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105話 再びの戦火

 

 あの桃源郷のような華やかなパーティーの瞬間が懐かしい。


 今、ミュラーとオルマは戦場をひた走る。

 グラスランド軍の猛攻の前にクバート防衛ラインは戦火に晒された。

 そびえ立つ壁に爆音が鳴り響き、大地が揺れる。

 空からは矢の雨が降り注ぐ。

 グラスランド軍の圧倒的数の前にトワレ軍は苦戦を強いられていた。

 トワレは幾度となく、奇襲攻撃や破壊工作を試みた。

 それでも不利な戦局は揺るがない。

 空から、レッドドラゴンの群れが現れ、大地に爆炎を撒き散らす。

 トワレの兵士は散り散りになって、塹壕の中に逃げ込む。

 空からの攻撃が厄介であった。

 制空権を取られては対抗手段が弓矢しかない。

 しかし弓矢程度でドラゴンは倒せない。

 前線の兵士が次から次へと倒れていく。

 代わりに新しい兵士が配属される。

 戦場に屍の山が築かれていく。

 焼かれゆく戦場の光景を見てミュラーは歯痒さを覚えた。

 

 もう俺の知ってる戦じゃない。

 一騎士が先駆けて戦を大立ち回りする時代は終わったんだ。

 英雄の時代は終わった。


 夜になり、敵の攻勢が弱まったところで、束の間の休息の一時が訪れる。

 焚き火をしながら落胆するミュラーを見てジラールが励ます。

「テトの話だともう少し踏ん張れば、頼もしい援軍が来るって話しだ。頑張ろうぜ」

 フェンディが嘆息する。

「そもそも外国人の私達がここまで頑張らなきゃならないのよ。やってらんないわ」

 アーペルも続く。

「当初は工作部隊の配属だった私達が、今は前線で命がけで戦ってる。トワレも来るしいのだな……」

 仲間の弱音にフェンディがからかい混じりに、ミュラーを見てほざく。

「一番可哀想なのはアユタヤの軍よ。ミュラーのでまかせのせいで、退くに退けない状況になってるんだから」

フェンディの言う通り、とっくに戦線離脱しても文句が言われないアユタヤ軍はアジムートの偏屈が災いして、故郷に帰れずにいた。元々の目的を失念したアジムートは今は戦場で華々しく散ることしか考えていない。ミュラーの妹が今は必死に説得しているところだ。

 篝火を見つめながらミュラーが呟く。

「前に見たオルマのドレス、美しかったな。純白のドレス。清純、純真を体現したものだった」

突然のミュラーの告白にオルマは戸惑い、頬を赤らめ、俯く。

「う、うん。ありがと……。この戦争が終わったら、また……」

「戦争が終わったら、ルカとあの純白のドレスで夜想曲を舞うぞ。こないだのダンスはオルマだったからイマイチだったが、ルカとなら誠心誠意、真心込めて踊ってみせる!」

 ミュラーの嬉しそうな顔の前に、オルマは下を向いて、恥ずかしそうな顔と涙を隠していた。

 それを見てオルマの気持ちを察したジラールとクロエはオルマに激しく同情した。

「ジラール、ミュラーって相変わらずクソね。オルマの気持ちを読めないのは仕方ないけど、ここでノロケ言う? 信じられないわ」

「いや、クロエ、分からんぞ。あのミュラーだ。オルマも頑張れば、第二夫人とかになるかもしれねぇ」

「は? どこの王族よ? 死ねばいいのに」

 するとアーペルが現れて、賑わう四人に交わる。

「戦場なのに相変わらずだな、お前らは」

 ミュラーはアーペルを一瞥し、話しの続きを始める。

「以前のパーティーの話だ。お前の漆黒のドレスも似合ってたな」

 ミュラーにそう褒められてアーペルは照れるように返す。

「ああ、そう言われて悪い気はしないな」

 クロエとジラールはまたノロケが始まるのかとうんざりした顔していた。

 するとオルマが糸を繰り出し、目の前のアーペルを拘束する。

 ミュラーは間髪入れず眼前のアーペルの顔を掴み、焚き火の中にその顔を叩きつけた。

 思わぬ二人の行動にクロエは慌てふためく。

 ジラールはクロエのその肩を叩く。

「冷静になれ、アーペルがあの時着てたドレスは確か黄色っぽかった。少なくとも黒じゃねぇ。ミュラーのカマかけに引っかかったんだ」

 焼かれるアーペルに止めを差したミュラーが周囲を警戒しながら、叫ぶ。

「敵の特殊部隊が夜襲を仕掛けている! 警戒態勢を取れ! 全く所帯持ちに色仕掛けとはとんだクズ共だ」

 オルマはなんだかミュラーの言葉に棘があるような気がしてならなかったが、周囲を自慢の糸で警戒した。


 すると男が数人、姿を現す。

 トワレの兵ではない。

 身のこなしからグラスランドの、しかもただの兵士ではないことを、ミュラー達は察した。

 クロエやジラールは咄嗟に身構える。

 ミュラーは連中を見定め、呟く。

「以前は敵地で遅れをとったがここは俺達のホームだと言うことを忘れるな」

 ミュラーが手のひらを合わせて掌印を結ぶ。

 すると大地から凍りの氷柱が発生し、男達を串刺しにする。

「凍殺せ」

 ミュラーの言葉とともに、串刺しにされた男達は一瞬で氷塊し、砕け散った。

 するとミュラーの背後にもう一人の陰が忍びより、あっという間にミュラーの首をナイフで切り裂こうとした。

 するとその腕がぼとりと落ちた。

 ミュラーが氷雪魔法で腕を氷の剣のように変化させ、切り落としたのだ。

 すかさず、その腕で男の首を切り落とす。

「前に特殊部隊と戦った時に、学習させて貰った。対近接戦の対策はすでにできている」

ミュラーは倒した兵士達を見定め、仲間の安否をオルマに確認する。

「みんな無事か?」

「そ、それがデルヴォーだけ反応がないの……」


 この襲撃で皆が集まった。

 普段チームの空気であるはずのデルヴォーだけが戻ってきていない。


 空気なのは事実だが、デルヴォーの役割は大きい。

 彼の高度な複体修術による治療がなくては大怪我が致命傷になる。


 空気であるデルヴォーの役割は地味だが、その貢献度はチームになくてはならない存在であった。


 実は派手に立ち回るミュラーよりよっぽど貴重な存在だった。


 ミュラー達は喪失感と不安に駆られながら、この戦場で戦うことを強いられた。

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