恩寵、【模擬戦】
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「では、行きますか……【模擬戦】」
俺は一切の感覚を遮断し、恩寵……【模擬戦】によって頭の中に盤面を創り出した。
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まず、漢升殿から伺った根城の地形と賊を配置。
そして、こちらは将軍、漢升殿、そして俺の三人を配置、と。
百五十人を全滅、となると、一人も取り逃がすことができないわけだけど……
試しに、将軍を根城に向かって前進させてみる。
すると、将軍の容姿を見て慌てる者が約半数。将軍の知名度だけで恐慌状態になるなんてすごいな。
そして恐慌状態に陥っていない残り半数のうち、二十人が弩を手にして一斉に矢を放つが、将軍にすればそのような矢など、足止めにすらならない。
そのまま将軍は根城である洞窟に取りつき、あとは一方的に蹂躙するだけ。
だけど……結局、三十二人討ち漏らす結果になったな……。
次に、将軍に突撃させつつ、俺と漢升殿がその後に続いた場合。
この場合も、将軍が賊を討ち倒すが、それでも十一人を取り逃がしたか。
ならば……。
…………………………。
……………………。
………………。
…………。
□□□
「…………………………ふう」
感覚、そして意識を取り戻し、俺は深く息を吐いた。
「……どうだった?」
俺の顔を覗き込み、将軍がおずおずと尋ねる。
「ええ。賊相手に十四回もかかってしまいましたが、これなら間違いないですね」
「そうか。ならば、やはりいつもより早かったな」
「え? というか、俺が潜ってからどれくらい経ちましたか?」
「そうですなあ……二時辰(四時間)、といったところですな」
将軍に代わり、漢升殿が答える。
だけど、そうか……まあ、一戦一戦が短かったのは事実だからな。
「さあ! ならば今すぐにでも賊退治に……「いえ、少し待ってください」……むむ!?」
今にも飛び出そうとする将軍を止めると、彼女は不機嫌そうに眉根を寄せた。
「いやいや、辺りが暗いと討ち漏らすおそれがありますから。ほら」
俺は空を指差すと、既に茜色に染まっていた。
「……仕方ない。明朝すぐ、賊退治に参るぞ」
「「はっ!」」
渋々そう告げる将軍に、俺と漢升殿は頭を下げた。
とはいえ……実は、他にも調べておくことがある。
ということで。
「へえ……こんな豪勢な食事を用意してもらって、なんだかすいません」
「いい、いいえいいえ! あの“白澤姫”様がいらっしゃってますのに、当然でございます!」
用意してくれた料理を前に恐縮すると、何故か里正のほうが恐縮してしまった……。
ま、まあ、あの“白澤姫”を前にしているのだから、緊張するも無理はないんだけど……などとは思わんが。
「まあ、まずはいただきましょうかねえ、将軍」
「うむ。では、馳走になるぞ」
そうして、俺達は里正が用意した食事や酒…………………………酒!?
「しょ、将軍!」
俺は慌てて将軍へと振り向くと。
「ん……? なんら? ろうかしたろか?」
あああああ!? 遅かった!?
「ふむう……これは、おいしいものらの……のう、漢升?」
「はっ、左様でございますな」
漢升殿!? なにを普通に会話しておられるのですか!? というか、将軍は酒に弱いことを知っておられるのに、どうして止めなかったのですか!? ……って、駄目だ。漢升殿の目が笑っている……絶対にわざとだろ、これ……。
「そんらことより、子孝!」
「は、はい!?」
「お主は分かっておるろか! いつもいつも我の命令に背いてばかりで、その……感謝、しているろ……」
「は、はあ……」
そう言うと、将軍は珍しくしおらしくなった。
すると。
「そ、そのう……将軍様は大丈夫でしょうか……?」
「はは……大丈夫どころか、酔っ払って手が付けられなくなる直前、ってところですかねえ……さすがにこの屋敷に被害が出ないように我々が止めますが、仮に賊が襲ってきたりなんかしたら、この里が賊の血で染まりますねえ……」
「っ!? そ、そうでございますか……」
俺はおずおずと尋ねる里正に苦笑しながらそう告げると、里正は顔を真っ青にさせて席から下がってしまった。
「はっは。子孝殿、少々脅し過ぎではござりませぬかな?」
「いえいえ、あれくらいが丁度いいんですよ」
居間から出て行ってしまった里正の背中を見やりながら、俺と漢升殿は思わず笑った。
「むうううう! ふ、二人れ楽しそうにしてえ……ず、ずるいぞ!」
「あ、あはは……」
その後、すぐに酔い潰れてしまった将軍を寝かせると。
「さて……漢升殿、俺はちょっと外で夜風にでも当たってきますよ」
「ほう……?」
伸びをしながらそう告げると、何故か漢升殿の目つきが鋭くなる。
うう……どうやら、少々変に勘繰られているみたいだなあ……。
「は、はは……漢升殿もご存知でしょう? 俺が、何を第一としているか」
「……はっは、そうでしたな……失礼いたした」
「いえいえ」
苦笑しながらかぶりを振る漢升殿を見ながら、俺は肩を竦める。
「それで漢升殿は、手筈通り例の物の準備をお願いしてもいいですか? もちろん、誰にも見つからないように」
「お任せくだされ」
力強く頷く漢升殿に軽く頭を下げ、俺は屋敷の外に出てまっすぐに隣の家を訪ねた。
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次回は今日の夜投稿予定!
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