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魔女と狼は月下で笑う  作者: 庄司 篁
熟月 競技大会
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第58話 会議を終えて

 交流会では、特に何事もなく、有意義な話し合いを行うことができた。

 今後、情報を流してほしいということと、華月会の取る立ち位置について、代表者に共有することができただろう。

 ついでにこの交流会で、自分の陣営の者達が信用に足るであろうということも、再認識するにあたった。今の段階で、華月会に近しい者からの背反はないだろう。

 ただ、念には念を入れて、今後も注意深く彼女たちの動向を探っていくつもりだ。

 そして、そのための準備は既にできている。


 交流会が終了したところで、全員解散、下校となった。

 華月会のメンバーたちが集めた情報については、後日伺うことにして、エリーヌはクロエと帰宅した。


「それで、内通者は作れたのか?」


 今日はクロエの部屋で集まり、交流会で得たことを二人で共有している。


「まだよ。今日頼んだから、明日から彼女たちに作ってもらうの」


 今日はあくまで、内通者とエリーヌとの間に入る仲介者たちとの話し合いだったのだ。

 内通者はこれから始まる準備期間の直前に紹介してもらう。


「貴女の方は? 何か収穫があったかしら」


 クロエはこの交流会で、不正摘発のための準備をすると言っていた。

 既にいくつか情報を得たのかもしれないと思い、エリーヌはそう聞いた。

 すると彼女は、何やら渋い顔をして、溜息を吐いた。


「ちょっと面倒くせぇことになったかもしれない」

「それは……どういう?」


 エリーヌはティーカップを置いてクロエに聞いた。


「どうも、私ら側の人間でも、躍起になってる奴らがいるみたいなんだよ」


 彼女はそう言って立ち上がり、部屋に置いてあるカバンから何かを取り出して机に置いた。


「これは?」

「不正を行いそうなサロンのリストだ」


 まな板ほどの大きさの紙に、びっしりとサロンの名前が書かれている。


「こんなに?」

「ま、あくまで傾向だがな。ちょっとでも怪しいやつらは、全部ここに書いた」


 よく見ると、エリーヌがよく知っている、エリーヌ陣営のサロンの名前もあった。

 今日の交流会には参加していないが、エリーヌを信奉していると噂のサロンだ。


「で、問題なのは、このリストの中に貴族派閥じゃないサロンの名前もあるってところだ」


 彼女はそう言ってペンを取り出し、いくつかのサロンの横に小さく点をつけた。

 エリーヌの知らないサロンだ。

 これが、平民派閥のサロンなのだろう。


「どうもありがたいことに、今年は平民の方も期待値が高いらしい。そんな中で、前回のテストが決定打になったわけだ」


 ありがたいと言いつつも、クロエは心底面倒臭そうな顔をしている。


「言われてみれば、今年に入ってから、平民派閥の元気は有り余っているような気もするわね」

「だよな」


 クロエはそう言って、頭の後ろで手を組んだ。

 エリーヌにも心当たりがある。

 第一回目のテストの試験週間中の出来事だ。サロン集会での勉強会で平民派閥からの邪魔が入り、クロエの手を煩わせたあの一件。

 平民が貴族側に自ら牙を立てることはしばしばある。しかし、今年に入ってそれが多いような気もする。

 去年ならば、貴族の筆頭である派閥に、名前も知らない平民のサロンが突っかかってくることなどなかった。


「あたしらも、今年に入ってから、平民側への注意がかなり増えた自覚があった。とくに、下級生の貴族に対する嫌がらせが多い」

「中等部始めくらいの子たちならば、平民でもどうにかできると考えてしまうのでしょうね」


 入りたてで、まだ学校での派閥争いに大きく関わっていない段階の貴族の子たちならば、上級生という優位性をもっている平民は手が出しやすい。

 中々に卑怯な真似だが、貴族も貴族で同じようなことをしているので、お互いさまと言えばそれだけだ。

 とはいえ、例年に比べてそれが多いのは、クロエがそれだけ躍進しているという証左だろう。


「だから、あたしもお前と取引がしたいんだ」


 リストをとんと叩きながら、クロエは鋭い眼差しでエリーヌを見た。

 その視線を受けたエリーヌは、目を輝かせる。


「あら。狼さんは魔女(わたくし)に何をくれるのかしら」

「そんな契約みたいなのはしねぇよ」


 エリーヌのおふざけに、クロエはいつものように半眼で睨んだ。


「別に、大したことじゃない。自分の陣営の工作は、他人に通報されると痛手だろ?」

「そうね」


 エリーヌが採った手段のように、通報することで敵へダメージを与えることができる。

 もし味方に工作をしようとする者がいるのなら、自分たちで片付けるのが一番だ。


「だから、もしあたしの陣営で工作の動きがあったら、あたしの方にも伝達してほしい」

「貴女の方に"も"?」


 そのような係助詞が付くということは、クロエだけに伝達をすればいいというわけではないということになる。


「お前が他人を介して得た情報を、私が知ってたら不味いだろ。生徒会に通報したうえで、わたしにも知らせてくれればいい。それなら、噂を聞いた体で対処できる」

「なるほど」


 エリーヌは内通者に仲介人を挟んで情報を得る。それがクロエに漏れていたら、今度はエリーヌが怪しまれる。

 たとえ生徒会に通報した後だとしても、『自分の指示ではない』と主張できるだけの体裁があればいいのだ。

 風紀会の意思にそぐわない行動をするのは、恐らく平民派閥の中でも末端のサロンだろう。

 関わりがないというポーズをとるのは簡単だ。なので、タイミングだけ知ることができればいい。


「それで、一体わたくしに何をくれるの?」


 エリーヌは笑顔でそう聞いた。

 取引というからには、対価を求めなければならない。


「もちろん、お前の陣営の情報だ。不正をしたやつで、お前側のサロンのやつが居たら、お前に知らせる」


 お互いに情報を共有、ということだ。


「ついでにもう一つ、いいことを教えてやる」

「いいこと?」


 クロエはおまけの情報をくれるようだ。


「通報のシステムだ。今日、過去の風紀会の活動記録を調べて、面白い情報を見つけた」


 クロエはそう言ってニヤリと笑った。

 いい情報が手に入った、と言わんばかりの顔だ。


「生徒会に競技大会への不正を通報すると、大体その日か次の日には動きがある」


 彼女はそう言って、指を立てた。


「それで実際、不正が見つかったとして、一回目の場合は厳重注意で終わる」

「言われてみれば、通報した後のことはよく知らないわね」

「だろ?」


 クロエはそう言って、もう一本指を立てる。


「二回目も厳重注意。三回目からは、競技大会への参加資格取り消しか、数日の謹慎処分。まあ、やった不正の内容にもよるけどな」


 仏の顔もなんとやら。何事も三回同じことを繰り返せば、反省の色なしと判断されるものだ。


「過去に敵方の物品を壊した奴は、器物損壊として学校から弁償金を請求されてる。重いのはそれくらいだな。……平民なら絶対やらねぇけど」


 クロエはそう言って苦笑いを浮かべた。

 教養科目で使用するものは、すべて学校から貸与される。壊せばもちろん弁償だ。

 金に困っているものが、慰謝料など請求されてはたまらないだろう。


「もし事前に不正を見つけられず、例えば生徒が怪我を負うことがあれば、どうなるのかしら」


 すべての不正を、事前に見つけられるとは思わない。

 不正が成功してしまったうえで見つかったらどうなるのか。


「怪我をした場合、犯人が見つかれば停学処分。見つからなかったら、残念だが泣き寝入りだ。それもまた、不正の度合いによる」

「さすがの記憶力ね」


 エリーヌを差し置いて学年一位になっただけはある。

 しかし、確かにこれは使える情報だ。

 不正をした者は、懲りずに何回か繰り返す可能性がある。警告してそれを防ぐこともできるし、逆に再発を煽り打撃を与えることもできるわけだ。


「分かったわ。ではこちらも貴女の陣営の情報を得たら、貴女に知らせましょう」


 取引は成立だ。

 これで、競技大会の不正にも上手く対処できるようになるだろう。


「で、ついでに一つ相談があんだけど」

「相談?」


 取引ではなく相談と言って、クロエはあることをエリーヌに提案した。

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