103話 ゲリラ戦
グラスランド軍の猛進は続いた。
首都を防衛する南北のの要塞とアルプ山脈は攻略され、首都は戦火に晒された。
今はガラ空きの北部地域が今まさに蹂躙されている。
ミュラー達はトワレ近郊の街で必死の抵抗を続けていた。
市街戦に持ち込み、軍服を捨て、避難民へ偽装し、油断しているグラスランド兵に不意打ちを敢行した。
ゲリラ戦である。
家屋の二階の窓に潜むミュラーはぼやく。
「卑怯者のする戦い方だな……」
ミュラーの言葉に、お前が言うか、という顔をして反応したジラールが反論した。
「仕方ねぇだろ。真っ向からやっても相手に何ねぇんだから。生き残って勝つためだ」
グラスランドの戦列にジラールは指揮官に狙いを定めて、ハーミットを放つ。
『こちらミュラー、敵指揮官を始末した。クロエ、フェンディは混乱した敵小隊を叩いてくれ』
隊列を乱した敵小隊にクロエとフェンディが斬り込む。
思わぬ襲撃に動揺した敵小隊は僅かな抵抗をして、その場から退却する。
市街の広場に群がる本陣に合流するつもりだろう。
『オルマ、奴等を逃すな』
退路はすでに絶っていた。
オルマが張り巡らした糸が逃げのびた敵兵達を拘束する。
『アーペル、デルヴォー、今だ」
街路樹に潜んでいたアーペル達が挟むような形で二方向から弓矢の嵐を浴びせる。
オルマの糸に縛られた敵兵はなす術なく、一方的に矢の餌食となる。
敵の骸を観察したミュラーは嘆息する。
「これで何度めだ……。数ヶ月前は万の軍勢に立ち向かっていたのに、今は十人程度な敵兵を姑息な手段で仕留めている。グラスランド軍は何十万といるんだぞ。キリがない……」
ミュラーの弱音にジラールが窘める。
「ぼやくな、何としてもここでグラスランド軍を足止めなきゃならねぇ。今ブシュロンが敵の食糧部隊を叩いてる。時間を稼がなきゃならねぇ」
『こちらオルマ、敵軍がベヒーモスを展開させたよ! 場所は南通り』
ミュラーが両手を上げてやれやれといった具合に手を上げている。
仕方なさそうにジラールは自身が鍛冶で造り上げた剣をミュラーに手渡した。
「もう残り少ねぇ。確実に仕留めろよ」
ミュラーは溜め息をついて、ジラールによって鍛えあげられた剣を受け取る。
「それは奴等に言ってくれ。剣は消耗品じゃないと」
ミュラーは窓から駆け出し、オルマの指示された方角へ向かった。
『こちらミュラー、敵ベヒーモスを片付ける。アーペル、デルヴォーは援護してくれ。オルマは増援が来ないか、索敵してくれ』
屋根づたいを慎重に走り抜け、ミュラーは嫌でも目につくベヒーモスの巨体へと近づく、ベヒーモスの歩く振動が建物を大きく揺るがす。
その巨大な影に忍びよりながら、心の中で思う。
こいつが暴れ回ったら街が吹っ飛ぶ。
呑気に市街戦なんてできんぞ。
ミュラーがベヒーモスに接近する前に、オルマが予め仕掛けていた落とし穴で、ベヒーモスの足止めをした。
すかさずアーペルが魔法を展開し、大きな植物のツルがベヒーモスの身体に纏わりつく。
ベヒーモスの直衛にあたっていた兵士達はデルヴォーが弓矢で殲滅する。
ベヒーモスは眼下で受けた攻撃に激怒し、その巨体をもって薙ぎ払おうとした。
突如、頭上からミュラーが現れ、ベヒーモスの太い首元に剣を突き刺す。
ミュラーはその剣に力を込めて深く差し込み、剣へと魔法を発動させる。
「爆ぜろ」
青白い閃光が瞬き、周囲が光に包まれる。
同時に雷鳴のような音が鳴り響く。
その白い輝きの中で黒い巨大が悲鳴のような絶叫を上げる。
市街に柱のような光が現れたことにより、グラスランド軍は慌ててその場に駆けつける。
しかし光の跡には力なく倒れ伏したベヒーモスの残骸だけが残っていた。
すでにミュラー達は街の地下道へと逃げ込んでいた。
ミュラーは呆れるように呟く。
「どうせいつものパターンだ。レッドドラゴンの空襲が来るぞ。アイツら学習能力がないらしい。地上戦を諦めたら、すぐに空爆だ。それでいくつ町を焼いたと思ってる」
苛立ったジラールはミュラーに促す。
「文句言っても仕方ねーだろ。すぐに次の町へ移るぞ。追っ手が来るかも知れねー」
ミュラー達はすぐに次の町へと向かった。
ミュラーはこの途方もない消耗戦に辟易していた。
仕方あるまい、以前はリアムの派手な仕掛け、大胆ともいえる戦いを繰り出していたのだ。
それにミュラーは胸を躍らせていた。
だが今はしがない抵抗戦。
ベヒーモス一匹倒したところで戦局が左右されるわけでもない。
しかしジラールの言う通り、やるしかないのだ。
生き残って勝つためには。
次の町へと駆け出すミュラー達。
だが、ミュラー達は知らなかった。
今この時、リアムが封じ込めていた悪魔が起き出したことを。
焼き焦げたアルプ山脈の丘で焦熱のバリオスは目を覚ます。
その瞳は憤怒で真っ赤に染まっていた。
そしてその心は西大陸を焼き尽くすことを固く決意していた。




