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マジカルリリスの深秘録  作者: 諸星影
ROUTE1(プロローグ/ドッペルゲンガー事件Ⅰ)
1/6

1-00  最悪の魔女

公開予定の五作品の内の第一作目です。

コンセプトとしては『魔法』×『探偵』のローファンタジーとなります。

 深夜、とある高層ビルの屋上の塔屋から一人の少女が姿を現した。


 彼女の名は『百目鬼めぐる』

 ――――現代魔法界において最も危険人物として名を馳せている

 《魔女》である。


 彼女の導線には左右等間隔で仰々しい服装に身を包んだ顔も見えない人物

 たちが等間隔で配置され、その先には無機質な処刑台が設置され月明かりの

 下に照らされている。だがしかし、めぐる本人は両手足に嵌められた特殊な

 手錠の拘束に加え、視界を塞ぐための目隠しをされているためそれを見る

 ことはできない。


 ここは魔法犯罪専門の処刑執行場。

 魔法界における重要犯罪を犯した者を罰する聖域である。


 普通ならここで恐怖に戦き錯乱するものも少なくない。しかし彼女は恐怖を

 覚えるどころかあたかもこの状況を楽しんでいるかのように口元を緩ませ、

 まるで散歩でもするかのように軽い足取りで前へと進む。



「あー私は今日死んでしまうのかしら、どうしましょ」



 誰に告げるでもないその言葉は静かに夜風へと攫われる。だがそんな彼女の

 飄々とした態度に文句を言うものは誰もいない。彼女の左右に道を成して

 いる者たちはあくまで死刑執行の監視役であり、彼女が妙な行動を起こさ

 ない限りその場から一歩たりとも動くことはない。


 だからこそ彼女もまたそのことを理解した上でわざと足をふらつかせて

 みたり、身体を一回転させてみたりと自由に振る舞ってみせる。その姿は

 まるで子供のようでもあり、彼女の純粋さを窺わせると共にその内面に

 抱える異常性をとても良く表していた。


 だがそれも時間の問題であり、彼女が足を前に進めるにつれ処刑の時刻は

 刻一刻と迫る。そして彼女は今、自身が処刑台の階段の前に立っている

 ことに気が付くと立ち止まり戯けた態度をやめる。


 それから彼女は数瞬の後、一歩また一歩と噛み締めるようにその階段を

 上がり処刑台を登り始め、そして階段を登り切ると目隠しで見えないはずの

 夜空を見上げ呟く。


「今日はとてもいい天気ね」


 すると彼女のその呟きに対し、処刑代の上で目の前の男が言葉を返す。


「お前のような者でもそのような感想を持ちわせるのだな」

「あら、随分失礼じゃない。私を何だと思っているの?」


 その問いに司祭風の服を着た格式高い雰囲気の男は落ち着いた様子で

 ハッキリと機械的に答える。


「そんなの決まっている。お前は魔女だ」


 その答えにめぐるは少し呆れた様子で微笑み首を傾げる。


「そういう形式的なことじゃなくて、あなた本人はどう思っているのかしら?」

「どちらにしろ同じ答えだ」


 すると司祭風の男は彼女との会話をそこそこに、呼吸を整えると

 閉じ切ったままの本を胸の前に掲げ宣言する。


「ではこれより処刑を開始する」


 司祭の声に場の空気が一気に張り詰め、周囲の気温が一気に下がったような

 感覚をめぐるに与える。だがそれでもめぐるの薄笑いは変わらず健在だ。


「死刑囚百目鬼めぐる、言い残すことはあるか?」

「あるわよ」


 司祭に処刑前の最後の言葉を尋ねられると、めぐるは突然キョロキョロと

 辺りを見回すような仕草を取り始める。そしてしばらくして彼女は何か思う

 ことがあったのか少しの沈黙の後、怪訝そうな表情を浮かべる。


「どうしてあなたは一人なの?」

「…………なんだと?」


 司祭はめぐるの表情の変化に警戒を示しながらも彼女の反応を窺う。


「質問の意図が判らないな」


 するとめぐるは声のトーンを落としながら言葉を返す。


「私は、私を捕まえた人がどこにいるかを聞いているの」

「神裁教のことか。彼女はここにはいない」

「どうして? あの人は最後まで私のことを見守る義務があると

 思うのだけれど」

「それを決めるのはお前ではない」

「じゃあ誰が決めるの?」

「それは彼女自身だ」

「あっそう」


 するとめぐるはその答えに満足することができず、またしても子供のように

 視線を左右に泳がせる。


「――――お前の存在は危険だ。故に処刑は秘匿して行われる。

 言い残す言葉は選ぶべきだぞ、百目鬼めぐる」


 機械的なやりとりの中、めぐるは不満感を前面に出しながら自身を捉えている

 手錠を持ち上げ、目の前の男を見つめる。この男もまた自身を捕まえた相手と

 同様にめぐると対等に渡り合える実力を持つことは彼女本人も重々に承知

 している。


 だが、だからこそこの場に私を捕まえた《あの女》がいないことが不服で

 ままならない。何故なら、私を殺していいのは私を捕まえたあの女だけ

 なのだから・・・。


「――――本当にこの場にいる全員で私を押さえておけるつもり?」

「無論十分だろう」


 めぐるの問いに間髪入れずにまるでそれが当たり前であるかのように語る

 司祭。それに対し彼女は怒りを見せるどころかより一層の落ち着きを

 取り戻す。そして勝利を確信している男にめぐるは冷たく言い放つ。


「私も甘くみられたものね。見込み違いも甚だしいわ」

「なに?」

「ほらよく見てみなさい、あなたの可愛いお仲間さんがどうなっているのか」


 するとめぐるは自身の上体を反らせ、ワザとらしく処刑台下の方に視線を

 向ける。その様子に処刑人である司祭もまた彼女と同様に処刑台の下に

 目を見張る。


 そして司祭は自身の目を疑った。何故なら先程まで処刑台の下で列を成していた

 自身の部下たちが全員、無様にも地に臥していたからだ。


「なんだと――――」


 司祭はその予想外の光景に驚嘆といった声を漏らす。

 だが彼は狼狽することはなく、瞬時に思考を巡らせる。


 前提として死刑対象者であるめぐるは全身の拘束具により魔法の行使は不可能

 な状態にある。そして事前の身体検査では何も異常は見当たらなかったことを

 踏まえるとこれは彼女自身の所業ではないと考えられる。


 加えてこの処刑場は高度な魔法結界によって一種の儀式的空間として

 確立されている特殊な空間である。その為、部外者の侵入も現実的ではない。


 司祭はそのことを誰よりも理解しているが故に、方法が判らず困惑する。

 そうして眉を顰める司祭に対しめぐるは意気揚々と声を上げる。


「あら随分不思議そうなご様子ね、司祭様?」

「――――貴様、一体何をした」


 司祭はめぐるのイタズラチックな質問にようやく怒気を顕にする。


「そうそれよ、人間感情がなくちゃ面白みがないわよねッ!?」

「答えろ魔女め!」


 司祭は彼女に一喝する。

 だが彼女は司祭の質問には答えず、彼の困り顔に気を良くしたのか月明かりの

 下でニヒルな笑みを得意げに浮かべる。


 すると彼女の視界を妨げる布が徐々にずれ落ち、それを機にめぐるは自身を

 縛る全身の拘束具を解き放ち一糸纏わない姿で両手を広げる。


 星空の下、めぐるの酷く透き通った白い肌は、蒼白い月光を反射させ彼女を

 美しく輝かせる。


 「さあ踊り明かしましょう。魔女との狂気のダンスを――――」

ご閲読ありがとうございました。

これからも不定期ではありますがローファンタジーを中心に小説を投稿して

いきますので、応援よろしくお願いいたします。

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