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アメリア姫はアイドルですので!

作者: 暮々多小鳥

密かにアイドル扱いされているお姫様と、自分に取り柄などないと感じている公爵令息が、ゴタゴタを経て和解するお話です。



「ちょっと……待ってください。婚約破棄?どうして……」

「うっ……僕の言葉でアメリア姫にそんな顔をさせてしまうだなんて万死に値するのですが、どうか許してください。僕はどうしても、アメリア姫と結婚はできません」


婚約者であるライネル様とはこれまで良い関係を築けていたと思っていました。少なくとも私は、結婚するなら彼がいいと思うほどには、彼のことを愛していたのに。


「どうしてですか?私に至らぬ部分があるのでしたら申してください、必ず直します!それとも、私のことがどうしようもなく嫌いなのですか……?」

「ぐぁあ!!神よ、アメリア姫を泣かせてしまった愚かな僕をお許しください!そして同志達よ、どうか僕を殺してくれぇ!!」

「そ、そんなに私のことが嫌いなのですか!?」


死を望むほど私との結婚が嫌だったなんて……ここまで彼を苦しめてしまった私が婚約破棄を拒めば、彼を更に苦しめてしまうでしょうか。


「いえ、アメリア姫!僕は貴女のことが嫌いなわけではないのです。むしろ愛が行き過ぎるというか……」

「ど、どういうことですか?私との結婚が嫌なのでしょう?」

「いえ、いいえ、僕もアメリア姫と結婚できたらどれほど幸せだろうと、その時僕は生きていられるんだろうか、幸せすぎて昇天しているのではないかと思うほどです。ですが、それは不可能。その一線を超えてしまうことは大罪なのです!」

「何の罪に問われるというのですか!?」


一体どうしてしまわれたのでしょう。表現や反応が大袈裟なのはいつものことですが、泣いたり鼻血を出したりするのもいつものことですが……あら、いつも通りでは?


「とにかく僕はみんなのアメリア姫をこれ以上独占することなんてできません!」

「待ってください、本当にどういうことなのですか!?」

「アメリア姫はアイドルですのでぇ!!」


ライネル様は行ってしまわれました。

ぽつんと残された私と二つのティーカップ。……えっと、どうしましょう?



***



とりあえず自室に帰り、ぼーっとソファに腰掛けています。

婚約破棄を宣言されたとはいえ、正式に破棄されるのは双方の署名が入った書類を国王に提出し受理されてからです。今はまだ、婚約状態は続いています。


「姫様、リラックス効果のあるラベンダーティーです。……何か、ございましたか?」


良い香りのするお茶を差し出してくれたのは私の侍女エミィです。確かに香りを嗅ぐだけでも落ち着いてきた心地がしますね……


「ありがとう、エミィ。……私先程、ライネル様に婚約破棄の申し入れをされたわ」

「……?」


あら、おいしい。

ほっと一息ついてエミィの方を見ると、お口をパッカリ開けて固まっていました。あごが外れてしまわないか心配になってしまいます。


「エミィ……?」

「……あいつ、慎重にって言われてたのに……」

「……エミィ?」

「こほん、姫様、さぞお心を痛められたことでしょう。しかし姫様に非はございません。エミィが保証いたします」

「エミィ……」


エミィはとても私のことを大切に思ってくれています。いつも嫌な顔一つせずに私を支えてくれて、こうして私のことを心から心配してくれるのです。


「ありがとう、エミィ」

「……いえ、少しでも姫様のお役に立てることが私の最大の喜びでございます」


こんなに私のことを思ってくれる侍女がいるなんて、私は幸せ者ですね。……ライネル様のことは、傷つけてしまっていたようですけれど……


「……エミィ、ライネル様はなぜ婚約を破棄されたのでしょう。やっぱり、私が何か嫌なことを……」

「姫様。それは絶対にありません。美しく優しく素晴らしい姫様が誰かを傷つけることなどございません。……申し訳ありません、少々用事を済ませて参ります」


エミィは私を優しく抱きしめました。幼い頃から私の世話をしてくれているエミィは姉のような存在です。昔は私がして欲しいと言って、よく抱きしめてもらっていました。今でもこうすると心が落ち着きます。


私から体を離すと、エミィは静かに部屋から出て行きました。私は名残惜しく思いながら、ラベンダーティーをひと口飲んで、ため息を吐きました。



***



エミィは全速力である人物の元へ向かっていた。侍女として、王宮の中をバタバタと走ることはできない。最低限の配慮をしつつ、エミィは人生で一番のガンダッシュをしていた。


扉の前に辿り着き、脇に控える護衛に声をかける……前に息をととのえる。護衛は必死の形相をしているエミィに引き気味だ。


「はぁ、アメリア第三王女殿下の侍女の、エミィと申します。はぁ……ディーンハイト第二王子殿下に、お目通し願います」


護衛が引きつった顔のまま中へ入って行き、ドアを開けてエミィを中へと通した。

部屋の主は執務の休憩時間なのか、今は窓際で優雅に紅茶を飲んでいる。


「エミィじゃないか。どうしたんだい、そんなに急いで。アメリアたんに何かあったのか?」

「ええ、そうですよ。アメリア様が……はぁ、ルソー公爵令息が、アメリア様に婚約破棄を申し出ました」

「……はぁ?」


余裕そうに微笑んでいた顔がポカンと口を開けた間抜けな顔に変わる。国宝級の美しい顔も台無しだ。


「……もっと先の予定だったよな?アメリアたんの考えとか慎重に聞き出して、アメリアたんが一番傷つかない形で婚約破棄しようって、あれだけ念を押したよな?」

「あの馬鹿……こほん、あのお方が先走ったのでしょう。アメリア様は大変お心を痛められております」

「は?何してくれてんだあいつ。アメリアたんを悲しませるとかこの国で最も罪深い行為なんだが」

「……婚約破棄を唆したのは殿下ですがね」


アメリア・ロラン第三王女殿下は王家親族、貴族、平民問わず多くの者から愛されている。


まるで天から舞い降りた天使のように、美しさと愛らしさを併せ持つ目を惹きつける容姿。

王族として非の打ち所がないような立ち振る舞いと完璧な礼儀作法。

物腰柔らかで身分を問わず誰にでも優しく、相手に親身になって話しかける様子は一度接してしまえば好ましく思わないほうが不可能である。


ディーンハイト第二王子殿下を筆頭に、アメリア姫を溺愛する一部の人々は「ファンクラブ」なる組織を作り、アメリア姫の情報を共有し、アメリア姫が幸せに過ごせるように尽力し、何より彼女の素晴らしさを語り合い、「アイドル」として崇めるということを本人の知らぬところで行っていた。

「アメリア姫はみんなのもの」「アメリア姫の笑顔のために」これがファンクラブの合言葉である。


ファンクラブ会長を自称するディーンハイトはアメリア姫に関する全ての情報を、エミィをはじめとしたファンクラブ会員達によって入手している。

そしてファンクラブのあり方とファンクラブ会員達の振る舞いの指針を決め、アメリア姫のために公務以外の時間の大半を割いている。


今回、ライネル・ルソー公爵令息に圧をかけて婚約破棄を目論んだのもディーンハイトであった。

そもそもライネルもファンクラブの一員である。婚約自体はファンクラブができる前、二人の幼少期に決まったことだったためディーンハイトが介入するのは不可能だった。


アメリア姫が彼と結婚してしまえば、アメリア姫はルソー公爵家に嫁入りすることになり王宮を離れてしまう。つまりディーンハイトと会える機会がめっきり減る。それに何より、アメリアたんが誰かのものになるなんて絶対に許せない!!

というディーンハイトの強い思いによって、アメリア姫の婚約破棄はファンクラブの会員達によって密かに進められていた。


ライネルもまた、自分なんかがアメリア姫を独占するなんて烏滸がましすぎると謙遜していたため、本人同士による円満な婚約破棄を予定していたのだ。


「やはり、アメリア様に告げずにこんなことをしていたのが間違いだったのではないでしょうか」

「だってアメリアたんがファンクラブの存在を知ったら引かれちゃうかもしれないだろ?それに何としてでも結婚は阻止しなければならなかったんだ。お前だってあくまで王宮で王家に仕えているんだから、アメリアたんが結婚したら離ればなれだぞ、そんなこと耐えられるか!?」

「それは……まあ……」


ディーンハイトも自分のためだけに動いていたわけではない。アメリア姫が行き遅れになることを良しとしているわけではないのだ。

婚約を破棄したのち、王家に婿入りできるような婚約者候補を見繕ってアメリア姫と気が合いそうな者を選ぼうと考えている。自分もアメリア姫も王宮には残るつもりである。現王である父も、王太子の兄もアメリア姫を溺愛しているから許してくださるだろう。


アメリア姫は第三王女。長女は他国に嫁ぎ、次女は国内の貴族と婚姻した。その段階で政略結婚が必要な繋がりや調整もなかったため、アメリア姫の結婚はかなり自由に許されていた。

歳も近く気が合いそうだということでルソー公爵令息があてがわれたが、それも本人達が気に入れば結婚すれば良いし、やはり嫌だとなれば破棄すれば良いという緩い婚約だ。

この婚約が破棄されたとて、大きな迷惑がかかることはなかった。


だからこそ、ディーンハイトがここまで好き勝手に動いていたのだが、当のアメリア姫が傷ついているとなれば話は全く別だ。


「とにかく、まずはアメリアたんに話を聞かないと……アメリアたんがライネルが良いと言うなら私達はそれを全力で祝福するだけだ。……アメリアたんの幸せが一番だからな。ただ困惑しているようなら私がアメリアたんを説得する。あんなヘタレのことは忘れろとな」


ディーンハイトは立ち上がるとエミィを連れてアメリアの部屋へと向かう。


「あの、殿下、まだご公務が……」

「そんなの後だ!陛下もアメリアたんの一大事だと知れば許してくださる!」



***



「はぁ……」


ため息が出てしまいます。

本当に、どうして急に婚約破棄だなんて言われてしまったのでしょうか。エミィは何か知っている様子でしたけれど……教えてはくれませんでしたし。


「アメリア姫様、シェフがこちら、マドレーヌを焼いたそうですので、よろしければ……」

「まあ、美味しそう。ありがとうカミーユ」


侍女のカミーユが私の前に焼きたてのマドレーヌを置いてくれました。ふんわりとしていて美味しそうなマドレーヌです。ほんのりバターの香りがして良いにおいですね。


「うん、美味しいわ。後でシェフにもありがとうと伝えてくれる?」

「はい、かしこまりました」


カミーユもシェフも、きっと落ち込む私に気を利かせてくれたのでしょう。

周りの人達にも迷惑をかけてしまって、本当に私は駄目ですね。ライネル様もこんなところが嫌になったのでしょうか。


「ライネル様に、嫌われていたなんて……」

「あ、あの、ルソー公爵令息様は姫様を嫌ってなどいないと思います。あっ、申し訳ありません私なんかが差し出がましい……」

「いいのよ、カミーユ。……私とお話ししましょう。どうしてカミーユは、ライネル様が私を嫌っていないと思うの?」

「あ、はい!」


あわあわとしていたカミーユですが、私に呼ばれて近くまで来てくれました。


「あの、ライネル様は、私達の同志で、姫様のことが大好きで、あのぅ……」

「同志?」

「あっ、これって言っちゃ駄目なことだったっけ!?いえ、あの、ライネル様は姫様の幸せを一番に考えておられるはずです!」


同志、といえばライネル様もそのようなことを仰っていましたね。カミーユも何か知っているのでしょうか。

……少し申し訳ないですが、情報を聞き出してみましょう。


「カミーユ。私が何かしてしまったのならライネル様に謝りたいのです。そのためにも、何故婚約を破棄されたのか、教えてくれませんか?」

「あぅ……ひ、姫様のご命令であれば……」


こうしてカミーユは「ふぁんくらぶ」なる組織の存在を教えてくれました。


私のことをとても大切に思ってくださっている方々が集まって、私のためを思って行動している組織ということですよね?少し恥ずかしいですが、慕ってくれる方がいることは嬉しいことです。

でも、それがどうして婚約破棄に繋がるのでしょうか。


「えぇっとですね……私達はみんなが姫様と関われるように、そう、「不可侵条約」のようなものを結んでおりまして……行き過ぎた行為をしないようにしております」

「つまり、結婚はその「行き過ぎた行為」になると?」

「はい。あ、もちろん第二王子殿下も色々と考えてはいると思うのですが……あ」

「……お兄様が関わっているのですね?」


私のことをとても可愛がってくれるお兄様は私も大好きですし、人の上に立つ者として尊敬もしているのですが……ちょっとお話を聞かなければならないかもしれません。


「アメリアたん!じゃなかった、アメリア!お兄様が来たよ!大丈夫かい!?」


あらまあ、丁度いいですね。


「お兄様?えぇ、私は大丈夫ですわ。それより、すこーし、()()()()致しましょう?」

「ア、アメリア……?」



***



本当にこれで良かったのだろうか。

王宮から公爵邸へ帰る馬車の中で、ライネル・ルソー公爵令息はひどく悩んでいた。


アメリア姫を悲しませてしまった。もう死ぬしかない。でも、死んだらアメリア姫には二度と会えなくなる。そもそも、何故婚約破棄をしようと思ったのだったろうか。


ライネルがアメリア姫に出会ったのは物心ついてまもない頃だった。


第一印象は「天使がいる」だったと思う。今は美しく可愛らしい、神が創り出した最高傑作なのだが、幼い頃はそれはもう、もうとんでもない可愛らしさと純粋さで近づけないほどだった。

ライネルは呆然と彼女を見つめることしかできなかった。


何度か交流する機会があり、神々しさに目をやられながらも彼女と話をした。

アメリア姫は性格も天使だった。優しく、よく笑い、こちらに興味を持ってくれる。

どうして好きにならずにいられるだろうか。


婚約したことを告げられた時には喜びよりも衝撃と疑問が勝った。


何故、自分が。


ルソー公爵家はロラン王国内でも三つの指に入るほどには高位の貴族だ。確かに家柄的には自分は適任なのかもしれない。

だが、「ライネル」個人の魅力や能力としては、アメリア姫の足元にも及ばない。


特別頭が良いわけでも、容姿が良いわけでも、人付き合いが上手いわけでもない。性格は卑屈で面白くないし、人望が厚いというわけでもない。

自分では釣り合わない。そう思っていた。


それでもアメリア姫と過ごす時間は甘美で、この上ない幸せだった。

アメリア姫は自分のことをどう思っているのだろうか。いつも笑顔で楽しそうにしてくれているが、本当はつまらないのではないか。後からそんな不安が湧いて出るが、それでも、この幸せを、愛する人と共に過ごせるこの日々を、手放すことはできなかった。


だが、ファンクラブに入って考えが少し変わった。

こんなにもアメリア姫を慕っている人がいる。自分以上に、想いを寄せている人がいる。

自分はたまたま家柄が良かっただけで、アメリア姫の婚約者という特別な立場を得ている。それでいいのか?自分だけ不公平ではないか?というか、自分なんかと結婚してしまってはアメリア姫を穢すことになってしまうのでは?


「やっぱり、これが最善だ」


アメリア姫にはもっと相応しい人がいる。自分だけ不公平に与えられた立場に甘えるわけにはいかないのだ。


「……ライネル様ー………」


アメリア姫の声が聞こえる。

空耳だろう。未練がましい自分も嫌になる。


「……ライネル様!」

「え?」


カーテンを開けて外を見てみれば。

馬にディーンハイト殿下と相乗りをした、アメリア姫がそこにいた。



***



私達は王宮に戻り、今は客間にて向き合っています。

この場にいるのは私、ライネル様、お兄様、エミィです。後からお父様も来ると聞きました。

ライネル様は困惑顔で落ち着きなさそうにしています。エミィは少し申し訳なさそうに端に控え、お兄様は今にも泣き出しそうな顔で縮こまっています。


さて、何から話しましょうか。


「……まず、ライネル様。ちゃんと伝わっていなかったかもしれませんので言いますね。私は、ライネル様と婚約を破棄したくありません。私はライネル様をお慕いしております」

「え?……え!?」

「それから、お兄様。ちゃんとライネル様に謝ってください」

「はい……」


あの後、お兄様から「ファンクラブ」の詳しい説明と今回の婚約破棄について知っていることを教えていただきました。


「ファンクラブ」は少し行き過ぎな気もしますが、まあ私にとっては慕ってくださっている方が多くいることは嬉しいことなので、ほどほどにと言っておきました。

婚約破棄の件についても、お兄様が目論んだことではありますが実際にしようと決意して実行したのはライネル様です。お兄様に非はさほどありませんが、それでもライネル様を(そそのか)したことには変わりありませんので本人にちゃんと謝るようにと言いました。


「すまない、ライネル。お前の迷いを利用して、アメリアを王宮に残そうとしたんだ。その結果、アメリアたんを悲しませることになって……うぐぅっ、大罪を犯した私を殺してくれぇ!!」

「どうしてみなさん死にたがるのですか!?」


私では気がつけなかったライネル様の悩みを見抜いていたお兄様はすごいと思うのですが、それなら私にも教えてほしかったのです。

それに、エミィも一緒になって私にそのことを隠して婚約破棄に動いていたなんて。


「エミィも、ライネル様に謝ってください」

「はい、ルソー公爵令息様、そしてアメリア様、申し訳ございませんでした」


エミィが深々と頭を下げます。

本来であれば伯爵令嬢のエミィは不敬罪で罪を問われてもおかしくありません。私はともかくライネル様が訴えれば、私が擁護したとしてもこのまま王宮で働くのは不可能でしょう。


「……ライネル様、どうか、エミィのことを許していただけませんか。私にできることなら何でもいたします」


これは私のわがままです。ライネル様にエミィを許す理由はありません。ですが、エミィは私のことを思うあまりにこのようなことをしたのですから、その非は私にもあります。


「いや、そもそも僕が自分の自信のなさから婚約破棄をしただけですから、罪に問おうだなんで思っていませんよ。あの、それより、アメリア姫が、僕のことを……いや、婚約を破棄したくないとは、どういう……だって僕なんか、何の取り柄もないですし……」

「……ライネル様はいつも、ご自分のことをそのように思っていらっしゃったのですね。ライネル様に取り柄がないだなんて、そんなことはありませんわ」


ライネル様はとても優しいお方です。私がいろんなことを聞いても、はにかんで何でも教えてくださいます。私が話している時も嬉しそうに微笑んでくれますし、私といる時に嫌な顔をしたことなど一度だってありません。

それに、「自分だけ不公平なんじゃないか」なんて考えて婚約破棄までしてしまうくらい、誠実な方です。


「私に釣り合わない、なんて悲しいことは、どうか言わないでください。私だって、そんなに出来た人間ではありません」


実際、近くにいるのにライネル様が悩んでいることに気がつけませんでした。


「ライネル様がどうしても、婚約を破棄したいとおっしゃるのであれば私も受け入れます。でも……少しでも、私と、結婚しても良いと思ってくださるのなら……婚約破棄を、取り消していただけませんか」


ちょっと恥ずかしいです。ある意味告白のような言葉ですので。


すごく、心臓がどきどきしています。

ああ、やっぱり、私はライネル様のことが好きなのですね。

言葉にすると自分の気持ちがよくわかります。一応本人の了承を得ていたとはいえ、幼い頃に決まった婚約です。これまでライネル様と結婚するのは当然だと思っていました。でも、それが当然ではないと知った時……私はライネル様がいいと強く感じました。


「僕は、」


ライネル様の透き通るような青い瞳から、涙が溢れます。


「僕は、これまで、婚約者という立場に甘えて、アメリア姫と親しくできる幸せを甘受していました。本当に僕でいいのかと思いながら、でもアメリア姫と一緒にいられることが嬉しくて、誰にも、渡したくなくて……僕で、良いんですか?」

「ライネル様が良いのです」


ぼろぼろ泣き始めてしまったライネル様にハンカチを差し出します。私も、嬉しくて少し涙が出てしまいます。

何故かこの場で一番大泣きしているのはお兄様でした。



***



「それで、アメリアとライネルの仲は深まったのか。まあ、本人達が納得しているのであれば私がどうこう言うつもりはない」

「はい……」


アメリア姫とライネル、エミィはすでに退出し、残されたディーンハイトは父である国王陛下と向き合っていた。


「……ひどい顔だな」

「ずみばぜん」


ディーンハイトはまだ泣いていた。顔は腫れきって綺麗な顔は見る影もない。

まあ、あれだけ溺愛している最愛の妹を自分が傷つけたとなればここまでやられるのも納得だ。その上、結婚すれば離れてしまうことが確定したのだから。


「まあ、アメリアにも言われたようだが、今後はその「ファンクラブ」活動もほどほどにすることだな」

「はい……」

「そもそもお前、アメリアに活動の全容を伝えていないだろう」


ファンクラブの輪は王宮内に留まらず、いまや市井にまで広がっている。それもこれも、ファンクラブ会員が次々と周りの人々を勧誘し、有料で「グッズ」を売っているからだ。なんでも、「ブロマイド」なる写真が一番人気だとか。


「金儲けまでしているとなると、アメリアが許すか分からんぞ」

「ずびっ……得た資金は全てアメリアたんに還元させるので、会員達も本望ですよ!」

「だからそれを本人に言えという話だ」


どうにも懲りてなさそうな息子に一抹の不安は感じるものの、彼も一応身を弁えて誰かに大きな迷惑をかけることはないため、今はまだいいかと考えを放棄した。

国王陛下もまた、ファンクラブが販売しているグッズの購入者だった。


アメリアが結婚したら、自分も隠居してルソー公爵家に通い詰めよう。


そう考える国王陛下もまた、ディーンハイトとの血のつながりを感じさせるような人であった。



***



……ところで、「アイドル」って何でしょうか。

何故私がそのような扱いを……?


疑問は残りますが、ライネル様と仲直り?できたので良しとしましょう。




おわり


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