

 ホテルにいた金髪の女も向こうから接触してくると言っていた。


 わからん。

 どうすればいいのか。


 俺が再びタバコを口にしようとすると背後から、頭をはたかれる。

 振り返った先には怒った顔をしたアーペルがいた。

「仕事中にタバコは吸うな。真面目に仕事をしろ。全く、手配書は取り下げても、ハンターの除名処分は下ったままだからな。バイトぐらいは真面目にやってくれ」

 俺は仕方なくタバコをしまう。

「わざわざ説教しに来たのか?」

 アーペルは溜息をついて、首を横に振る。

「そうなら良かったんだがな。社長が呼んでるぞ。ここの仕事もクビになるんじゃないか?」


 なんだかんだあってもアーペルはまだ俺を心配してるようだ。

 口うるさいが、何かと目をかけてくれた先輩だ。

 ここの仕事がなくなるともう会うこともなくなるだろう。

 ハンターとしても頼りになる先輩だったし、別れるのは少し寂しい。


 いや、ちょっと待て。

 今ここでクビになったら、フランツ=ヨーゼフとは会えないぞ。

 それは困る。

 隠れてタバコ吸っただけでクビとか酷いぞ。

 仕事事態はちゃんとやってたはずだ。


「タバコはもう吸わないからクビにしないでくれ」

「タバコが理由じゃないと思うんだが……。いいから社長室に行け。安心しろ。多分説教されるだけだろ」


 俺は気を落としながら、社長室の扉を開ける。

 待っていたのは亜麻色の長髪を一つにまとめた辛気臭い女だった。

 この代筆屋の社長だ。


 コイツ、タバコ吸いながら、読書なんかしてやがる。

 俺が吸ったらクビで自分はいいのか。

 クソッタレめ。


 社長は俺を一瞥すると、本を閉じて、脚を組み直した。

「ミュラーね、かけなさい」


 なんで俺の周りの女はこんなにも高圧的なんだ。

 おしとやかな言葉遣いをしてくれ。


 俺は言われた通りに机の椅子に座り、社長と向かい合う。

 社長が呟く。

「ここの仕事はどう?」

 質問の意味がわからない。

 どうと言われても退屈だと正直に答えればいいのか。

 嘘でもいいから、やりがいがある最高の職場ですとでも答えておくべきか。

 俺が答えに窮すると社長は、郵便物の束を一つ一つ眺めながら、

「ここにはベガスだけじゃなく、この国の様々な人の言葉が文字となり、文章となって集まってきているわ。言わば情報の魔窟ね。そこの管理をしているのが私なの」

 何が言いたいんだこの女は。

 クビの宣告なら遠回し過ぎる。

「例の文書は見たか?」


 文書、その言葉を聞いて、俺の警戒心は強まり、腰に下げた剣に手をかける。

 俺の殺気を感じた社長は慌てるように、両手を上げる。


「誤解しないで。私は味方よ。けど、その様子を見る限りだと、ヘルムートには容赦なかったわけね。安心したわ」

「ヘルムート?」

 社長はニコリと微笑んで、囁く。

「あなたがあの夜、殺した男の名前よ。アイツはフランツ=ヨーゼフという名前の他にヘルムートという名前を持っていた。アイツはこの国の要人の情報を集めていたの。表向きは外交官僚だけど、軍事情報の収集も担当していたのよ」

 俺はいつでも剣を放てるように身構えながら、目の前の女を睨みつけた。

「お前は何者だ? 何故あの夜のこと……。いや、文書の存在を知っている?」

 束ねた髪を解き、長い髪を靡かせながら女は囁く。

「私もフランツ=ヨーゼフだからよ」


 二人の間の空気が凍る。

 ミュラーが厳しい眼差しで尋ねる。

「どういうことだ?」

「フランツ=ヨーゼフは私とヘルムート、そしてもう一人の三人で使っていた名前なのよ。そして多重スパイでもあった。そして私はヘルムートを出し抜いた。アイツの国の暗部の情報を集めさせ、ヤツの情報を奪う。その情報は文書として短刀の魔法陣の中にしまった。もっともヘルムートも私たちを利用して、抹殺することを企んでいたようね」


 ミュラーが殺意を込めて声を絞り出す。

「貴様が俺を嵌めたのか?」

 ほくそ笑みながら女は答えた。

「社長と呼びなさい。もしくはエミルと」

 苛立ったミュラーは声を荒げる。

「質問に答えろ!」

 女は嘆息し、首を横に振る。

「いいえ、あなたにヘルムートの殺害を頼んだのは、私より上の存在よ」

「誰だ!?」

「エルドラと呼ばれているわ。けど、それも偽名かも知れない。人じゃなく組織の呼称かも知れない。得たいの知れない存在の名前よ」


 窓から冷たい風が流れていく。冷気がミュラーを包む。

 色んな名前が出てきて頭がややこしい! エルドラだな、そいつを叩き切れば解決だ。

「勘違いしないで欲しいのだけど、あなたの命を狙ってるのは別の組織の人間よ」

 ミュラーの頭はパンク寸前だった。

 それを嘲笑うかのようにエミルは囁く。

「リヴァ、アドルフ、レオン、リスト。そしてロゼ……。あなたを狙っている人間よ。アイツらより先にラクシャインを見つけること。それが今日呼び出した用件よ」


 我慢の限界だったミュラーは思わず叫ぶ。

「ラクシャイン、ラクシャイン! いったいどうしてそいつにこだわるんだ!」

 するとエミルは震える声で囁く。

「……知ってしまったから。ロゼの正体を……」

「正体ってのは何だ!」


 見えない恐怖に怯えるようにエミルは身を震わせながら、か細い声で呟いた。


「顔よ、ロゼの顔を知ってしまったの……」





 ミュラーは飛ぶ鳥の勢いで代筆屋を後にする。

 その後ろ姿を眺めながら、エミルはポツリと囁いた。


「ミュラー……。あなたもなのよ、ロゼの顔知ってしまった人間は……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。