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二度目の世界に挨拶を  作者: 藤宮
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第1話 未知の魔力


「私はこの準備室、好きですよ」


 錬金準備室はずっとお香が焚かれている。この匂いがとても優しくて、学校にいるという面倒くささを忘れさせてくれる。


「そう、アリスさんも先生と同じ気持ちよかったわ」


 安心というため息が先生から漏れている。


「この半年間、2人には辛い思いをさせてしまったのではと、先生は心配で」

「大丈夫ですよ、気にしないでください」


 私たちはこの学校において特殊な扱いを半年間と受けていた。原因は私たちが持つ未知の魔力で、発覚したのは半年前の戦闘魔術の授業中だった。


―――


 防御魔術を学んでいた時のこと。低級の攻撃魔術を用いて、隣の席の子と防御魔術を練習していた。周りが防御魔術を習得していく中、私のペアとリリーのペアは一向にそれができなかった。


「まずは感覚が重要ですから、先生が操って防御魔法を使わせます。その感覚に集中して繰り返すように。まずはライザンから」


 戦闘魔術の先生は私のペア相手のライザンを操作魔法で操り始めた。彼の手はぎこちなく、それでも正確に防御魔術を使おうとしているのが分かった。


「アリス、ライザンに向かって撃ってみなさい」


 私は先生に言われた通り、低級の攻撃魔術を撃ってみせた。放たれた光はライザンの腕に当たり、ライザンは軽く痛がる素振り見せながら杖を落とした。先生は操作魔術に失敗したのかと困惑しているようだった。

 断じて、私は低級より上の攻撃魔術は使っていなかった。私の攻撃魔術は他のクラスメイトと同じ威力であり、防げるはずの魔術だった。


「ごめんなさいライザン、上手く防御魔術が使えなかったみたいで、痛くない?」


 先生は自身の中で上手く結論が出せないようだった。先生が何を考えていたか分からないけれど、私に少しの疑いの目をかけていた。それはきっと、私が間違った攻撃魔術を使っているかもしれない、というものだったんだと思う。


「アリス、今度は私に撃ちなさい」

「分かりました」


 私もきっとそうなんだと思った。だからよく思い出して、習った通りになるよう慎重に魔術を放った。

 先生は防ぐことをできなかった。


 検証の末、私とリリーの攻撃は誰の防御でも防ぐことはできない。そして私達の防御は誰の攻撃だろうと防ぐことができない。この事実が私達の学園生活を狂わせた。

 水と油は混ざり合わない。皆の魔力が水で、私達の魔力は油。私達の魔力は他の魔力に干渉できない。混ぜようとしても意味がない。私と干渉し合える魔力はリリーの魔力のみだった。


 6年生2学期、私とリリーはこの特殊な魔力のせいで、戦闘魔術に関しては2人だけの独自クラスになった。寮も今までとは別の場所に移された。おまけに20分以上の休み時間さえも錬金準備室にいなければならなかった。休み時間に魔術の撃ち合いは禁止されていたが、万が一のためにも私達は隔離されなければならなかった。


―――


「せんせー、この羽は何用?」


 ゆったりした雰囲気の中でもリリーはマイペースに、興味がままに準備室の中を漁っている。もう半年以上、休み時間はこの準備室にいるのに。


「不死鳥の羽ね。一般的な使い道としては蘇生薬を作るためね」

「それって誰でも生き返れるの!?」


 リリーはまるで世紀の大発見を聞いたかのように、興味深々の丸々とした目で先生を見ている。


「そうよ。でも体が万全の状態じゃないと、生き返っても生きていくのは難しいわ」

「それはつまり、死んだ人に使ってもあんまり意味はないってことですか?」

「あぁーそっか。体が元気じゃなくて死んじゃうから、生き返ってもダメなんだ」


 リリーの目前に映る、赤とオレンジの光を滑るように反射する美しい羽は、今となってはリリーの興味を引くものではなくなっていた。


「それも前任の錬金術の先生が残していったものなんですか?」

「そうねぇ。前任の先生かもしれないし、前々任の先生かも。その辺がよく分からないから、整理の手もつけられないのよ」


 この愚痴は何回か聞いたことがある。「乱雑な準備室」という悩みが解消されることはないんだろう。


「もう見たことないのないー?」

「ないと思うよリリー。だって全部見てる」

「アリスちゃーん……」


 リリーは棚の奥深くまで体を入れながら助けを求めるような声を出してきた。まだ目新しいものがないか探しているみたい。半年以上もある月日が、この準備室の全てを明らかにしたと言っても過言ではないのに。


「そういえば、2人は中等部はどうするの?」

「魔道士シオンの旅に同行することにしました」

「うん!ウチも!」


 私とリリーは中等部には進学しない。代わりに魔道士アルルの元で学び、世界の多くを学ぶ旅に出る。


「そうなのね。悪くない選択だと思うわ。せっかくスカウトを貰ったのだから、そのチャンスを存分に活かすのよ」


 先生は快く送り出そうとしていた。だからこそ気になった。


「先生だったら行きますか?」

「そうねぇ……」


 先生は慎重に言葉を選んでいる様子で、私たちの決意を曲げて欲しくないという気持ちが伺える。


「……先生は中等部に行ってしまうかもしれないわ…… 魔道士からのスカウトを受けるということは、国の定める教育課程に加えて、各魔道士独自の教えも身につけなければいけない。魔物との実戦も必ずある。魔道士との旅は危険と厳しさに満ちている。それは2人とも聞いているでしょう?」


 私は頷いた。


「だから、先生だったらスカウトを受けないわ」


 準備室はのんびりできる場所だ。でも今だけは、少しだけ緊張した空気が流れている。


「それでもやっぱり、2人とも行くの?」


 先生の言葉の裏には心配しかなかった。きっと先生は私達の選択を尊重しようとしてくれている。それでも、尊重以上の心配が出てしまうほどに、これは危険な選択なのだと暗に語っている。


「どーせ中等部に行っても前の友達と遊べないしー」


 リリーはぶっきらぼうに、諦め半分に言った。

 リリーはとにかく退屈を嫌う性格だ。両親からも溺愛されていて、沢山の楽しいことを体験したことがあるみたい。だからリリーにとっては楽しさを共有できる友達が宝物で、中等部に行っても宝物は帰ってこないことを分かっているからこそ、中等部が辛く苦しい。

 それならいっそ、という考えなのかもしれない。


「私も同じ意見です」


 本当は違う。

 私は自分のルーツを知らない。私は孤児院出身で両親を知らない。聞いた話では2人とも死んでいる。でも何かの可能性があるなら、自分の両親に会いたい。お出かけがしたい。抱きしめてほしい。リリーが羨ましい。今からでも旅に出て両親を探したい。

 でもこれを口にするのは恥ずかしい。だから嘘をついた。


「そう。気持ちが決まってるなら、2人は人一倍、外の世界を体験して、たくさん勉強しなさい。分かったかしら?」


 私は頷き、リリーは大きな声で返事した。

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