第2話 環
一方環は、第3銀河総司令官である、崋山の従弟のカイ・メイソンの家でいつものように、テレビでも見ながら過ごしていた。手元にはカイの母親、ミア婆ちゃんお手製のクッキーがある。ほぼ、実家で龍昂爺さんの家で過ごすのと同じ状態だ。と言うのも、環の任務はまだ決まって居ない。ほぼ、任務が無いとも言える。
そこで環としては、こんな事ならパパに言われた通り、病院の手伝いをすれば良かったのでは、という思いが沸いて来そうになるのを必死で抑えている、と言う所である。
つまり、自己嫌悪一歩前の状態である。
そんな環は、家の外が何やらキラキラしているのに気付いた。気になったので、窓に近づき見てみると、キラキラした球体の中から、何と、圭ことアメーバもどきのリーダーと思しき例の彼と、ジュディことシャーク(こんな言い方で良いのかどうか)が出て来た。そんなはずは無いので、環は思わず目を擦っていると、
「幻覚じゃあないよ。環」
そう言いながら圭がやって来る。ジュディもやって来る。
幻覚じゃないのかと思って、窓を開け現物らしきものを確かめると、二人で窓から部屋に入って来た。
「窓から失礼するよ、入口に回って誰かに目撃されたくないからね」
「環、会いたかった。この間はゴメンね。困らせちゃったね」
ジュディは少し涙ぐむ。シャークはすっかりジュディっぽくなっている。
「どうやって来たの」
圭は、
「驚かせたね。実は俺らは時間旅行。タイムトラベルをするんだ。もちろんタイムトラベルは現在厳格に禁止されている。発覚すれば極刑だ。事によっては銀河レベルで法律違反を追及されて、滅ぼされる可能性だってあるのは知っている。だが、俺等第22銀河人はとうに滅びているし。違反してもどうってことは無いさ。戦争で敗北した第13や第9銀河だってそうさ。滅びたと言って良い状況だな。ところで、彼らは前々からタイムマシンを開発して、持っていてね、それでアイデアを思い付いたんだ。自分らの現状回復だ。彼らは戦争などしなければ良かったと後悔していて、滅びないで済む可能性を考えた。原因は以前の第22銀河の攻撃と、『キャプテン・ズー』の存在と結論付け、俺等の所に来て、『キャプテン・ズー』の暗殺をしてほしいと言って来たんだ。タイムマシンで、まだ彼が力を付ける前の殺しやすい時点に行けば、楽に暗殺できるだろう。俺もあの星で余生を過ごすには、まだ少し早い気がして、引き受ける事にしたよ。彼らは、第22銀河の攻撃を止めに行っている。他にもいろいろ攻撃しているが、俺等が大人しくしていれば、半分ぐらいの戦火は防げるんじゃあないかな。あはは」
環は、話を聞きながら、圭は懲りずにまた彼らに利用されて、実行犯にさせられるんじゃないかと、懸念した。眉をひそめると、ジュディは、
「あたしは反対したのよ。だって戦争が無くなったら、環のパパはズーム社の奴に襲われないから、カサンドラのままで、環は存在しなくなるって事よ。環の居ない世界なんて、考えられない。そんなの意味ないと思ったの。そしたら、タイムマシンって言うのは次元の狭間を行き来するから、その中の人間は存在したままなの。過去が変わってもタイムマシンの中は影響しないんだって。だから存在したままなの。でね、環もあたし達と一緒にタイムマシンに乗って『キャプテン・ズー』の暗殺に行かない?そうしないと消えて居なくなっちゃうのよ。それにきっと敵討ちは胸がすくと思うよ。環だってさらわれたり、本当のママが殺されたりして、酷い目にあっているでしょ」
ジュディは環の機嫌が悪くなった理由を誤解している様だが、環としては自分の存在に価値は感じてはいなかった。だが、ジュディの話の中で、胸のすくような思いと言うのに興味を持った。そういうのを、感じてみたいとは思った。
「私は存在しなくなっても構わないけど。圭達は、あいつらに利用されているだけじゃないかな。第22銀河は、本当に攻撃されないと言う保証はあるのかな」
圭は、
「それはもう修正された。さっきここに来る時、故郷が見えたよ。俺等の銀河は昔見た記憶どおりの、綺麗な星たちのままだった。急がないと環も消えてしまうよ。現実がどんどん変わってきている。環、さあ行こうよ。俺達と一緒に。きっと奴を始末すればせいせいするぞ」
そう言われて、環には拒むことは出来なかった。第3銀河も滅びたと言って良い現状である。見つかった所で、どんな責任が湧いて来ると言うのだろう。
キラキラした球体の中に促されて入ると、意外とすんなり何の違和感も無く入り込むことが出来た。
そこはタイムマシンの中だった。良く分からないマシンの中に、時計らしいものがあり、時空を設定するらしく、圭は、
「一応今の時間に戻って来る事にしておこうかな。不測の事態で失敗したら、環は帰って来て、此処に知らん顔して今までどうりに過ごしていれば良いんだからね」
「環は何もしなくて良いの」
環が聞くと
「環は、タイムマシンの中に居てくれれば良いだけだよ。ヤルのは俺さ。ジュディも環の側に居るんだよ」
「皆で奴の所に行った方が安心しない?」
ジュディが言うと、
「お前は環と居た方が安心だな。付いてきたら気になって良くない」
環は彼らも親子だったんだなと思った。そして、圭は二人の為、ジュディと環の為に行動するのだと分かった。
操作方法は承知しているらしい圭は、タイムマシンをセットすると、目立つ赤いボタンを押しながら、
「私が戻らなかったら、この赤いボタンをもう一度押せば、元の時間と場所に戻る事になっているからね。そうするんだよ」
まるで、二人だけで元の時間に戻る事になるような言い様である。
環は不安になって、
「どういう事、まるで圭は戻らないような言い方じゃないか」
と言うと、圭は、
「いやいや、もしもの時の事さ」
と言うが、そうだろうか。環はジュディをチラッと見ると、ジュディも不服そうな顔をしている。
「あたしも手伝いに行った方が良いんじゃないかな」
と言い出した。
「さっきから言っているじゃないか。俺だけの方がうまく行くんだ」
といらいらと圭は言いながら、マシンを見ていたが、
「着いたな。お前らは出るんじゃあない。お前らの知らない場所だ。俺だけの方がやり易い。言う事を聞いて、付いて来るんじゃあない。第一、此処は第3銀河の環境ではないし、お前は残って環の面倒を見ていろ、1時間で戻らなければ、このボタンを押して元の時間と場所に戻るんだぞ」
環は、
「ここは何処なの」
と聞いてみると、
「第16銀河の、ズーが若い頃通っていた学校だ」
環は、もしかしたら自分の通ったのと同じ所じゃないかと思ったが、圭には気付かれないようにした。しかし、もう一度、圭が、
「環は、第3銀河の環境じゃあないんだからな」
と、念を押すので、何時も圭には考えを読まれていると思う環である。
圭が出て行った後、環はジュディに、
「どう思う。圭は戻って来ないつもりだね」
と言ってみると、
「そんな気もするね。もしかしたら、あいつ、ズーと入れ替わる気じゃあないかな。そして、ヘマしないように皆に指図して、連合軍に勝って、あいつ等が滅びないようにするとか。でないと、契約としてつり合いが取れなくない?」
「そう言われればそうだね。そうしたら連合軍の皆の中には、滅びる銀河も出るんじゃあないか。そんな酷い事計画しといて、何故、環だけ連れて来たのかな」
ぞっとして環が言うと、ジュディは、
「何時か言ったじゃない。忘れたの。あたし達はオーラ食いなの。そして、環のオーラは素晴らしいの。でも、あたしは環のオーラは食べない。環を愛しているもん。でも、他の第22星人はそうじゃないし、圭はいつも環のオーラは至福の味だって言っているからね。生かしておきたいんじゃない。元に戻って、また会えたらきっとそばに置いておきたいと思うよ。そうだ。あいつ、戦争に勝ったら、環は側に置いておくつもりだと思うよ。きっとね」
「そんな、酷いよ。圭」
ジュディは自分が圭の悪口を言って、環が圭を嫌うように仕向けてしまった事は分かっていたが、そういう奴なのだから仕方ないと思った。散々頑張った所で、圭にとっては不味い環のオーラになったのである。自業自得と言う所だ。しかし、
「そんな事はさせられない。ジュディ、アメーバもどきは何故そんなに完璧に擬態出来るの」
何だか、今更と言える質問だが、ジュディは頭を絞り、
「んーと、多分、進化の過程で必要だったんじゃない。そういう事が出来る細胞になったんだけど、理屈は分からないし。そういう者としか言えない」
考えても分からない物はどうしようもない。
環はジュディをじっと見ながら、環境が違っても生きていられたらと願った。ジュディの手を握ってみた。そして願うが、ジュディはポカンと環を見つめた。
「まさか、真似しようとしているとか。出来るの。マジで」
「ここで圭を止めなけりゃ、味方になった連合軍の誰か達が滅びるかもしれない」
「へえ」
ジュディは出来るとは思えず、疑いたいところだが、環はしばらく集中していた。そして、
「外に出てみよう」
と言い出した。
ジュディとしては呼吸できなければ諦めるだろうと思い、二人して外に出てみた。外に出てみると、
「やっぱり、同じ所だ。此処は知っているよ。ジュディ。今は日が陰っているから、きっと皆、授業が終わって自室にいるはず」
「息しているね」
「うん、環境に適応できるようになった。寮はこっちだよ、ジュディ。きっと圭も行っているはず」
「圭がいる所は、あたしにもわかるよ」
「そうらしいね。私も透視能力はあるけど」
「じゃあ、あたしの活躍の場はないね」
「そんな事ないよ、圭を説得しなくちゃ」
と言う事で、二人でズーの自室に行ってみるが、途中の寮の階段に圭の抜け殻のような、一枚皮の様な物が落ちていた。
「なにこれ」
環が驚いて叫ぶと、ジュディは、
「手遅れだったね」
としんみり言った。そして、
「どうする、今から」
ジュディは意気消沈のようだが、環はここで諦める訳にはいかなかった。
「ジュディは、ズーを知っているの」
「ズーは知らないけど、元圭は分かるよ」
「良かった。これからジュディの活躍の場だよ」