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第6話 思い出した事

 

 カサンドラは家に帰ってからは、イヴが龍昂爺さんから変化の説明を受けている間、ゲルダ婆さんに例の黄色のTシャツを探し出してもらった。崋山の時、一時期アンママ達とも同居したことがあり、その時に置いていたらしい。変化の前には両親とも和解していたそうで、ママ達はカサンドラが忘れてしまっているのを知り、悲しんでいるらしい。そう言われても、どうして和解したのかカサンドラにはさっぱりである。ゲルダは、

「きっと、追々思い出すよ。気にしなくても良いよ。子分の言葉が分かるなんて、必要な事から思い出しているね。割と合理的な子だねぇ。崋山もそうだったけど、どんどんこれから必要な能力が開花していくと思うね。さあ、これを着てごらんきっと見違えるようになる筈」

 カサンドラはどう見違えるのか知らないけど、今更、男には変わりたくは無かった。恐る恐る来てみると、以前の記憶と同じような感覚になって来た。体格は変わらない物の、気分はへたれた30半ばの女ではなく、多分シャキッとした感じになっている。慌てて鏡を見てみると、眼付きも鋭く、性別不明の怪しげな人物に見えた。

「嫌だな。これは大部痛い感じ。前科何犯かの、危ない奴に見えない?」

「カサンドラったら、自己評価が低いねえ。随分元気が出たみたいじゃないの。今迄、少し気力が弱かったから、良いんじゃないの。これなら、頑張れそうね。お友達を助けに行きたい気持ちが、表に出てきたのよ」

 そういうものかなと思ったカサンドラだったが、この眼つきはいただけないと思い、脱ごうとすると、ゲルダは、

「脱いだら、助けに行く気が削がれるんじゃあないの。後悔しなけりゃ良いけど」

 と言い出すので、また、カサンドラはそういうものかなと少し躊躇した。少し時間が過ぎると、何だか段々、双市朗を助けたい感じがひしひしとして来た。イヴに会う迄、十数年、思い出しもしなかった相手なのに不思議になる。

 そこへ、イヴが駆け込んで来た。龍昂から話はすべて聞いて、何か思い出したような感じである。因みにカサンドラは、話半分で聞いただけなのだが。自分でも、さほど利口とは思っては居なかったので、気にしてはいなかったのだが、イヴの様子を見て、少し焦った。

 思い出していない事は、イヴにも分かったとみえる。

「崋山は前々から、自分は利口じゃあないと言っていたけど、あたしはそうは思っていなかった。でも、本人の自覚が一番正確みたいね。思い出していないんだ。龍昂お爺様の話を聞いても、さっぱりだったんだね。ふう」

 ため息をついている。そして、

「急いでカイの所に行かないと。もう手遅れかも知れないけど、でも双市朗を助けに行く。あんたも来ないと駄目だよ、何時か双市朗の事を全て思い出したら、きっと後悔する。あたしはあんたを引きずってでも連れて行くからね。カイは出発の準備を終わっているよ、あたしらが来るのを待っている所」

 どうやら、皆、カサンドラのやる気を期待し出している。カサンドラはTシャツを着ていようが着ていまいが、他の意見に流されやすい性格は変わらなかった。成り行きで皆の期待どおり、イヴと出発する事にしたカサンドラである。Tシャツは十分あったので、イヴはゲルダに、必ず着せておくとか約束している。

 イヴが今度はカサンドラの手を引っ張り、今日の第3銀河基地行き最終便に滑り込んだ。子分も、付いて来ている。彼は放って置いてもカサンドラに付いて来るらしい。さっさと自分の支度は終えていたようだ。ゲルダによると、カサンドラが同居しだしてから、準備しているそうで、龍昂からどちらにお出かけかと、何度もからかわれていたそうだ。

 カサンドラは、予知能力が彼には有ると分かった。しかし、イヴの方が彼の能力を思い出しているらしい。カサンドラとしては、今は夫婦では無いので、イヴと子分の関係はどうなるのかと少し疑問だ。子分も悩んでいると見た。こういう事は何故か分かるカサンドラだった。自分でも不思議である。


 第3銀河基地に到着すると、恐らくルークらしい人が迎えに来ていて、挨拶もそこそこに、直ぐに準備が整っている軍艦の宇宙船に連れて行かれた。急いでいるらしく有無を言わせない状況だ。

 カサンドラは、イヴも、さすがに少し怖気づいているのが分かった。きっと初めての経験なのだろうと思う。カサンドラの記憶には無いが、お爺ちゃんの話では、崋山は軍の傭兵としてかなり活躍していたらしい。カサンドラとしては、今は能無しだが。Tシャツこそ着ているが、全くの素人である。

 カサンドラ達が乗船すると、直ぐに出航した。イヴは物珍しいらしく、キョロキョロしている。そして、カサンドラに、

「この船、最新型よ。あたしも軍艦に乗った事あるらしいけど、前のはこんなじゃあなかった。きっと戦闘機だって最新型だね」

「イヴは乗ったことがあるの。こういうのに」

「いやだ。あんたと戦闘機のパートナーだったじゃない。全く覚えていないんだね。前にお爺様から聞いてないの。それからまた忘れたの」

「忘れてた。でも今思い出したから。そう言えばそんな話していたね」

 そんな馬鹿らしい会話を聞きつけたルークが、

「カサンドラは崋山じゃあ無くなったから、忘れてしまったんだね。でもこっちが本当の状態なんだから、大丈夫だよ。カサンドラに出来る事をやってくれれば良いんだからね」

 とにっこりした。何とも優しいお言葉といえると、カサンドラは思った。以前からこんな感じだった気もして来た。少し思い出したかもしれない。

「ルークって前からこんな感じじゃあなかった?」

 思わず言うと、イヴは、

「思い出してきたとか?」

「質問を質問で返さないでね。イヴ。で、ルークは前から優しかったって事でOK?」

「合っているよ、カサンドラ。正真正銘の天使が戻って来たね。ルーク、そう思わない」

 そう言ってやって来たのは、カイと思しき人物である。こっちはカサンドラの予想を超えて、強烈に激しそうな男だ。前の印象よりきつい感じがする。また思い出してきたのかもしれない。カイは、

「何だか思い出してきたみたいじゃないか。俺は崋山が居なくて、癒されないままだったんだ。そう言う訳で、他の奴の治療を受けて、いかれたのは治ったけど、嫌な奴になっているってとこだな」

「ふうん」

 そう言うしかない、カサンドラだったが、ルークは、

「それなら今から癒してもらったらどうだ、カイ。頭でも撫でてもらえば」

 と言い出した。しかし、

「もう重症なんだ。こっちに来てくれない、カサンドラ」

 そう言って、カイはカサンドラの手を取り、どこかに連れて行こうとした。カサンドラは、これは誘われているんじゃあないかなと思っていると、カイは目を瞬かせて、

「あれ、もう癒されちまった。尊くて何も出来そうにないや」

 と言いながら、一人行ってしまった。へえ、と思いながらカサンドラが引き返していると、イヴは、

「そうなのよねえ。双市朗もそんな感じだったのよね」

 としみじみし出した。泣き出したので、カサンドラは、

「まるで生きていないみたいな言い方、止めようね」

 と慰めようとしたが、あれ、こんな事、前にもしなかったかな、と思う事となった。首を傾げて考えていると、ルークも、

「皆が集まると、カサンドラも何だか少しずつ思い出してきているね」

 と言い出した。そして、

「これで、双市朗が居れば昔通りになるな」

 としみじみ言った。カサンドラは何だか胸がいっぱいになった。

「そうだった。あいつ、アンドロイドになっていて、俺に撃たれながら、襲ってごめんって謝ったような顔で死んだんだった。一人で地球に戻ったって、無理だったんだ。俺が一緒に戻れなかった所為でズーム社に討たれたんだった。思い出した。思い出したよイヴ。早く助けに行かなきゃ。何処にさらわれたんだっけ、ルーク達は知っているの」

「わあ。思い出したんだ。良かった。カサンドラ。そうだ、ルーク達、分かっているの。双市朗の行方」

「うん大体ね。カイの透視能力が割と正確に出来るようになっていてね。多分今からワープして近くまで行けると思うよ」

「そうなんだね、そうなんだね、あ、俺、最新型とか乗れなかった」

 カサンドラは気分が乗ったあげく、思い至って落ちて行った。がっくり落ち込んでいると、

 子分が、

 [カサンドラ様ア~~わたくしめが~操縦いたしましょう~~]

「出来るの、子分」

 [わたくしめは~~テレパシーで~~操縦の仕方が~~分かるのです~~]

「すごいや、子分。大好き」

 [恐れ多いお言葉~~身に余るお言葉~~光栄至極~~]

 子分が感涙の涙を流しだし、イヴは、

「あんた達、まあ、別に良いんだけど、二人でさっきから何騒いでるの。何か良い事、話してるんでしょ。あたしにも教えてよ」

「子分ってすごく出来る奴なの。最新型の戦闘機でも操縦できるって。だからあたしは射撃に専念するの。良い相棒見つけちゃった。だから、イヴは心配いらない・・・あ、最新型はまさか三人乗れないとか言わないでね」

 ルークは言いにくそうに、

「実は二人乗りなんだけど・・・でも、イヴは留守番していてはどうかな。カイも船長だから船に残るし」

「そんな・・・」

 不満気なイヴである。そこへ、

『言っておくけど、俺は船長でも戦闘に加わるからな、船には副のルークが残りな』

『そう言うのはルール違反だ。いやなら船長なんか引き受けるな。俺は先を見越して、今迄昇進とかは断って来たんだ。お前は引き受けたからには、責任を持って任務を全うしろっ』

 カイとルークで兄弟喧嘩をテレパシーで始めたのだが、カサンドラは能力が開花して、内容が分かってしまった。五月蠅くてかなわない。

「イヴぅ、あいつらのテレパシーがうるさいの」

 イヴに訴えてみた。

「困ったわね。そう言えばブロックって言う技があるんじゃあない」

「そうだった、でもどうすれば出来るか分からないし、頭が痛くなったよ」

「わあ、可愛そう」

 イヴに頭を撫でてもらったカサンドラ。気が付いたルークは、気を使ってカイのいる所に行く事にしたようで、居なくなった。


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