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一体何本あるんだろう?!

バートウィッスル侯爵から渡された薔薇の花束を受け取ると、ズンッと音がした。


重っ!!


傍で控えてくれている執事のドーソンが思わず手を出そうとしていたのを視線で制止し失礼が無いように笑顔で対応する。


「素敵なお花をご用意いただきありがとうございます、侯爵様」


「喜んでいただけたのなら幸いだ。貴女に一番似合う花を持ってきました」


「大事に飾らせていただきます」


重たい花束をドーソンに渡し活けてくるように頼む。応接間を出ていく執事と入れ替わりにティーセットを持ったメイドたちがお茶の準備を始めてくれたのでソファに腰掛ける。

お茶の支度が行われている間バートウィッスル侯爵がオフィーリアを見つめてくる。


「どうか、エリオットと呼んでほしい」


「そのような無礼なことはできません。侯爵様に失礼があっては父に叱られます」


「無礼なことなどありません! 私からのお願いなのです、貴女にはどうか名前で呼んでいただきたい」


「………………では、お言葉に甘えてそういたします。エリオット様」


チラチラ伺うメイドたちからの視線が痛い。どうしたものかと躊躇うが、正面に座るバートウィッスル侯爵様の笑顔の圧に負けてしまう。

花束の処置を終えたドーソンが応接間に戻ってきて、お茶の支度を終えたメイドたちと共に壁際に控える。一応未婚の男女なので必ず第三者が控えておく決まりだ。


エリオット・ヘンリー・バートウィッスル侯爵。


公国に5つしかない侯爵家のなかでも現在筆頭の名門貴族。

公国の南東に広大な領地を持ち、強い発言権と影響力を持っている。

5年ほど前に先代侯爵より爵位を継いで現在は30歳独身。

上級貴族としては珍しく婚約者もいないまま爵位を継承したので、年頃の令嬢を持つ夫人たちはもちろん結婚適齢期の令嬢たちからも花婿候補としても注目を浴びている。


しかしご本人はまだ結婚するつもりがない様子で特定の恋人なども作らず、社交界では紳士的な態度を取っていらっしゃる方だ。

一部で男色との噂もあるのだが、過去の夜会などでお話した様子からはノーマルな恋愛観をお持ちの様だったので只の噂なのだろう。


まぁ、男でも思わずクラリといってしまうのも無理がないとも言えない大層いい男なんだな、この人。


さらさらな金髪に切れ長の瞳の色は青。

女性としては高い身長のオフィーリアよりも頭一つ分は目線が高いところにある。

近衛騎士として務めていて日々の鍛錬も欠かされず、しなやかな筋肉が付いたお身体は逞しく、近衛の制服を纏う姿は多くの令嬢たちを気絶させてしまう兵器だと言う。


舞踏会に参加をすればたちまちにダンスを申込みたい令嬢たちの長蛇の列ができてしまうので、本日はどの家の令嬢が最初のパートナーになれるのか注目の的で賭けもされているのだとパトリシアが言っていた。そう、本日の舞踏会。


「失礼ながら、エリオット様は本日宮殿にいらっしゃらなくてよろしいのですか?」


「参りましたよ。ですが早々に辞してきました」


「それではパートナーの令嬢がお困りなのではないですか?」


「我が家は今年デビューする令嬢はおりませんので気遣いは無用です」


「ではなぜうちに? 父に御用でしたら本日は母や妹と共に宮殿におりますよ?」


「…………」


なぜそこで黙るんですか~?


「あの~、エリオット様?」


「分かりませんか?」


はい、私に読心術の能力はございません!


「やはり貴女はあの頃のまま、変わりませんね」


バートウィッスル侯爵は笑っている。


「……私、エリオット様とは16の時に夜会で数回お話をした事しか覚えていないのですが。それ以外で、どこかでお会いしていましたか?」


少々失礼かとも考えたが、思い切って尋ねてみることにした。

オフィーリアの質問に気分を害した様子も見せずバートウィッスル侯爵は興奮気味に教えてくれる。


「えぇ! 貴女のデビューの時には舞踏会でも一曲踊りましたね。覚えていますか? それにあの戦場でも貴女の姿を私はこの目で直に見ていました」


「……覚えておらず、申し訳ございません」


「良いのですよ。あの頃の貴女は、それこそ私などに気を向けている余裕はなかったはずです。常に目の前の脅威のみを見据えて、すべてを注いでいた。その姿が本当に美しかった」


「そうですか?」


「血狂いの魔女。あの戦が始まった当初、貴女をそのように呼ぶ短慮な者たちがおりました。ご存じでしたよね?」


「はい」


「私は怒りしか感じませんでした。誰よりも称賛されるべき人が貶められていることに。そして貴女の助けになれない私自身にもね」


「侯爵様がその様に思われる必要は」


「あるのですよ。いいえ、ありたいと心から思っています。だからは私は貴女に会いたかった」


「侯爵様」


「エリオットですよ、オフィーリア。突然押しかけてこのような話をして申し訳ありませんでした。今日はこれで失礼します。貴女が舞踏会に参加していないことを知って衝動に任せて来てしまいましたので、後日改めて正式な申し込みをさせていただきます」


バートウィッスル侯爵が立ち上がりオフィーリアの傍まできて跪く。

壁際に控えるメイドたちや執事が見ていることも気にせず、オフィーリアの右手を取って長い口づけを落とすと唇が離れる最後にぎゅっと力を入れて握られてしまう。


「良い返事を期待しています」


見送りは結構、と笑顔で言って応接間を出ていくバートウィッスル侯爵の後をドーソンが慌てて追いかけて行くのをオフィーリアは茫然と見送った。人間驚きが過ぎると反応が出来なくなるらしい。オフィーリアはソファに崩れ落ちる。


「お嬢様!? 大丈夫ですか?」


メイドたちが駆け寄って来るが脱力したまま起き上がれそうにない。

手を握られた時にばっちりバートウィッスル侯爵の青い瞳を見てしまった。


「獲物を狩る猛禽類の目だったわよ、あれ! 常に紳士的な方なんじゃなかったの?!」


「お嬢様、お顔が真っ赤です」


「赤くもなるわよ~。あんな色気の濃い挨拶の仕方があってたまるか~」


「あらあら、初心なことをおっしゃいますこと」


「社交辞令しか知らないわよ~」


「お嬢様これはチャンスですわ!」


「なにが~」


「これは奥様からの厳命が解決するってことですよ?」


「あ~」


「あちらは侯爵家ですから家格も申し分ないですよね? 年齢は、8歳差ぐらい問題ありませんよね? 身長もありますし、何より大変お美しい! 美男美女のビッグカップルです!」


「悪かったわね、背ばっかり大きくて~」


「前向きに考えてくださいよ!」


「む~り~」


メイドたちとの問答をしている間にバートウィッスル侯爵の見送りを終えたドーソンが舞踏会に参加中の両親に来客とその趣旨を早馬で知らせてくれていたらしく、予定より少々早く屋敷に戻ってきた母上が興奮気味に部屋に押しかけてきた。


「お受けするわよね?!」


「母上。まだ申し込まれていませんから、落ち着いてください」





つづく。

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