高嶺の花と言われている彼女、実は幼馴染だが学校では話しかけるなと言われている。しかし、何故か電話では低姿勢でツンとデレのギャップが激しすぎる件
委員会の用事を終えて校舎を出ると見慣れた後ろ姿があった。
少し茶色がかった褐色にゆるふわウェーブのロングヘア―でモデルのような背丈の女生徒。後ろ姿でも美人だと思わせる容貌をしている彼女が俺の幼馴染だということはすぐに分かった。
幼馴染とはいえ、最近は疎遠になっており話すこともなかった。とはいえ最近は委員会も一緒になったことで接点ができたのでこのままではまずいと思い、勇気を出して話しかけてみることにした。
「愛、久しぶり!良かったら一緒に帰らないか?幼馴染なんだし家も近いんだからたまにはさ」
少し馴れ馴れしいか?とも思ったが幼馴染なんだしこのくらいフランクに話しかけても良いだろう。
「相良君、久しぶり…」
心なしか表情が硬く見えた。
確かに幼馴染とはいえ少しグイグイ行き過ぎたかと反省していると
次の瞬間、とんでもない発言が飛び出してきた。―――
―――「すみません。貴方と一緒に帰っているところをあんまり他人にみられたくないから……」
絶句した。
返す言葉が見つからずおろおろしていると、愛は足早にその場を後にした。
俺はただ、その場に立ちつくすしかなかった。
二条愛
俺の幼馴染である彼女は容姿端麗な上に頭脳明晰、ピアノやらバイオリンやらのコンクールでも常に賞をとっている完璧超人だ。しかし、そのスペックと比例するようにプライドも非常に高い。
一方、俺、相良仁はうだつの上がらない何もかもが普通過ぎる冴えない高校生だった。
確かにあそこまで言われるのも無理はない。俺と愛じゃ立場が違いすぎるからな……
と、今日の帰り道に起こった出来事を思い出しては反省と自己嫌悪にさいなまれていた。
そんなことを繰り返していると、突然電話が鳴った。
なんだこんな時間に……
手に取ると知らない番号だった。知らない番号の電話を出るのは少し抵抗があり電話を受けるかどうか一瞬、逡巡したが、反射的にいつもの癖で通話ボタンを押してしまった。
しまった……
「もしもし……」
出てしまったものは仕方ない。迷惑電話だったらどうしようとか思いつつ恐る恐る声をかけた。
「もしもし、相良君?」
聞き覚えのある声に俺は一瞬歓喜した。
幼馴染の聞きなれた声がしたからだ。
しかし、その喜びも今日の放課後の出来事を思い出して一瞬で消え失せた。
「愛……どうした?こんな時間に」
今日のことを思い出して少し声に怒気がこもる。
「相良君、夜分遅くに失礼するわ。あれから今日の放課後のこと少し言い方がきつかったかなと反省したの……本当にごめんなさい」
「いや……全然気にしてないからいいよそんなこと」
それは嘘だ。メチャクチャ気にしてたが、それを愛に知られては何か恥ずかしいと感じて咄嗟に取り繕ってしまった。
あと、こんな低姿勢な彼女の声を聴いたのは初めてなので少し驚いた。幼馴染として長い付き合いだが非常にプライドの高い彼女が反省していることなんて今まで見たことがなかった。
「それより、そんなことのためにわざわざ電話くれてありがとなッ!」
気にしてないことを強調するために精一杯の強がりを言って見せた。
「相良君……お願いがあるのだけど、学園では私に話しかけないでもらえる?」
この言葉を聞いた瞬間、俺の心は粉々に打ち砕かれた。
「え?……なんで、俺何かしたかな?…」
心当たりがないわけではない。だって、学園1人気の彼女と何もかもが普通過ぎる俺では確かに釣り合っていないということは重々承知していた。しかし、話しかけることすら断られるとは…さすがに心が折れた。
「ううん、何をしたという訳ではないの。ただ、私と貴方が喋っているところをほかの誰かに見られたくないのよ」
まあ、そうだよな。この頭脳明晰、容姿端麗な完璧超人の彼女が俺と話したりしたら格が落ちるってもんだ。
そう無理やり自分を納得させようとしていた。
「そうか…分かった。俺、もう愛に話しかけたりしないから心配しないでくれ。もう金輪際関わらないよ」
そう言った刹那―――
―――「待ってッ!誤解しないで。あくまでも学園内で話しかけないでと言っているだけでプライベートでは問題ないわ」
珍しく彼女が取り乱した。長い付き合いだが彼女が感情を露わにしているところはめったに見ない。ということは俺のことを少しは気にかけてくれているのか?いやいや、思い上がるのはやめよう。そんなはずないのだから…。
というか『プライベートでは問題ないわ』ってなんだよ。なんで俺が話しかける前提?
その言葉はまさにプライドの高い彼女らしさを如実に表していた。
「という訳で、私の話したかったことは以上よ。相良君、改めて夜分遅くにごめんなさい。おやすみなさい」
そう一方的に告げると彼女はすぐに電話を切ってしまった。相変わらずマイペースというか何というか…まあそこが彼女らしくはあるのだが。
とりあえず嫌われているわけではないっぽいので一安心か…。
ベッドの上で今日の出来事の反省会を一人でしていると、いつの間にか眠りについていた。―――
―――これにて親愛委員会の定例会議を終わります。
学園で授業を一通りこなした後に俺はいつも通り委員会に出席していた。
親愛委員会。この委員会では学園の生徒が仲良く、お互いを尊重した関係を作るための手助けなどをしている。具体的にはクラス単位でのちょっとした催し物の主催など、対人関係において悩める生徒を救うという役割を担っている。
その委員会に俺の幼馴染である二条愛もいるが、昨日電話で学園内で喋りかけるなと言われた影響もあってか逆に強く意識してしまう。
そして委員会も終わりをつげたので俺は一足早くこの教室から出たい衝動に駆られていた。喋りかけてはいけないと強く意識する緊張感から早く解放されたかったからである。
俺は委員会で配られたプリントをすぐにカバンに詰め込むと、駆け足で教室の出口の方へと向かった。―――
―――ドンッ
急いでいたので周りが十分に見えておらず、誰かにぶつかってしまった。
「ごめん!大丈夫か?」
誰か確認せずに咄嗟に声をかけてしまった。
しかし、それが約束を破ることになるとも知らずに……
そう、ぶつかった相手は愛だった。
「……」
愛は無言でこちらを見つめている。というより睨んでいると言った方が正しいか。
それもそのはずだ……。だって俺は意図していないとはいえ約束を破ってしまったのだから。
すると…周りが何やらにやにや笑いながらこちらをみていた。
何だこの状況?なんで皆こっちを見てるんだ?そんなことを考えているとその中の一人がこちらに向かって声をかけてきた。
「二条先輩ッやりましたね!」
女生徒の一人が愛花に向かって意味不明なことを言っている。
その生徒が愛に話しかけたのを皮切りに続々と生徒が愛のもとへと集まってきた。
「愛、良かったじゃん!相良と話せて」
すると別の女生徒がそう口にした。
ん?どういうことだ?なぜ俺と話したことが良かったことになるんだ?
この意味不明な状況と発言によって俺の脳内は完全に混乱していた。
俺のポカンとした顔を見て、その生徒は笑いながら説明を始めた。
「最近、愛悩んでたんだよね。幼馴染と話せてないって。いわゆる疎遠ってやつ?私が話しければ?って言ったんだけど今更どうやって話しかけたらいいのか分からないって悩んでた」
え?愛が俺と話したがってた?どういうことだ?
だって彼女は俺に学園で話しかけるなっていっていたんだぞ
意味が分からない……。
「いいわ、もうこうなってしまったら私が説明する。みんなありがとう」
そう愛が口を開いた。
「私、実は委員会のみんなに相談していたの」
「何を?」
俺は咄嗟に反応した。早くこの状況を理解したかった。
「相良君と疎遠になってしまっている状況を改善したかった……でも今更、どうやって話しかけたらいいのか分からなかったから……そうしたら委員会のみんなが協力してくれると言ってくれたの」
そうか、確かに親愛委員会の理念に合致している。人間関係に困っている生徒をサポートするのがこの委員会の役割だから。
「それで…今度あるクラス別の委員会の行事で私と相良君をペアにしてくれるという話だったんだけど……」
「昨日あなたが突然、私に話しかけてきてくれたからその必要もなくなったわ…」
そうか。愛は委員会のみんなに遠慮して俺に学園内で話さないでと言っていたのか。俺と愛花が話していたら委員会のみんなの計らいが無駄になってしまうと危惧したという訳か。
全ての合点がいった。
「みんな……」
委員会のみんながにやにやしているとさっきはそう見えていたが、今は優しい微笑みにみえる。
今まではすれ違っていたけれど今からでも遅くないはず……
「愛がそんな風に考えていてくれていたなんて……」
「勘違いしないでッ、あくまでも幼馴染として元の関係に戻りたいという訳で、深い意味なんてないから!」
それでも良い。だってあのプライドの高い愛が俺と打ち解けようとしてくれた事実だけで胸がいっぱいだった。
もうスペックだとか何とかを言い訳にするのはやめよう。
そう思って愛の顔を見つめると、心なしか少し微笑んでいるように見えた。
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