01
神と呼ばれる存在がこの世界にはたくさんいる。
それらの神々は、実に様々な個性を持っている。
火を司る神、闇を司る神、植物を司る神、薬を司る神など様々な神がいる。
神々は国を一つずつ守護したり、聖域を有したりとそれぞれの神が富と繁栄をもたらしているのである。
僕が暮らしている、ここ〈風の国〉ルウェイドも風を司る神様が護っている。
神様の加護のおかげで僕らの国は風が絶えることなく吹き、天気が安定しており、国を挙げての「ルウェ麦」の栽培がおこなわれている。
国中風車が立っているのは年中吹いている風を利用し収穫した麦をすり潰すためである。今日のようによく晴れた天気のいい日は風車の屋根の上に登ると爽やかな風が体を撫でていき、とっても気持ちがいい。風上の方で誰かが草刈りでもしているのか、爽やかな草の香りが鼻をくすぐる。
「エルーッ!エルニークッ!もうすぐ馬車が出発しちまうよっ!下りてきなっ!」
母さんの僕を呼ぶ声が塔の下から響いてくる。ここに来るのもしばらく無理だというのに、、、
「...今下りるよっ!」
そう言いつつ僕は助走をつけて塔から飛び降りた。体の中身が浮き上がるような感覚を覚えながら感じる浮遊感とスリルに、思わず顔がにやけてしまう。ぐんぐんと地上の景色が近づいてくる中、僕は、母さんが呆れた顔でこちらを見ているのがわかるほどの距離で落下地点に向けて風に命令をした。
その瞬間母さんの近くに風が渦巻きだし、上昇気流を作り出す。僕はその上昇気流に乗り、減速した後軽やかに着地した。
「ごほっごほっ、まったく...こんな時にも塔の上かい?こんな時ぐらいもう少し家族との時間を大切にしたらどうだい?大体アンタは…………」
下りてすぐ、しかめっつらの母さんから説教だ。もう慣れっこだが何とも言えない脱力感だ...しかし、うんざりするのも、もう今日で最後だ。ゆっくり聞いてやろうじゃあないか。
なぜなら今日から王都に向かい、そこで夢の学園生活の始まりなのだ。口うるさい母さんのいない生活……それだけでも心が躍るようだ!
~30分後~
「いいかい?そんなんじゃ王都に行ったときに田舎者って笑われちまうよ?昔もひどかったもんだよ、まるで奴隷のように扱われてたんだからね...そうそう昔といえばあんたは小さいころから…」
あぁ...だめだこれ、僕が口を挟まないと永遠に言われる気がする...ほらまた五歳の時に隣のおじさんが飼ってた羊を乗り回していた話が始まった...母さん流石に王都で羊を乗り回すバカはいないって...
「わかった、わかったから……」
しっかし母さんもよくそこまで説教できるものだ……しばらく会えないってわかってるなら怒らなきゃいいのに……あそこがお気に入りの場所ってのは母さんもよくわかっているはずなのに。しばらく帰れないのに行かないなんてことがあるのか?いや、ない!
「…あんたの荷物もう荷馬車に乗せてもらってるからね」
…おっと?いつもならここからもう二、三回ぐらい昔の覚えてもないような話を延々とループし始めるのに、今日はやけにしおらしいというか、元気がないというか?これは...
「よおぉぉ!エルダ、風の子や、調子はどうだいっ!」
…バシッッッ
「いってぇ!? なんだ、おじさんか……おはよう、元気だったよさっきまではね!」
後ろを振り返るとそこには、小さいころから近所に住んでて、何回も遊んでもらったことのあるワルドおじさんがいた。
いつもこのように何をするにもパワーの強い人なので嫌味を言う程度で、答える。
ちなみに風の子というのはこの国でいう小さな子や赤ちゃんを指す言葉だ。
「そいつぁ結構!やはりガキンチョは元気がないとなぁ!」
茶色の短髪を風になびかせながら傷大きな傷の入った顔をくしゃっとさせてサムズアップ。
地味にかっこいいのと僕の話を聞いていないことにイラっとする。
「というか、僕の年になって風の子はないでしょ!今年で僕もう13になるんだよ?」
「ん?...まあいいだろ?俺にとっちゃ13でも5でも100でも同じガキだ」
そういってガハハハッと豪快に笑う。
そういやおじさんはドワーフだったなと思いだす。年は頑なに教えてくれないが、今の口ぶりからだと100は優に超えてそうだ。
「おっと、おい坊主、さっき馬車の方で搭乗者確認してたぞ、ちょっくら顔見せて挨拶でもしてこいや」
「ホントに?! ちょっと行ってくる!」
ヤバい、あれに遅れると馬車に乗れなくなってしまう……そうすると母さんからの説教は延長確実、悪魔のように顔がゆがんだ母さんを想像するだけでも鳥肌が立つ、開校式にも間に合う間に合わないの話ではなくなってしまう。
僕は体に風をまとわせて、急いで馬車の止まっている広場に向かった。
「おうおぅ…何も魔法を使わなくとも……ってきいてねえや」
「ワルド…さっきのって…」
暗い表情のままエルダはワルドに何かを聞こうとする。
「……ああ、お前の旦那がよく言ってた例のアレだ、これからの坊主の生き様をアイツに見守ってもらえるようにな…」
「…………」
「ほら、せっかくの息子の門出だ。そんな顔をするなんてエルザらしくもない」
「そうだね……あの人に笑われちゃうね、私もしっかりしないと」
エルザは気合を入れるように頬をパチパチとたたく。
「それじゃ、行きましょっか」
「おう、先行っといてくれぃ」
「…?」
「ちょいと餞別を坊主にくれてやろうかとな…」
そういって、ワルドはいたずらっぽくニヤリとわらった。




