表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

家令からの母危篤の知らせを父を介して聞いた時、オフィーリアは嘘だと思った。


直感的に。


だって、あの母上よ? どの母だって? 失礼な、我が父アッシュフィールド辺境伯ギルバートの妻は我が母ライラただ一人よ。


アッシュフィールド家の4人の子供たちは全員同じ父と母から生まれたのに、その体質は大きく分かれてしまった。

4人のうち下2人が魔力保有量0。その事実に両親をはじめ一族中が驚愕した。傍系であってもアッシュフィールド家と血が近い者なら魔力保有量は軽く100を超えるはずだからだ。

しかし次女パトリシアと次男ルシアンの魔力保有量は0。しかも身体的特徴まで一切受け継がれなかったことが母を追い詰めた。

アッシュフィールド家の者は黒髪紫眼の身体的特徴があるのだが、加えて魔力量が多いほど瞳の色は薄い紫色をしているのだ。パトリシアに続いてルシアンの魔力保有量が判明した当時、まだ先代辺境伯夫人つまりオフィーリア達の祖母が健在で母ライラを責め立てた。


所謂、母体の力不足。はたまた母の不貞。もちろん不貞の事実などはなく、ボーフォート子爵令嬢だった母の魔力保有量は25。貴族としてもそこそこの魔力量だし、現に長男クライブと長女オフィーリアを産んでいる。


高齢で感情的にもなりやすくなっていた祖母は病弱なクライブの代わりであるルシアンの魔力量0の事実を受け止めることが出来なかったのだろう。そのシワ寄せがすべて母に向けられてしまい、祖母が女神様の元に旅立つまでの期間は正直きつかった。


代々アッシュフィールド家に使えてくれている家令ロニー曰く、ここまで家の特徴たる魔力保有量に差が出た世代は記録を遡ることが出来る限りでいまだかつてなかった、と。


もちろん隔世遺伝もある訳で、次男ルシアンが家を継ぐことに問題はないはずだが、希望的予測だけで決断してはならないのが貴族だ。常に現実と事実を見極め将来の決定を行わなければならない。一族そして領民のため、誤った決断をしてはいけないのだ。


しかもアッシュフィールド家には魔力が無くては継承できない諸々の事情もあり、現在継承問題勃発中。


そんな中で新年祭で帰省して以来数ヶ月顔を合わせていない母ライラ危篤の知らせ。




「……オーリはどう思う?」


「どう、と聞かれましても……。うそ、ですよねこれ」


これ、と指さすのは家令ロニーから届いた屋敷からの火急の手紙。至急を意味する黒リボンで封をされてはいるが、訃報を表す黒百合の印は押されていない。


爪が甘いのよ、爺やは。


恐らく、母に脅される形で家令が泣く泣く出したのであろう。実際手紙には涙の跡が点々と残っている。


「この追伸って何ですか? 危篤の手紙にこんな文章加えます?」



『追伸 


 オフィーリアお嬢様を必ず、絶対にお連れください!むしろお嬢様お一人でも結構です!!


 旦那様はお役目を優先していただきオフィーリア様のみを屋敷に向かわせてください!!


 後生です旦那様!!』




「本文より長いですよ」


「ロニーめ、年々ライラの押しに負けおって」


こうして戦の事後処理など諸々を一通り済ませた親子はそろって屋敷に戻ることとなり、砦から馬を駆って二日をかけて屋敷に帰り着いた時には深夜遅い時間だったにも関わらず、玄関ホールでは家令と危篤の母が出迎えてくださったのだった。










「まぁ、ではそのドレスはローザンヌ洋品店の新作ですか?」


「あら、ケーネフ子爵様のところはおめでたですの? それはおめでとうございますわ」


「今話題の公立歌劇団のチケットが取れましたの? 羨ましいわ~」


きゃっきゃ、うふふのティーサロンは十数人程の夫人やその令嬢たちが楽しい会話に花を咲かせている。麗らかな日差しは心地よく、解放された庭でもガーデンパーティさながら令嬢と令息たちが談笑している。


公都キュリオスの屋敷に移って早半月。

その間に参加したお茶会、夜会の数々、ほぼ毎日のようにお茶やワインを飲み過ぎてお腹が痛い。だいたい母上も母上よ。招待状だけ寄こし放り投げるなんて無茶苦茶よ。


後ひと月と迫った妹パトリシアの社交界デビューの準備で家中が忙しくしているので、ここ数日の付添人は母の姉カールトン男爵夫人だ。オフィーリアはこの伯母が苦手だ。今だって隣に座る本日のお茶会の主催者ミュートリアム伯爵夫人と談笑しつつも鋭い視線だけは終始こちらを捕らえている。あの開いているのか少々疑問になる細い目の奥の緑の瞳を通して母上から監視されているように思えて仕方がないのだ。


「それで公都ではどのようにお過ごしで?」


「は? ……あ、いえ。失礼いたしました、アンドリュー様。公都に着いてからは皆様にご挨拶に伺うばかりですわ。…ほほほ」


問いかけられてオフィーリアは慌てて相手に意識を向けなおす。

相手はこのお茶会の主催者であるミュートリアム伯爵家の次男アンドリュー様。18歳独身。


年下。


年下は、正直ご遠慮したいです。お母様。


そもそも今日のこのお茶会に参加をしたのは社交界でも顔の広い伯爵夫人へのご挨拶のためだった。母上のことだからてっきり参加する先々で優良物件の殿方とお知り合いになっていらっしゃいと言われるかと思っていたのだが。以外にも相手の目星は付けていると言うではないか。まぁ、16歳で社交界デビュー後半年しか社交経験がないオフィーリアに自力で結婚相手を見つけられるはずもないのだ。


ではなぜ、アンドリュー様が隣にいるのかと言いますと、


「16歳での初陣の話は父からも聞いております。それに三年前のランサム王国の侵略時のご活躍の話も! 僕はまだ準騎士ですが、来年には正騎士の叙任を受けられそうなのです! 近衛への志願も考えましたが、貴女のお話を聞いて自分の甘さに気が付きました。今は国を守ることこそ騎士の務めと思っております!」


キラキラした眼差しで初陣や戦の話ばかり聞かれている。


何でしょうこの状況。アンドリュー様も周りをご覧になって? お茶会に参加している令嬢たちがチラチラと貴方を見ているというのに、彼女たちからの熱い視線に気づくことなくランランと目を輝かせ少年のように騎士としての理想を語る姿は弟ルシアンと重なる。





つづく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ