同伴者
「あ、西岡部長だ」
資料を抱えながら廊下を歩いていると進行方向に、部長が歩いているのを見つけた。彼の左側には髪の長い女性、右側には可愛い男の子が寄り添っている。社員が家族を連れて会社に来るのは珍しいことだ。
確か、部長は今日出張から帰ると先輩達が話していた。家族を連れているのは、出張先で何かあったのだろうか?こちらに背を向けている為、部長の表情は見えない。
「いいなぁ……」
綺麗な奥さんとお子さんに囲まれて幸せだろうと、思わず素直な感想が口から漏れた。
「何がだ?」
「うわぁ!? 国枝先輩!」
真横からの声に僕は飛び上がり、廊下に僕の情けない叫び声が響いた。
「西岡部長の何が良いって?」
「うぅ……綺麗な奥さんと可愛らしいお子さんが居ていいなと……」
顎をしゃくり先輩が話しの続きを促す為、感想をそのまま口にする。きっと先輩は、新人の僕には結婚よりも仕事を覚えろと怒るだろう。
「……いや、部長は結婚をしていないが?」
「え? ですが……」
先輩の予想外の回答に困惑するが、僕は進行方向を指差す。
「出張先で余計なのを連れて来たな……」
普段よりも低い声を出すと、先輩は部長へと急ぎ足で駆け寄った。
後日、部長が違う女性を連れていたが、未婚ならば誰と付き合っていても問題ないのだろう。西岡部長はモテるのだろうと気にしないことにした。