話が違う
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■蘇卑指揮官視点
「あれ? まさか、待ち構えていたの?」
五百の騎兵を引き連れて蘇卑の都、“祁連を経ち、武定城が眼前に迫ったところで、城門の前に涼の軍勢が居並んでるのが見えた。
「ええと……これって、どうして向こうは僕達が来ることを知ってるの?」
「「「「「さあ……」」」」」
後ろを振り返って部下達に尋ねるけど、皆、揃いも揃って首を傾げるばかりだった。
「そんなわけないでしょ? 僕達が武定城を威嚇しに来たことは、お父様と僕、そしてここにいる者数人しか知らないんだよ? こんなこと、あり得ない」
「で、ですが……」
僕の言葉に、部下達が一斉に冷汗をかいた。
多分、僕に疑われて不興を買い、祁連に戻った後でお父様に処断されることを恐れてのことだろう。
「ほらほら、武定城に情報を漏らしたのが誰なのか、正直に言いなよ。今だったら僕も怒らないし、お父様に言いつけたりもしないから」
「「「「「…………………………」」」」」
ここまで譲歩してあげても、部下達はお互い顔を見合わせるばかりで、誰も名乗りを上げない。
はあ……こんな僕達の敵かもしれない奴を内に入れたまま戦をするなんて、絶対に嫌なんだけど。
「仕方ないなあ……このままだと、あなた達全員の首を刎ねることになるけど、それでいいんだね?」
「「「「「っ!?」」」」」
あはは、やっと自分達の置かれてる境遇に気づいたみたい。
さあ……誰が名乗り出てくれるのかなあ……。
だけど。
「そ、それがしはそのようなことはしておりませぬ!」
「拙者もです!」
「どうか信じてくだされ!」
意外なことに、あれだけ脅しをかけたのに、自分の無実を訴えるばかりで誰も名乗りを上げなかった。
うーん……本当に、向こうに情報を漏らしたわけじゃないのかな……。
「まあ、それも向こうの何人かを捕まえて吐かせたら、すぐに分かることなんだけどね」
「「「「「っ! は、はい!」」」」」
僕は皮肉を込めてそう言ったのに、部下達は逆に喜んだ。
この反応を見る限り、本当に裏切ったりしたわけじゃないみたい。
じゃあ……向こうはどうやって情報を手に入れたんだろう……。
「うーん……考えても分からないから、とにかくあの軍勢を蹴散らしてから考えよう。みんな……準備はいい?」
「「「「「はっ!」」」」」
うんうん、僕に疑われたことで、逆に士気が上がったみたい。疑われないように必死だもんね。
「じゃあ……行くよ!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおお!」」」」」
僕達は馬を走らせ、雄叫びを上げながら一斉に涼の軍勢に突っ込んでいく。
あはは、今までの涼の連中の戦いぶりを考えたら、弓で牽制する必要もないもんね!
だから……今回も早々に僕達に和議を申し込んで、色々と貢いでよね。
また一年、僕達が生き延びるために……っ!?
「「「うわあああああああっっっ!?」」」
前を走る騎兵が、突然落馬した!?
「い、一体何があったの!?」
「そ、それが! どうやら弓矢のようです!」
へえ……僕達騎馬の民相手に、舐めた真似してくれるじゃない。
「だったら! 左右二手に分かれて矢を躱して、両側から一気に挟み込んじゃえ!」
「「「「「はっ!」」」」」
僕の指示を受け、騎兵は左右に分かれる。
あはは……さあ、お前達じゃ僕達の馬の速さに追いつけなくて、満足に矢を当てることもできないでしょ?
ちょっと反抗したこと、後悔させてあげる。
そう思ってたのに。
「「「「「うおおおおおおおおっ!?」」」」」
兵士の乗る馬に対し、次々を矢が刺さっていく!?
「ど、どうして!? 連中に僕達に矢を当てる実力なんてあるはずないじゃない!? なのに、なんでこんなに当たるんだよ!?」
「あ、あれを!」
部下の一人が指差した先を見ると……あれは、戦車!?
しかも、戦車に積まれているあの弩は……!?
「っ! みんな! まずはあの戦車を全部破壊するんだ! そうすれば、連中はもう矢を撃てない!」
僕の命令を聞きつけた騎兵達が、次々と戦車に向けて殺到していく。
あはは……仕掛けさえ分かれば、何も怖いものなんかないよ! さあ……今度こそ大人しく……!?
騎兵が戦車に襲い掛かろうとした、その瞬間。
「「「「「せいっっっ!」」」」」
銅鑼の合図と共に戦車が馬首を返して一斉に逃げたかと思うと、その陰に隠れていた歩兵が、普通の二倍……いや、三倍の長さはある槍を一斉に突き出してきた!?
「み、みんな! 逃げ……っ!?」
僕の声が届く前に、騎兵達は次々と槍で突かれ、地面に転がっていく。
「あ……ああ……」
僕の……僕の部下達が……っ!
「あああああああああああっっっ!」
「っ!? お、お待ちを!」
怒りで我を忘れた僕は、部下の制止を無視し、連中へと飛び込んでいく。
その時。
「ふふ……貴様、蘇卑の大将とお見受けした」
「っ!?」
黒鹿毛の馬に跨った、銀髪の女武将が僕の前に立ち塞がった。
「誰だよお前!」
「ああ、失礼。我はこの武定を預かる“董白蓮”。貴様等には、“白澤姫”と名乗ったほうがよいか?」
その名前を聞いた瞬間、戦慄が走る。
そんな……武定の太守が、あの“白澤鬼”だなんて聞いてないよ!?
「いざ……参る!」
「っ!」
すると“白澤鬼”は方天画戟を肩に担ぎ、黒鹿毛の馬の腹を蹴って一気に突撃してきた。
“白澤鬼”を迎え撃つため、僕も両手の錘を構える。
だけど。
「おおおおおおおおおおおおおおっっっ!」
だ、駄目だよ!? こんなの、どうやっても受けきれない!
“白澤鬼”の放つその咆哮に、気迫に、武威に、僕は思わず錘を放り投げ、馬首を返して背を向けた。
こんな僕の姿を見て馬鹿にする奴もいるかもしれないけど、そんな奴は“白澤鬼”と相対したことがないから言えるんだ!
こんなの……こんなのっ!
僕は振り返ることなく、必死で馬を走らせる。
“白澤鬼”に、追いつかれないように。
“白澤鬼”に、殺されないように。
でも、そんな僕の必死の願いは通じることはなく。
「ふっ!」
「っ!? うわあああああああああああっっっ!?」
僕は追いつかれてしまい、“白澤鬼”に愛馬の足を叩き斬られてそのまま地面に叩きつけられた。
「か……は……っ」
落ちた時の衝撃で、息を吸うことができない……っ!
「ふふ……この董白蓮、敵の大将を捕らえたぞ! 勝鬨を上げよ!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおお!」」」」」
耳をつんざくような歓声が戦場に響く中……僕は、その意識を手放した。
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次回は明日投稿予定!
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