第13話 アメーバもどきを倒しに
そうこうしているうちに、環の乗ったタイムマシンが庭先に戻って来た。
「良かった、ちゃんともどって来たんだ」
皆で出迎えると、環がひとり驚いたように出て来た。
カサンドラ達は、
「良かった、良かった。環」
「環、無事に戻れたんだね」
「どうしたの、皆。この事知っていたの。イヴママ?・・・あ、あなたは」
「そうよ、ズーム社にやられなかったから、カサンドラのままなの。でも、環はタイムマシンに乗っていたから消えなかったね。良かったと思っているよ。イヴママの産んだあの子達は居なくなってしまった。世界は変わったよ。そしてね、あのもどきの圭はキャプテン・ズーになっていて、ルーク伯父さんを襲って、今はルーク伯父さんに擬態しているの。色々あってね。だから、カイ叔父さん達とイヴママや私はタイムマシンで、今から環の行っていた過去に戻って、あいつがキャプテン・ズーになる前に殺しに行くの。環がノックダウンの声を浴びせたら、あいつはその声を見切って、今ではノックダウンが効かなくなって、最強状態なの。だから、環がノックダウンする前にあたしらで殺しに行くの。そうしたら、ルーク伯父さんは元に戻るでしょ。今、ムニン22’さんが、過去の何処に行けば良いか調べてくれているの。また、変化すると思うから、あなたはムニン22’’さん達と、もうしばらくタイムマシンに乗っていてね。あなたまで消えてしまったら大変だもの」
カサンドラが、何とか説明をすると、環は、
「そんなに変化したの。私たちは大変な罪を犯したんだ。じゃあ、もうタイムマシンには乗らない。消えても良いんだ。ジュディも消えたし」
「え、ジュディが一緒だったの。どうして居なくなったの」
驚いてカサンドラが訊くと、
「本物のジュディが生きていて、この世界に二人居るから、もどきはその存在よりも弱いんだとジュディが言いながら今消えた所。ジュディと一緒に暮らせないなら、もうどうでも良い。それに、今の世界ではリリーと崋山が会う事も無かったから、ママが生きていても、環の事は知らないんだから。あ、イヴママ、酷いこと言ってゴメン」
「いいの、その辺の事は前から察していたし」
段々、深刻になって来ると、ムニン22’’さんが、
「そんなこと言っちゃいけないよ、環。自分の命は大事にしなさい。知らないうちに消えてしまった人たちの無念を思えば、精いっぱい生きるべきだ。もちろん、変化で死なずに生きていられた人の方が多いよ。だから、責任を感じることは無い。第一、環は付いて行っただけだろう」
カサンドラとイヴは、ムニン22’’さんの説得を有難く思いながら、環が、塞ぐ気持ちを変えてくれることを期待した。
沈んだ面持ちの環は、相変わらず、
「でも、過去であいつの企みに気付いたけれど、どうしても殺すことが出来なかった。チャンスはあったのに。環の責任だよ」
カイは、
「もう良いんだよ、その事は。俺等が過去に行って殺してくるから。だから、環はムニン22さんたちと、そっちのタイムマシンに乗っていてくれ。皆、精一杯自分に出来る事をやっているよ。だから、環も精一杯前を向いて、これからも生き抜いてほしい。ムニン22さん達に、龍昂爺さんやゲルダ婆さんをタイムマシンに乗せてもらうし、変化でズーム社が変わり、生き延びられたペネロペさん一家も乗せてもらっておく。環も乗っていてくれ、他の皆は時間も無いし、定員オーバーになる。だから運任せだ。乗っていてくれるよね。カサンドラ達を悲しませないで欲しいな」
俯いていた環だったが、何とか納得してくれたようで、
「ペネロペさん、本当は会ってみたかったんだ。崋山パパをあんな感じに育てたんだから」
カサンドラとしては、どんな感じだったのか追及したかったが、もう出発の時間のようだ。
ムニン22’さんと、子分がセットし終わった様で、
「さあ出発だ、二手に分かれて、落ち合う時点もセット出来た。急がないと、もどきが追手を出すかもしれない。急ごう」
そう言われて、皆二手に分かれて。急いでタイムマシンに乗る事となった。居合わせた、ミア婆ちゃんも乗せた。ミア婆ちゃんは遠慮したが、環が、
「ミア婆ちゃんが乗らないなら自分も乗らないから」
と言い出し、それで乗る事に決まった。
タイムマシンは乗っている時間より、セットする時間の方が、掛かる感じである。カサンドラとしては、ちゃんとセット出来ているのか不安だか、どうせ自分には理解出来ない事なので、ここは信頼すると言うか、任せて何も考えない事にするしかない。
直ぐに到着となり、外を見ると、さっき環が乗ってもどって来たタイムマシンらしきものが横にあり、正しく移動出来たと分かった。
様子を窺うと、環とジュディがキャプテン・ズーらしき人を、タイムマシンに当に入れようとしている所だった。
カイが慌てて飛び出した。皆も後に続く。
「環、そいつをマシンに入れてはいけないよ」
「カイ叔父さん、どうしてここに」
「こいつを殺しに来たんだ。未来でルークに擬態した。だからこいつを今殺して、ルークを生きたままにする」
「えっ」
二人して驚いている。ジュディは可愛く驚いて、もどきとは信じられない感じである。
カサンドラは、二人がお似合いとも見えたので、彼女が消えてしまった事を環が悲しがっているのが身に染みた。
ところが、その時、その、当のジュディが、環にあっという間に襲い掛かった。ジュディの皮を捨て、環に取り付いたと見た。水中でもないのに。
ルークの場合は誰も犯行現場は見ていなかったが、今皆で、まのあたりに見て、このもどきの親子の本当の実力が分かった。
「酷い、ジュディ。やはり、もどきはもどきでしかないのね」
カサンドラは叫んだ。もどきは、
「環を取られるくらいなら、あたしが環そのものになってやるんだ」
ギョッとしたカイだが、その間に何とか、意識のないもどきのズーを撃ち、後は直ぐに火炎放射器で焼き殺した。
これが肝心だと言える。
環に擬態したジュディの方は双市朗が受け持ち、同じように燃やすことが出来た。
カサンドラとイヴはすっかり涙に暮れていると、子分が、
[カサンドラ様たち~環様は~未来においででは~~]
「今、殺されたの、見なかった?」
[タイムマシンに、乗っておいでのはずでは~~]
「はぁっ、さっぱり意味が分からないんですけどぉ」
双市朗が、
「さっき、無事に戻って来て話をしただろう、生きていたろう。そして、タ、イ、ム、マ、シ、ン、にミアお婆さんと乗ったじゃあないか。ミ、ラ、イ、で」
「よくわからないんですけどぉ」
カイから、
「戻ろうか。環がいるかいないか、見るまで信じられないだろう。この人達は」
と言われて、
「その通り」
と言うしかない二人だった。
カイと双市朗は意気揚々と帰りのボタンらしきものを押し、帰路に立った一行である。
カサンドラはカイや子分が気にしていない様子なので、何とか気分を変えて、
「ちゃんと戻っているのかねえ、行きより時間が掛かっていない?」
と聞いてみた。何気なく当たり障りのない話題として。しかし彼等にとっては、当たり障りがあったらしく、
「え、そうかな」
とか、カイはソワソワ誤魔化す風だし、子分は、
[どうか~~もう少し御辛抱ください~~]
等言い出した。
別に気にせず、辛抱もしていなかったカサンドラだが、
「図星だった訳?」
「いやだあ、双市朗。あんたも何とか言ったらどうなの」
イヴが口を割りそうな双市朗を追及した。イヴの予想どおり、双市朗は口を割った。
「さっき押したボタン。間違えたんじゃないかな」
[わたくしめは~見ておりました~~恐らく今向かっているのは~最初の時点~第16銀河辺りではないかと~~でも~御心配には及びません~わたくしめが~もう一度~ムニン22’様がセットした時点に~カサンドラ様を~お連れする所存です~~]
「うわぁ、だれ、その間違えたボタン押したのは」
カサンドラが叫ぶと、
「あいつに決まっているじゃない」
イヴに言われて、しょげる双市朗である。
「ま、良いんじゃない。過去の環の仇を討ってくれた事だし。子分が、何とかしてくれるって言うし」
カサンドラはとりなしておいた。