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1話 少年時代

 この作品は講談社運営サイトノベルデイズで完結された(38000アクセスの高評価を頂きました)ものなので、ちゃんと完結して物語が終わるので安心してお読み下さい。


 最強英雄ミュラーの若かりし頃のアウトローな物語を是非楽しんで読んでみて下さい。


 平均星5の高評価を頂いてます。


 気軽に、星マークをしていただけると作者は嬉し泣きします。


 執筆のガソリンを注いで下さい!


 

 寒さにふるえた者ほど太陽をあたたかく感じる。

 人生の苦難をくぐった者ほど生命の尊さを知る。

 苦難の歳月によって人の魂は鍛えられ、磨かれていく。 

  



 




 西の果ての紛争国家がひしめく国々、争いが絶えない小さな世界に一つの青く、気高しい魂が舞い降りた。


 それは強い運命に結ばれた存在だった。

 その世界にとっては一つの希望であった。

 不運は舞い降りた先であろう。



 アジムート=ルクルクトは偏屈な男だった。

 彼は国の将軍だった。

 彼は軍才に秀でていた。百の兵で倍の千の軍勢を蹴散らすことも彼には造作もないことだった。王からも民からも信頼された将軍だった。

 しかし、彼は偏屈だった。曲がったこと嫌い、融通が利かなく、竹が割った、いや樹齢千年の巨木が真っ直ぐ割れたような男だった。 

 ある敵国の間者がアジムートを寝返らそうと酒宴を設けた。彼の好物な酒に食事、彼の好みの美女たちをあてがい、アジムートの嗜好品である名剣を贈呈した。

 しかしアジムートは偏屈な男だった。

 この酒宴が敵の流言と悟ると、献上された名剣を叩き折り、好物の料理を土足で踏み散らかし、好きな酒瓶を振り回して女たちの頭をかち割り、敵国の間者の首をねじり切った。 

 あたりは一瞬にして血の酒池肉林になり果てた。

 そして彼の行動は周囲を戦慄させた。

 即座に手勢を引き連れて、敵国に侵攻し、敵軍を撃破し、首都を殲滅し、かの国の王の首をはね、その玉座の間で宴を始めた。

部下の一人がよりによって、今この場で酒あおる理由を尋ねた。

アジムートは上機嫌に答えた。


「せっかくの旨い酒が台無しにされたから口直しだ」


 そんなアジムートにも妻子がいた。

 妻の名はエルメス、彼女は貴族の生まれで、王国宮廷魔導士として魔法学の研究をしていた。

 アジムートとは正反対の生き方をしていたが、幸いアジムートとは幼馴染ということもあり、扱い方を心得ており、夫婦のきっかけが政略結婚であっても仲睦まじい暮らしをしていた。

 子供に恵まれた。

 三男二女と幸せな家庭は彼女の努力のおかげであろう。

 夫が戦場を駆け抜けていく中、子育てはエルメスが取り仕切っていた。

 彼女は夫の性格と将来を危惧し、特に教育熱心だった。

 子供たちは男女関係なく、幼いうちに、剣術、兵法学、魔法学、一般教養、宮廷作法、歴史学等、文武の英才教育を施した。それぞれの分野の一流の専門家を呼び、専任の教師として子供たちの才能を磨かけさせた。

 剣術は外国でも名声のある剣の達人に師事させ、魔法は彼女の師を呼び寄せて、修行と呼んでも変わりない教育を子供たちに徹底した。

 勿論母としての愛情を惜しみなく注いだ。

 子供たちはそんなエルメスを愛していた、そして母の期待に応えようと、必死に武術、勉学に励んだ。


 努力は実る。

 子供たちはその才能を見事に昇華させた。


 長男は武勇に秀でた人物として右に並ぶものなしと呼ばれた。

 次男は知勇に優れた人物として古今の兵法に精通した。

 長女は礼式に傑出し人物として周囲を圧倒させた。

 次女は文化に抜きんでた人物としてその才を輝かせた。


 子供たちは一つの分野に突出し、母の期待に応えた。

 いくら多くの分野に教育を施したところで才能が磨かれるのには限りがある。

 エルメスもそう思っていた。


 しかし例外がいたのである。

 アジムートの三番目の男子である。

 その子は他の子どもたちと違っていた。

 剣術を学べばその師範すら打ち負かし、魔法学に師事すればその教師の扱えなかった魔法を駆使し、教育分野の専門家たちでは手に負えない程、才能に磨きをかけた。

 特に彼は母になつき、エルメスの研究していた魔法学を引き継ぎ、独自の魔法を模索していった。

 しかし彼の興味は鍛錬でも勉学でもなく、英雄たちの物語や冒険譚であった。

 母に頼み、世界中の伝説や伝記を読み、心踊らしていった。

 他の兄妹たちと違い、彼だけは諦めていなかった。父の役に立つことではなく、自分だけの生き方を。


 少年は冒険者になりたかったのだ。


 しかし運命は残酷なもので彼が13才時、父アジムートの命で従軍されることになる。

 それは彼の初陣としてはあまりに苛烈な戦いであった。


 敵軍の罠にかかり、突出した自軍が上下左右に囲まれ、退路もない絶望的な戦況だった。

 上の兄たちが顔を青くしている。しかしアジムートだけは違った。

 彼は涼しい顔していた。

 すまし顔で下の兄に聞く。

 「敵本陣はどこか」

 震え声の上の兄が答える。

 「南から大軍をもってこちらを猛追しようとしております……」

 そして父はにやりと笑った、そして兵将たちに檄を飛ばした。

 「そこにあいかけよ! わかりやすいわ! 帰るついでに大将首を打ち取れい!!」

 少年は父の戦の悲惨さを痛感した。

 初めて人を殺めること、殺されるかもしれないという恐怖は最初こそあったが、こうなってはなにもかもが麻痺してしまった。


 生きて帰りたい。


 少年だけでなく、上の兄たち、いやアジムートに従う兵たち全員がそう心に刻んだ瞬間だった。

 絶望な状況で士気を上げられるのが父の取柄なのだろう。


 そうしてアジムートの驚愕の中央突破が敢行された。

 敵軍がどよめいた。

 そうであろう、まさか孤立した軍が反転して、猛烈な勢いで突貫していくのだから。 

 アジムートの行軍に意表をつかれ、動揺した敵軍が狼狽したところを、容赦のない中央突破が破竹の勢いで敵軍を蹂躙していく。

 アジムートは高らかに笑った。

 「こいつはいい! 前後左右、皆敵兵ぞ、実にわかりやすい! かかれい! かかれい!」

 少年は敵の大軍めがけて駆け抜けた。両の腕で剣を奮い、無我夢中で戦場をひた走った。


 我に返る頃に我が家にたどり着いていた。何が起きたかは覚えていない。

 母のエルメスを抱きしめていたら、ぎょっとされた。

 血塗られた腰には大将首がぶら下がっていた。


 少年は幼い頃に抱いていた夢を叶えることを心から誓った。


 冒険者になる。父と同じ生き方をしてはならない。


 気高く青い魂が心に宿った瞬間だった。


 少年の名はミュラー=ルクルクト。


 彼は強い運命の元に生まれた人間だった。


 しかし生まれが不運であった。

最強魔術師ミュラーの始まりの物語です。

読者の皆様、もし少しでも気に入って頂けたなら、ブックマークを付けて頂けると作者は感涙します。



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