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アッシュフィールド辺境伯領は大陸北部を統べるアシュリー公国の最北部に位置する。

山岳民族からの侵略に目を光らせる他公国の名将として大陸諸国にその名を馳せる名門貴族である。


現アッシュフィールド辺境伯には4人の子供たちがいる。

生来病弱で一年の殆どを臥せる長男。

公国社交界の花と謳われた夫人の美貌を受継ぎ社交界デビュー迎える次女。

まだ幼いが心身ともに健康な次男。

そしてアッシュフィールド家の長女、今年22歳になるその令嬢は現在の状況に大変困惑していた。



父の辺境伯と共に戦から領地に帰省したのは昨夜遅く。家人たちへの挨拶もそこそこに土埃を落とすため湯浴みをした後は自室で昼近くまで休んでいたのだが、家令に起こされ令嬢付きの侍女に身支度を整えられたのちに連れてこられたのは母が一日の大半を過ごすサロン。


今年26歳になる長男を筆頭に4人の子供がいるとは思えない美貌のアッシュフィールド辺境伯夫人ライラは艶やかな赤毛を結い上げ貴婦人然とした微笑を称えて娘を迎え入れた。


目の前のテーブルに数多の貴族令息の釣り書きを並べて。


「オフィーリア、貴女には半年以内に婚約して一年以内には結婚して貰いますからそのつもりでいなさい」


「……は?」


夫人の正面に置かれた4人掛けソファに腰掛ける令嬢、オフィーリアは母親の言葉が理解できず貴族令嬢としては少々品のない声を上げてしまった。

娘の態度に非難めいた視線を向けてくる夫人の鋭い眼光にさらされ、誤魔化すような笑みを返す。


「母上は今、婚約とおっしゃいましたか?」


「お母様」


「あ~、ははは」


「お・か・あ・さ・ま、です。オフィーリア」


「…お母様」


「よろしい。…婚約はあくまで通過点です。貴女には結婚をして嫁いでもらわなければなりません!」


「なぜ今なのでしょうか?」


 オフィーリアの質問にくわっ、と夫人の眼光がさらに鋭くなる。


「なぜ? いま?! 貴女の年齢を考えれば遅すぎるのですよ!」


「あ~ははは」


「笑いごとですか! 長男はともかく長女の貴女がいまだに婚約者もおらず嫁ぎもしないこの状況でパトリシアが社交界デビュー出来ると思っているの!!」


現在の貴族社会での結婚適齢期は16歳の社交界デビューから19歳。今年22歳のオフィーリアはすでに行き遅れと言われる年齢だ。

そこに今年16歳になる妹パトリシアがあと2ヶ月ばかりで訪れる春の社交シーズンでデビューをするとなると、貴族としては少々いや大変拙い状況となる。


アッシュフィールド辺境伯の次女パトリシアは姉の目から見ても可愛い少女だ。

母親譲りの艶やかな赤毛とクリっとした大きな緑の瞳。華奢な体つきだが、まだまだ16歳。これからより一層女性らしく成長するだろう。なにせ母はアシュリー公国一と称賛を受ける貴婦人、アッシュフィールド辺境伯夫人だ。


妹はその母の特徴を色濃く受け継いでいる。


オフィーリアとパトリシア。


姉妹の二人だがオフィーリアは父方の身体的特徴を受継いだ。その異才と共に。



「旦那様に何百何千と意見申し上げても『何とかなるだろう』としか仰らず、6年! 6年も婚約者すらいないまま、娘を戦場に行かせるなど言語道断です!」


「ですが、お母様。私は別に結婚は」


「結婚しないとでも?」


「あ~、ははは」


「結婚できなくても良いと?」


「あ~、………いえ」


ここで肯定してはだめだと本能が告げる。


「大体わたくしは反対だったのよ! いくら辺境伯家の才能が受継がれているからといっても貴女は女の子。それなのに旦那様はまだ幼い貴女に剣を持たせて稽古をつけ、挙句戦に連れて行くなんて」


「それは私も望んだことですから」


「個人の望みより貴族令嬢としての義務をお考えなさい!!」


夫人はテーブルに積み上げるように並べられた絵姿や手紙、書類の山を指さす。


「良いですか、オフィーリア。貴女は妹のため強いてはこの辺境伯家のため、必ず一年以内に結婚してもらいますからね! 覚悟なさい!」


こうなった母を止めるのは父でも無理かもしれない。




「…ははは」




今年22歳。


16歳からほとんどの時間を過ごしたのは戦場ばかり。


貴族令嬢としての社交など全く行ってこなかった自分が一年以内に結婚などできるのか。




つづく。

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