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非常口

 

「えっと……資料は届けたし、この後は……」


 自分に与えられた仕事を終え、社内の廊下を歩く。次の仕事を確認しようとズボンのポケットからメモを取り出す。


「おい! お前! 何時迄、待たせる気だ!?」

「そうよ! 私達を馬鹿にしているの!?」

「えっ!? あの?」


 突然、会議室から年配の男女が十人程飛び出して来た。そして怒り心頭の様子で僕へと詰め寄る。彼らの怒りの原因が分からないが、会社を訪れ部屋に通されていることから客人であることが分かる。


「此処は本当にどうしょうもないな!」

「全くだわ!」

「……お客様、落ち着いてください」


 次々と声を上げ彼らを落ち着かせないことには、事態を把握することは不可能だろう。僕は彼らに言葉をかける。


「なっ! 停電か!?」

「何よ!? 嫌がらせ!?」

「危ないですから、動かないほうが……あれ?」


 不意に電気が消え、廊下は暗闇に包まれた。この廊下には窓が無い為、光源は電気だけが頼りである。それが消えた現在、無暗に動くのは危険だ。そう考えていると、赤い光が廊下の先にあることに気が付いた。非常口の光だ。


「非常口だ!」

「こんな所、早く出ましょう!」

「……ん?」


 客人たちもその光に気付き、歩いて行く。しかし緑色に照らされた文字に違和感を覚え、僕は足を止めた。


「一体どうなっているのだ、この会社は! 不愉快だ! 帰らせてもらう!」

「この件についても後日、追求させてもらいますからね!」


 口々に文句を言いながら客人たちは全員、扉の向こうへと姿を消した。


「誤字なのかな? 先輩に報告した方がいいかな?」


 扉の下で僕は一人、首を傾げる。すると、背後から鍵が開く音がした。振り向くと、非常口が現れていた。


「うん、こっちが正しいよね」


 文字を確認すると、僕は非常口の扉を潜った。


 〇


「災難だったな」

「あはは……。ですが、文字が『非情口』になっていたのは直した方がいいと思います」


 非常口を出ると、国枝先輩と出会った。非常口から出てきた事を伝えると、自販機でカフェオレを買ってくれる。缶を受け取りながら、非常口の誤字について報告をする。


「非常識な奴らだから気にしなくていい」


 先輩は先に飲み終わった缶をゴミ箱へと捨てた。


 その後、文句を口にしていた客人たちを二度と見ることはなかった。



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