王都からの呼び出し
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「うむ! そうだ! 騎兵隊はそのまま歩兵部隊や戦車隊と並走しろ!」
俺が鞍に縄の輪で足場を作ることを考えてから十日。
今では全ての騎兵に縄の輪の足場が装着され、騎兵の騎乗技術は大幅に向上した。
当然、蘇卑の二人に比べればお粗末なものではあるが、それでも、中原の十五国の騎兵の中では上等の部類に入るのではないだろうか。
「おや? 子孝殿、お嬢……将軍に用事ですかな?」
おっと、訓練の様子を眺めているのを漢升殿に見つかってしまった。
「はは、少しだけ息抜きを兼ねて覗きに来ただけですよ」
「はっは、ならば将軍に挨拶をしておくべきですな」
そう言って、漢升殿は半ば強引に将軍の元へ俺を引っ張って行く。
ええー……訓練中に邪魔して、下手に怒られたりしたらたまったものではないんだけどなあ……。
「そこ! 素早く体を入れ替え……む、子孝!」
こちらに気づいた将軍が、振り向いて俺の名を叫んだ。
だけど……あれ? 怒っている様子もなく、むしろ嬉しそうな感じがするのは気のせいだろうか……。
「ふふ! お主の考案した足を鞍に取りつけた縄の輪、おかげで騎兵隊も様になってきたぞ!」
「本当ですか、良かったです」
ああ、だから機嫌がいいのか。
将軍がこんなに喜んでくれるなら、思いついた甲斐があったな。
「はっは、お嬢……将軍は相変わらず素直じゃないですなあ。『子孝殿が来てくれて嬉しい』と言えばよいものを」
「漢升!?」
あ、あははー……それに対して、俺はどう答えればいいんですかねー……?
「こ、こほん……ところで、子孝は困ったことはないか? ほら、月花が弩製作の陣頭指揮を執っておるから、その……人手が足らんのだろ?」
誤魔化すように咳払いをした後、将軍はおずおずと尋ねる。
「はは、ご心配くださり、ありがとうございます。ですが、今のところは順調ですよ。さすがにこの武定に来た時のように、色々と問題事があるわけではないですから」
「ふふ……確かにな」
そう言うと、将軍はくすり、と笑った。
ああ……やっぱり将軍は、この世のどんなものよりも綺麗だと思う。
すると。
「おや? 誰かやってきましたぞ?」
漢升殿の言葉で振り返ってみると、何やら役人が慌てた様子でこちらへ駆けてくる。
だけど、嫌な予感しかしないなあ……。
「どうした?」
「はっ! 大興からの急使が書状を持って参りました!」
跪く兵士から書状を受け取り、将軍は目を通す。
「……書状には何と?」
「……陛下から『急ぎ大興に来るように』、とのことだ」
眉根を寄せながらそう告げる将軍。
「……我は直ちに大興へと向かう。子孝、留守は任せたぞ」
「……はっ」
弱々しく指示をする将軍に、俺は短く返事をした。
わざわざ急使まで寄こしたのだ。俺は、今回の召還には何か裏があると思っている。
最も考えられるのは、先頃の姜氏……いや、崔の使者の件だろうな。
……本音を言えば、俺も将軍と共に大興へ向かいたい。
だが、将軍に加えて政務を預かる俺まで不在にしてしまうと、この武定が立ち行かなくなってしまう。
本当に、口惜しい。
「漢升殿……どうか……どうか、将軍をお願いします……」
「子孝殿……任されよ」
俺は深々と頭を下げると、俺の思いを汲み取ってくれた漢升殿は力強く頷いてくれた。
「子孝……では、また……」
「はい……また……」
馬に跨り、将軍は漢升殿と共に武定を発つ。
俺は……そんな将軍の背中を、見えなくなってもなお、見つめ続けた。
◇
「ねえ子孝……いい加減、元気出しなよー……」
将軍が武定を発って既に一か月が経ち、俺は今日も政務に勤しんでいるのだが……何故か姫君が毎日のように俺の元にやって来ては、よく分からない励ましをしてくる。
「ええと、姫君? 何度も言いますが、別に俺は気落ちしたりなどしておりませんよ?」
「もう! またそんなことばっかり言って! じゃあなんで毎日毎日、朝昼晩と南の城門から眺めてるのさ!」
「いや、それは……」
姫君に問い質され、俺は思わず口ごもる。
だ、だが、あえて言わせてもらうとすれば、あれは気落ちをしているのではなくて、将軍が帰ってくるという時に、補佐官の俺が真っ先に出迎えなくてどうするんだという、部下としての意気込みというか、まあ……その……。
「そ、その、姫様……あまり子孝様を責めないでください。子孝様は将軍がいらっしゃらない間、この武定を一手に支えていらっしゃるのですから……」
湯のみに水を入れて持ってきてくれた月花が、そう言って助けてくれた。
「駄目だよ月花! そうやって子孝を甘やかしちゃ!」
「ええー……」
いや、姫君も俺を励ましたいのか突き放したいのか、どっちなんですか?
……まあいいや。
「それで月花、弩については、もう間もなく揃うと聞いたけど……」
「はい! おかげ様で子孝様がご指示された百基、無事に完成間近です!」
話題を変えるためにそう尋ねると、月花は得意げな表情で答えた。
いや、さすがは月花。こんな早くに揃えてしまうなんて……黄さん、大変だったろうなあ……。
「じゃあ姫君、騎兵隊の訓練はどうです?」
「うん! さすがに僕達に比べればまだまだだけど、それでも中原の他の兵士達になら充分戦えるよ!」
そう言って、姫君がその小さな胸を張る。
「それにしても姫君も月花も、本当にありがとうございます……これなら、万が一崔と相対しても、月城と連携すれば充分に戦えそうです」
「そ、そんな! 私なんて全然です!」
「あはは! 何言ってるの! 僕達蘇卑だって後ろに控えてるんだよ? 充分に戦うどころか蹴散らしてみせるよ!」
俺が深々と頭を下げると、月花は謙遜し、逆に姫君は威勢のいいことを言った。
将軍……こちらは大丈夫です……ですから将軍の無事な姿を、早く見せ……「子孝様! 将軍と漢升様が戻られたようです!」……って!?
「ほ、本当か!」
「はい! 南門の物見から、たった今報告が!」
兵士からの報告を聞いた瞬間、俺は真っ直ぐ南門へと走る。
そして、南門を出てその先を眺めると。
「はは……!」
黒鹿毛の愛馬に跨った将軍が、砂塵を上げてこの城を目指す姿があった。
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次回は今日の夜投稿予定!
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