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116話 孤独の果てに得た力

 

 ミュラーのリハビリ復帰から一ヶ月後。


 カインの稽古場で二つの閃光がぶつかり合っていた。


 まるで稲光が起きているように、眩く、そして目にも止まらぬ速さで、二つの閃光は稽古場内を駆け巡る。


 閃光の正体はミュラーとヒルダである。


 二人が放つ膨大なタオが稲妻のように光り輝き、雷鳴のように轟き渡る。


 ヒルダの動きはまるで肉食動物が獲物を狩るかのようだ。

 速く、そして周到に攻め続けている。


 放つ技も、拳打、足技を、フェイントを交えながら多種多様に使いこなす。

 そして、その一撃、一撃が岩すら粉砕する威力を持っていた。


 対するミュラーは、ヒルダが放つ技を柳のように流す。

 受けるでもなく、避けるでもなく、その猛獣の牙のような一撃を捌き流す。 


 二人はすでに互いに動きを瞳で捉えることはできなかった。 


 すでに人間の視力で追えるような領域を超えていた。


 二人は鼓膜にタオを集中させ、互いの骨や筋肉、臓器が動く微かな音を逃さず捉え、攻防を繰り広げていた。


 しかし両者には決定的な違いがあった。


 ミュラーが涼しい顔をしているのに対し、ヒルダは額から汗が滲み出ていた。

 ヒルダの放った拳閃、剛脚が流された瞬間に、ミュラーの鋭いカウンターを紙一重で躱わし続けていたのだ。


 そしてヒルダは焦っていた。

 自身の研鑽した打撃が、尽く通用しない現状に。

 以前とは別人のようなミュラーの動きに。

 まるで手玉に取られているかのような状況に。


 このままでは埒が明かない。


 形勢はヒルダが不利になっている。

 その状況を打破するために、ヒルダはミュラーとの間合いを一瞬で離脱した。


 ミュラーは敢えて追わない。

 ヒルダが放つ術を見極めておきたかったため、また不用意に間合いを詰め、相手が仕掛けていた罠にはまることを避けるためだ。


 それが慢心だ。


 そうヒルダは心の中で毒吐く。


 ヒルダは指先にタオを収束させ、空間を斬るように、それを放つ。


 光の斬撃がミュラーに走る。


 しかしミュラーはその眩い剣閃のような斬撃をも手のひらに集中させた(タオ)を使って、受け流してみせた。


 そしてこの間隙を逃さない。


 光輝く瞬脚で、地を滑るようにヒルダとの間合いを殺した。

 高速回転した蹴りがヒルダの眼前に放たれる。

 しかし、ミュラーはそれを寸止めで止めた。


 勝敗は決した。


 ミュラーが嘆息して、ヒルダに呼びかける。

「動きが直線的過ぎる。点ではなく面で捉えろ」

 疲労困憊のヒルダは呼吸を乱し、喘鳴しながら答える。

「まさか、こんなに速く、かくも強くなられるとは……。……私の動きを見極められるのは師匠以外には出会ったことがありません……。私としたことが精進が足りませんね……」

ヒルダの言葉を聞いて、ミュラーは不敵に笑う。

「伊達に百年、孤独を見たわけではない。お前の領域は遠の昔に超えている」

 ミュラーとヒルダの乱取り稽古を満足気に眺め、カインは威勢の良い言葉を放つ。

「よし、ミュラーには俺が編み出した奥義を教える時が来たようだな。教えてやる。表へ出ろ、俺が直々に指南してやる」

 ミュラーが眉を顰める。

「奥義?」


 何か特別な魔法でも指南するのか、またあの孤独の時を過ごすのか……?


 恐怖心に堪らずミュラーは身構える。

 それを見たカインは笑い飛ばす。

「安心しろ。もうあんな無茶はせん。だがこれを習得すればお前はこの世界で一握りの超越者になる」

「超越者?」


「お前には以前、その技を見せたはずだがな。先の大戦を終わらせた秘技、空間殺法を」

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