将軍の補佐官、共に
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新連載三話目!
「……陛下より、我は“武定”の太守に任じられた」
将軍は、そう言って唇を噛んだ。
あー……そうきたか。
武定は涼の北西の辺境にある都市で、西に“蘇卑”、北に“姜氏”といった異民族国家があり、更に、東には“崔”という最近台頭してきた強国がある。
もちろん、武定は涼にとって最前線の防衛拠点であり、そこに将軍が赴任すること自体、不思議なことではない。
ただし、これが異民族達や崔との関係が緊張状態にあるのならば。
だが、現状これらの国との関係は安定している。
そんな中、涼最強の武将である将軍が赴任すればどうなるか。
当然、これらの国は考えるだろう。
『涼は、我が国に攻め入るつもりだ』
と。
そして、三国との関係が悪化し、いざ戦となった場合には、無用に涼に戦火を招いた罪を着せ、失脚させる……いや、ここまで陛下との関係がこじれているんだ。最悪、極刑ということもあり得るだろう。
「……武定の太守任命とは穏やかじゃないですねえ……それで、それだけじゃないんでしょう?」
そう告げると、将軍の顔色はますます悪くなる。
「……“銀鳳騎”は陛下の直接指揮下に置かれることとなり、その補佐役として別の将軍を任命するそうだ。なので、武定にはこの我が単身で着任することになる」
「ほう……?」
はは……ただでさえ微妙な関係の都市に赴任するっていうのに、ここでさらに将軍の手足をもいでくるか。
俺はちらり、と隣にいる漢升殿を見やると……目を細め、表情から一切の感情というものが消え去ってしまっていた。
あ、これは暗殺者の顔だな。
「子孝、そういうことだ。お主は補佐官として、引き続き“銀鳳騎”を頼んだぞ」
将軍は、俺の肩に手を置き、柔らかい笑みを浮かべる。
だけど、その手は微かに震えていた。
はあ……この将軍は何を勘違いしているんですかね……。
「……将軍。お尋ねしますが、兵士一人一日当たりに必要な兵糧がどの程度かご存知ですか?」
「む!? そ、それは……」
「では次の質問。最近の穀物の相場はご存知ですか? 必要な武器の数は? 商人達との交渉はできますか?」
「むむむむむ……!」
俺の質問に、将軍は腕組みをしながら唸ってしまった。
「はは……といっても、こんなことは将軍が考えるようなものではないのですけどねえ」
「なっ!? 子孝! この我をからか……「ということですので、早く武定に参りましょう。俺も、商人と交渉したり、兵士を募集したりと忙しいんですから」……っ!? ま、待て!?」
俺の言葉に、将軍が思わず慌てふためく。
「お、お主、この我についてくるつもりか!?」
「? 俺は“銀鳳騎”ではなく、将軍の補佐官ですよ? ついていくのは当然でしょう」
まあ、将軍が俺のことを気遣って、ここに置いて行こうとすることくらい分かっていた。
だって、俺が将軍について行ってしまったら、戦になった場合、凄腕の暗殺者である漢升殿と違い、大して強くもない俺は死ぬ可能性が高い。
戦から生き延びたとしても、今度は将軍に連座して極刑を受けることになるだろうからな。
だけど、この女性は何も分かっていない。
俺の居場所は……救われたあの日からずっと、あなたの傍だけなのに。
「……全く、お主はいつもいつも、この我の指示に従わないのだな」
「えー……そういうことは、一人で全部こなせるようになってから言ってくださいよ。ねえ、漢升殿?」
「はっは、そうでございますなあ……お嬢様は小さい頃から、そういった交渉事などは苦手でございましたゆえ」
「か、漢升!?」
呆れた表情から一転、顔を真っ赤にした将軍がからかう漢升殿の口を必死に塞ごうとするも、簡単にいなされてしまう。まあ、まだまだ漢升殿のほうが一枚上手だなあ。
だけど……将軍、口元が緩んでいますよ?
「え、ええい! そもそも命令違反をするお主が悪いのだ! だから、武定でもこき使ってやるからな!」
「「はっ!」」
俺は照れ隠しでそう告げた将軍の前で跪き、首を垂れる。
それは、俺の隣にいる漢升殿も。
「“徐子孝”、この身が滅ぶまで将軍と共に」
「同じく“張漢升”、常に将軍と共にあらんことを」
「うむ……」
短く頷くと、将軍はくるり、と翻ってしまった。
だけど。
「…………………………ありがとう」
小さく呟く、そんな将軍の後ろ姿が、俺はとても愛おしくて仕方がなかった。
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