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バートウィッスル侯爵のアッシュフィールド辺境伯家訪問の噂は翌日には公都中に広まった。

外出する先々でこちらを伺いながら噂する人たちにオフィーリアは辟易する。

たまに直接噂の真偽を訪ねてくる令嬢たちがいるので、そういった場合は外出を切り上げて早々に屋敷に帰宅する。外に出るのも億劫で屋敷に籠りがちになった。


そして、バートウィッスル侯爵の訪問から3日後の午後。

侯爵の代理として叔父にあたるトルトランド伯爵が親書を持ってアッシュフィールド家を訪れた。

父ギルバートが対応しオフィーリアがトルトランド伯爵に直接会って話をすることはなかったが、その夜父に呼び出された。

書斎には父だけがおり、向かい合ってソファに座ると件の侯爵の親書を広げて父はオフィーリアに言った。


曰く、オフィーリア次第だと。

私がバートウィッスル侯爵の求婚を受けたいのであれば反対はしない、あとのことは父が手を打つと言う。


オフィーリアはしばらく考えたいと返事をしてその夜の話しを打ち切った。

翌朝、荒れ狂った母の相手で気力を大きく削ぎ落とされたが夜には欠席出来ない夜会が控えていた。

父ギルバートの姉が嫁いだラッセンバーム伯爵家主催の夜会だ。ラッセンバーム伯爵夫人オルガはオフィーリアの社交界デビュー時の付添人を務めた方なので、彼女の招待を断ることは不可能に近い。


「公都中の噂の的になっている今の気分は? オフィーリア?」


父よりも色の濃い紫の瞳をした伯母オルガは揶揄いの色を隠さない。


「…伯母様は私を揶揄って楽しいですか?」


「ふふふ。可愛い姪を心配してあげているの。愛よ、愛」


ラッセンバーム伯爵家の夜会は参加者30人程の比較的小規模な会だった。

現アシュリー公の生母ララネット太公妃の生家であり、現宰相を務めるラッセンバーム伯爵の古い友人を中心とした貴族が主に招待された落ち着いた会だったが、パトリシアと共に現れたオフィーリアを目にした参加者たちはそれまでしていた話を止めてオフィーリアに注目した。


伯爵や父の知人方に一通りの挨拶を終えた後はワインを片手に壁際に移動し、一緒に参加しているパトリシアはいとこ達に連れられてカードゲームのスペースへと行ってしまったのでオフィーリアは一人杯を重ねる。

魔力量の多いオフィーリアは酒の分解が早いためいくら飲んでも酔っ払うということがない。薬の類も同様で身体が異物と判断して勝手に分解してしまう。酒で酔うことはないので香りと味を楽しむだけだ。


今夜のオフィーリアは深緑のスレンダーラインのドレスに、年配者も多い夜会なので華美な装飾はせず真珠のイヤリングとネックレスのみ、髪もシニョンに纏めたシンプルな装いだ。

夜会の準備をする際にメイドたちが選んだドレスの色は青。暗にバートウィッスル侯爵を連想させる色のドレスだったため軽く頭痛がしたのだった。

ちなみにパトリシアはデビューしたての初々しさを感じさせる萌黄色のプリンセスラインのドレスを着ており、姉の目から見ても大変可愛らしい。


しばらく一人飲んでいると伯母オルガが新しい飲み物を持ってきた。

受取ったグラスはオレンジジュースだったので、未婚女性が酒ばかりを飲むなとの伯母様からの忠告だ。


「バートウィッスル侯爵ならお相手として良い方なのに、どうして受けないのかと夫が気を揉んでいたわ」


「宰相閣下にまで気にかけていただき光栄です」


「早々に話を纏めてしまった方が貴女も母親の干渉から解放されて良いのではなくて?」


「……」


「受けたくない、何かがあるの?」


「…バートウィッスル侯爵は良い方だと思います。ですがあまり接点がない方ですし、五大侯爵家筆頭と家とでは正直つり合いが取れていないのではないですか?」


「そうかしら? アッシュフィールド嫡流筋の貴女なら十分に侯爵家とつり合いは取れているわよ? それに忘れている様だけれど、貴女は第一公子殿下の妃候補だったこともあるじゃない」


「何年前の話ですか。それに20人近くいた候補の中の一人であって、名前だけが上がっていただけという話ですよ? 個人的に公子様と会ったこともありませんでしたよ」


「そうだったかしら?」


「結婚、をしなければならないことは判っているのですが…」


「このままバートウィッスル侯爵としても良いのか不安?」


「不安がない、とは言い切れないというか…」


「今まで親しくしていた方ではないかもしれないけれど、あちらは貴女を正妻に望んで下さっているのよ? これから互いを知っていけば良いのよ、気負うことはないわ。…それとも、バートウィッスル侯爵では不満?」


「そう思ってくれていると僕は嬉しいな」


「そのような、って、えぇ?!」


伯母と二人だけの会話に突如割り込んできた人物。

広間の入口から離れた場所に居たためその人が遅れて夜会に参加していることも気づいていなかった。


「で、殿下?! ウイリアム殿下?!」


「こんばんわ、オフィーリア嬢。良い夜だ」


アシュリー公国第二公子ウイリアム殿下はにこやかな表情でオフィーリアの前に現れた。


「伯爵夫人もご機嫌麗しく、素敵な会ですね」


伯母にも挨拶をしたウイリアム殿下は改めてオフィーリアに向き直る。


「ご婦人同士の語らいを邪魔して悪いが、オフィーリア嬢をお借りしても良いだろうか?」


「えぇ。もちろんですわ、殿下」


オフィーリアを見ながら伯母に許可を求めているが、この場合伯母に拒否権はないも同然。

周りの目を意識した形だけの会話だ。


「あちらに宰相ご自慢のサンルームがある。そちらで飲み直しといこうか」


持っていたオレンジジュースのグラスは取り上げて、広間に隣接したガラス張りのサンルームを指してエスコートされる。

手を取られて歩くと決して多くはない衆人が割れた。

その中を殿下と並んで歩く間、オフィーリアは顔の筋肉が引きつけを起こさないことを祈った。





つづく。

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