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ザシュッ
バタッ
地面に広がる鮮血。
自分の服がどんどん濡れていくのが感覚で分かった。
命が流れていくのが分かった。
「ハァ...…ハァ...…」
「お前に罪があったわけではない。
ただ、虫の居所が悪い俺の前に人気の無い路地を1人で歩いているお前がいた。それがお前が死ぬ理由だ。」
「ハハッ……ありがとう。」
「何故礼を言う。」
「ハァ...…ハァ...…
この世界は…私には…生き辛かった…
ずっと…幕を…引きたかった……でも…自分で引いてしまえば…残された人に…感じなくていい…責任を…感じさせてしまうかもしれない……」
「感じなくていい責任?」
「死んでしまう程…悩んでいたことに……どうして…気付いてあげられなかったのだろう…もっと…話を聞いていればよかった……って……ハァ...…ハァ...…
もし…私の…大切な人が…自分で自分を…殺してしまったら…私はそう思ってしまう……
そんな思いは…してほしくない……」
「ほう。だから誰かに殺してほしかったと?」
「そう……事故でもよかった……
他殺か…事故であれば……悲しむだけで済むと思うから……悲しませてしまうのは……申し訳ないけど……
もしかしたら…悲しんで…くれる人すら…いないかも知れないけど…ハハッ……」
どんどん流れていく。不思議と痛みは感じない。
「この時が来るのを…ずっと…待ってたの……
だから……ありがとう……」
何も思い残すことはないと思っていたのに、何故涙が出るんだろう。
瞼が重い。私はゆっくり目を閉じた。
「……」
◆
目の前に広がる情景を何の感情もなく、ただ見つめる男がいた。
男はこれまで何度も惨い景色を見てきた、作り出してきた殺し屋だった。
血の海に1人の女が倒れているくらいでは何の感情も抱かないのだろう。
"この世界は…私には…生き辛かった…"
プルルルッ
「もしもし、俺だ。今からそちらに向かう。」
◆
死んだ後ってどんな感じなんだろうと思っていたけど、意外と心は穏やかだ。
とても暖かい。高級羽毛布団に包まれているみたい。
「……ん?」
ピッ…ピッ…ピッ…
私は横になっていた。
ここはどこだろう。
天国?地獄?死後の世界?
ガラガラッ
コツ…コツ…コツ…
誰か近づいてくる。
「目が覚めたか。」
「あ、あなたは...」
現れたのは私を殺した人だった。
「あなたも死んだんですか?」
「俺は死んでいない。お前もな。」
「え?」
「単刀直入に言う。俺と結婚してくれ。」
「は?」
私を殺した人に求婚されている理由が分からないし、そもそも動けず、横になっている状態の人に対して言うことではないだろう。




