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魔女と狼は月下で笑う  作者: 庄司 篁
落月 試験と事件
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第75話 真犯人の正体

 オリオール姉妹による、ソフィ監禁事件。

 その監禁事件から一夜明け、週末の休みとなった。


 エリーヌとクロエは生徒会の動向から、第三者による投書があったことに気が付いた。

 その第三者は監禁があったことを知っているからこそ、投書を出せたのだ。

 つまりは他に、事件について知っている人物がいる。

 それはおそらく、真犯人に他ならない。

 

 その真犯人について、実際に行動に及んだ犯人であるオリオール姉妹は、知っている可能性が大いに高い。

 そういうわけでエリーヌは、姉妹との接触を図った。


 オリオール家に早馬で送った手紙は、その日に帰ってきた。

 手紙はオリオール家当主である双子の父から直々に返ってきた。

 『どうか娘たちをお助け下さい』と。


 母から許可をもらい、エリーヌは後日オリオール家の屋敷へと足を運んだ。

 さすがにクロエは連れて行けないので、エリーヌと付添でカミーユを連れてきた。

 屋敷に着くと、厚く歓迎された。

 オリオール姉妹は元々、エリーヌと接触したいがためにサロンへの加入を希望したのだ。

 しかし歓迎が手厚いのは、そういった前々からの思惑とは他に、つい最近のことも含まれていることだろう。


 使用人に案内された先の客間で、エリーヌは双子と対面をした。

 横には当主である彼女たちの父も同席している。シリル・ルビア・オリオール男爵だ。

 二人は前日に大目玉を喰らったのか、反省の為か、薄く目を腫らしてずっと俯いていた。


「ようこそおいで下さいました」

「いえ、こちらこそ。急な申し付けに対応して下さり、誠にありがとうございます」

「いえいえ……ささ、お座りください」


 やけに腰の低い当主に勧められ、エリーヌはカウチに腰かける。


「私の娘たちが、大変ご迷惑をおかけしました」


 開口一番、双子の父がエリーヌに頭を下げてきた。

 やはり、派閥の評価について気にしていたようだ。彼もまた、父に取り入りたい一人なのだろう。

 そんな中で、エリーヌに火の粉が降りかかるようなことを娘たちがしたのだ。その上に、禁術まで使った。

 大目玉も当然である。


「シリル様、どうか頭をお上げください」


 エリーヌは頭を下げるオリオール家当主に向かってそう言う。


「此度の件、確かに、子女の一人を監禁するという危険な行為でございます。それについての咎めを、わたくしはどうすることもできません」


 生徒会が下した判断を、エリーヌただ一人の一存で取り消すことはできない。

 たとえ真犯人がいるとしても、彼女たちオリオール姉妹がしでかしたことを、最大限庇うつもりはない。

 つまりこの件に関して、エリーヌは権力で事をなかったことにするつもりは毛頭ないということ。

 彼はそういった行動を望んだのかもしれないが、そもそもそんな権利を、エリーヌ自身は持ち合わせていない。権力ですべてを解決しようなど、小賢しいことは考えていないのだ。

 したいのは、そんな回りくどいことではない。


「ただ、事情を話していただきたいのです」


 エリーヌはそう言って、先程から俯いたまま何も口を出さないオリオール姉妹を見た。


「彼女たちは……活発な子です。ですが、ご当主で御父上であるシリル様のことを、心から尊敬していると、わたくしは知っています」


 悪戯好き、という言葉は伏せておこう。きっと、彼女たちが余計に叱られるに違いない。


「そんな彼女たちが、シリル様の御名誉を傷つけるようなことを、するとは思えません」


 エリーヌの言葉に、ララとサラは揃って少し顔を上げる。


「活発な彼女達ですが、わたくし達上級生の言葉をよく聞き入れ、行動に移すことができます。過去、このような軽率な行動はしていませんでした」


 あくまで最近は、だ。少し前までは些細な悪戯が多かった。

 しかし、それに対する注意はちゃんと聞き入れていた。素直であることは確かだ。

 エリーヌの柔らかな言葉に、二人の目には少しばかり光が戻る。


「ですので、もし事情があるのでしたら、すべて話していただきたいのです。正当な主張をするために」


 エリーヌはそう言って、真っ直ぐ彼女たちの目を見る。

 その見透かすような眼を受けて、彼女たちは目を見開く。

 そして、わんわんと涙を流して泣きだした。

 その横で、当主で父のシリルは、とても申し訳なさそうな顔をした。


「ご、ごめんなさい、エリーヌ様……!」

「ごめんなさい……」


 ララとサラは、しゃくりを上げながら言葉を発した。


「エリーヌ様にご迷惑が掛かることは、知ってたんです。でも、でも……」


 ララはそこまで言うと、嗚咽を洩らして泣きじゃくった。

 そんな二人を見て、当主は意を決したように口を開いた。


「申し訳ありません。事情は私から説明します」


 そう言って、当主は事情を語った。

 

 曰く、オリオール家は、以前から財政状況が悪いらしい。

 とはいえ爵位に関わるほどではなく、親しい貴族家から借金をする形で補っている。

 それが発端。大した借金ではないものの、借金という名目であることには変わりない。

 オリオール姉妹は、それを重く捉えていたようだ。そして、それを突かれた。

 ある人物から、『従わなければ借金の返済期間を減らし、利子を増額する。間接的に、家を取り潰しにする』と脅されたようだ。


「これについては、私にも責任があります。彼女たちに、半端に借金について話すべきではなかった」


 エリーヌのような者なら、この脅しが大した効力を持たないことに気が付くだろう。

 そもそも、一令嬢にそんなことをする権利はない。借金があるのなら、そのための契約書に基づいて行われる。その契約書も、細かな制約があるはずだ。

 家同士でも様々な交渉があった上でなされている取引。それは、ただの娘がどうこうできる問題ではない上に、首を突っ込むこともできないだろう。

 オリオール姉妹は、それを知らなかった。

 だから、脅しに怯えてしまった。


「当家の分家筋に、写本を生業にしている者がいます。禁書も、等級が低いものに限り写本をしたことがあります。その一つを、知らぬ間に持ち出したようで」


 当主はそう言って、やれやれといった表情を浮かべた。

 禁書と禁術には危険度を示す等級がある。禁固の術は、申請さえすれば魔術書に当たる禁書を所持できる。

 勿論使用にも申請が要るが、姉妹がそういった手順を踏んでいないことは、当主のくたびれた顔を見ればわかる。

 流石にそこまでするとは思っていなかったのだろう。恐らく当主にも、何かしらお咎めがあったはずだ。


「それで、どなたに脅されたのですか?」


 エリーヌは、鋭い眼差しでそう聞いた。

 当主はその目を真っ直ぐ見返した。


「ブルレック家の、ご令嬢です」




***




 エリーヌはオリオール姉妹からあらかた事情を聴き終え、屋敷へと帰ってきた。

 帰宅したことを母に伝え、エリーヌはすぐにクロエの部屋に向かった。


「で、どうだった?」


 席に着くや否や、クロエはそう聞いてきた。


「やはり、家の事情を理由に脅されていたみたい。大した脅しではなかったようだけど、まだ幼い彼女たちは口車に乗せられてしまったみたいね」

「なるほどな。ま、実行犯であることには変わりねぇけどな」


 エリーヌの言葉に、クロエはそう返す。

 禁書を持ち出したこと、ソフィの監禁を実行したこと。

 これらの悪いことをしたのは事実だ。それは覆しようが無い。それについては、エリーヌも庇うつもりはないと宣言してきた。

 だが、咎められるべきは彼女達だけではない。その犯行の裏に隠れて、彼女たちを操っていた者も同様、いやそれ以上に処分を受けるべきである。


「それで、誰に脅されてたって?」


 クロエは紅茶を飲んで一息ついたエリーヌに、そう聞く。


「予想通り。――鳥蝶会よ」


 何の面白みもないと言わんばかりに、エリーヌは端的にそう言った。


 オリオール家の当主が言っていた、ブルレック家の令嬢。

 現在かの家で学校に通っている令嬢は、一人。

 レベッカ・サーシアム・ブルレック。

 鳥蝶会代表、イヴェット・カモミラ・アズナヴールの右腕である。

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