第4話 カサンドラ
第4話 カサンドラ
何も知らずに30過ぎまで生きて来たカサンドラであるが、サミュエルがしていた、今までの新人類を第2の地球に送る仕事を見て来て、普通の人間との諍いの事情は知っていたし、祖父の龍昂の噂や、連合軍の存在も知識として知っていた。つまりズーム社の存在は無いが、宇宙連合間の戦争は続いており、龍昂はゲルダを騙して結婚したり、ルークが幼い頃は苦労したりとか、弟のフロリモンがさらわれ事とかの事実は噂で知っていた。
そして現在、龍昂とゲルダは第2の地球に居り、ルーク達従兄弟や、弟は連合軍に入隊して、実の両親もフロリモンと連合軍の基地に居て、会う可能性は無かった。
そのもろもろの事は、カサンドラに付きまとう懸念では無かった。つまり気楽とカサンドラは思っていた。しかし第2の地球に到着すると、故郷の地球に居る時とは違い、妙なひっ迫感や、ざわざわした落ち着きのない感じやらで、違和感がある。
どうした事かと思っていると、カサンドラの変化を心配したペネロペが、慣れるまで一緒に住むことを提案した。今更と思ったカサンドラは遠慮して、一人住まいの出来る部屋を、サミュエルに探してもらう事にした。
すると、カサンドラの思いを聞いたサミュエルは、
「実は龍昂さんが、カサンドラと暮らしたいと言って来ているけど、どう。気を使ったりしなくて良いと、嫌なら嫌と言って欲しいと言われているけど」
カサンドラは祖父に興味はあったが、もし気まずくなっても、そうそう出て行くことは出来なくなりそうで、少し躊躇した。
すると、双子が、何処で仕入れて来た噂なのか、
「そのお爺さんちには、宇宙人が要るそうよ。見かけは怖いけど、綺麗な音楽みたいな声で話しているんだって。あたし達、会ったみたいな。カサンドラはどう?」
「誰から聞いたの、あんた達、随分情報通ね」
カサンドラも、珍しい体験はして見たくて、
「じゃあ、会ってから考えようかな」
と返事をした。サミュエルは龍昂の能力を知っていたので、
「じゃあ、早速行ってみようか」
と答えながら、同居は決まったようなものだとは思っていた。
龍昂は過去が変えられても、もう一つの事実も覚えていた。そしてそれは時空のどこかに居る、環の存在の影響ではないかと思っていた。テレパシー能力のあるゲルダや、龍昂とテレパシーで通じている息子や孫たちもだった。しかし、肝心のカサンドラとはテレパシーで交信できなくなっていた。何故かは考えたくは無かったが、近くに居させたかったのだった。
宇宙人見たさに能天気に龍昂爺さんの家に来たカサンドラだったが、着いてみると、落ち着かない気分は増幅してきた。居た堪れなくて、来てしまった事を後悔した。原因はこの辺りだと実感した。
カサンドラは後悔したが、原因は突き止めるべきだと思って、覚悟を決めた。何かが此処には有る。それは分かっていた。だが、突き止められるかどうかは、分からない。そんなあやふや感もある。
カサンドラの緊迫感も知らず、ペネロペや双子はワクワク気味である。カサンドラの気分は、ペネロペ一家とは関係ないのが分かった。自分だけの問題らしい。
サミュエルが、カサンドラの様子から、自分が率先して行動するしかないと察し、
「こんにちは、龍昂さんいらっしゃいますか」
と言いながらドアを開けた。途端に宇宙人たちに出くわした。噂通りの音楽を奏でだした。
カサンドラは、これはカサンドラ以外の一家の注意をそらしたいのだと思った。それくらいの感は働くカサンドラだった。双子やペネロペ夫婦は宇宙人の音楽に夢中になった。で、そのまま彼らについて部屋へ移動している。後ろから出て来たお爺さんやお婆さんには気付かない。そんな事があるだろうか。カサンドラは呆れて一家を見送っていると、龍昂が、
「カサンドラよく来たね。こうしてみると、本当にリツによく似た美人さんだねえ」
「でしょう、ホントに綺麗になって女の私が見ても、ほれぼれしちゃう。さあさ、あなたはちょっとこちらで、あたし達と過ごしてちょうだい」
「はい、お邪魔します」
「そんな他人行儀な言い方はよしておくれ。やっと会えたね。この日を待っていたんだよ。わしらは」
「はあ」
カサンドラは良く分からなくて、曖昧な返事をしながら、居間に入り勧められるままにソファに座った。ゲルダさんは、何か飲み物をとか言いながら部屋から出た。カサンドラはソファに座っていたが、何か違和感を覚えて、
「私の席はこっちの様な気がして」
と言いながら、一人掛けのソファに座り直してしまった。すると、龍昂さんは何故か鋭く、
「そうだね。そこは何時も環が座っていた」
「環?マーガレットじゃなく?」
何故かカサンドラは、意図しない言葉をしゃべってしまった。それだけではなく、
「いやだ、忘れてしまった。じゃなく間違えた?じゃなくて騙された?いや違う。要らなかったんだった。要らないと思っていたんだった。だから、きっと出て行ったんだ。やっと思い出した?でも誰の事だったかも忘れている。薄情な私。きっとその子も私の事、本当は何とも思っていない筈。そうでしょう。お爺さんは知っているんでしょうね。その子を」
「そうだね。知っているよ。でも本当はお前に愛して欲しかっただろうな。もう叶わない願いかも知れない。お前は忘れてしまったようだから。責めているんじゃあないよ。忘れてしまうのが当たり前なんだから」
「でもでも、私が忘れたのは悪かったんじゃあないかな」
「カサンドラは何も悪くは無いのよ」
ゲルダさんが泣きながら紅茶を持って来た。
そして爆弾発言と言う奴を吐いた。
「過去が変わって、状況が違ってしまったの。禁断のタイムトラベルをした敵の銀河の奴が、過去を変えて、その影響でね。あなたはキメラでしょう。過去が変わる前は男の人だったの。例のTシャツを着て変わっていた方よ。最近はTシャツは着ないの?」
カサンドラは卒倒しそうなほど驚いた。初めてあった筈のゲルダさんにカサンドラの黒歴史と言って良いような過去を知っていたとは、そして本当は男になっていたとは驚きである。
「あのTシャツは割と気に入っていた人に着ているとこを見られて、失恋して全部捨てました」
「どうして、失恋したの」
割と追及してくるゲルダさんである。
「Tシャツ着て喧嘩して居たら、恋敵に勝って、そしたら、目当ての奴が負けた方と付き合い出したんです。喧嘩相手は新人類で結構喧嘩が強くて、Tシャツ着ないと負けると思ったけど、負けるが勝ちって言う諺をそれで知りました。私の黒歴史です」
「そうだったの、まあ、縁が無かったんでしょうね。でもその後、他の人と結婚していないって事は、たぶんあなたはそういう付き合いには、向いていないんでしょうね」
「パートナーにするには物足りない人しか、周りには居なかったんだよ」
お爺さんの見解が、的確のように思えたカサンドラだった。それにしても、
「過去が変わったと言う事は、その子は居なくなったんでしょうか」
龍昂爺さんは少し困っているらしく、
「いや、それが話はややこしくなるが、タイムマシンに乗って過去を変えに行った第22銀河星人達に同行していて、存在しているんだ。時空の狭間に居ると存在できるそうでね。あの22銀河人たちは、環をどういう訳か気に入っているんだよ。重罪人達だから、今は行方をくらましている」
それから、カサンドラはその変化する以前の詳しい事情をお爺さん達から聞いて、先ほどまでの居た堪れない事情と言うのが分かった。そして、カサンドラが崋山として結婚したのが、名前からして、何だか黒歴史の喧嘩相手の様で、すっかり参ってしまっていた。その件はお爺さん達には黙っていたのだが、後から、テレパシーで分かっていると気づいたカサンドラだった。