表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

三話 魔獣というもの ①

 魔獣がどうやって生まれるかという謎は解明されてねぇ。

 いや、魔獣同士が(つが)って子を産むのは知ってんぜ。だがそれだけじゃ説明つかねぇってのがあんだよ。

 繁殖するにしちゃ、一気に増えすぎてるような、違和感のある増殖の波がある。育つ期間があるはずなのに、その間の食糧事情とか色々よ、考えだすとキリがねぇ。

 まぁ……そういった難しい話はひとまず置いといて、だ。

 獣がどうにかなっちまうんじゃねぇかってふうには、昔から語られてた。

 基本、野生の肉食や、雑食の獣に酷似しているし、行動も似通っている。


「魔獣って、どうして樹海から出てくるんだろ?」

「……決まってるだろ」

「縄張り争いの結果だと言われていますね」


 今んとこ他に理由は考え付かねぇよな。

 文字通り、死闘を繰り広げてるんだろうぜ、樹海を出てきた魔獣は綺麗な毛皮のやつなんざまずいない。

 あの昼夜問わず鬱蒼とした樹海の中じゃ、相当激しい生存競争が繰り広げられてんだろう。互いに食い合うのが樹海の摂理なんだろうさ。

 俺はあそこが、一種の蠱毒の壺なんじゃねぇかと思ってる。魔獣同士で食い合って、強い個体だけが残っていき、繁殖を繰り返し、また濃縮されていく……。

 んで、樹海の中で勝ち残れなかったが、生き残れたってやつが外に出てきやがる。

 そうして糧を得るため、人や牧畜を襲い肉を食うんだが……そこに魔獣特有の恐ろしさがあった。


 何故か凶暴化するんだよ。特に人を食うと最悪だ。

 魔獣は人の血に酔うといわれている。

 胃袋の(たが)が外れちまうのか、もうまともな生物の在り方を失い、ただ人肉を求め続けるだけの化け物になるんだ。

 腕を()ごうが、腹を裂こうが止まらねぇんだよ。


 魔獣は、人の血肉で狂うんだ。


 これでも偵察隊で樹海に入った身だからな……その瞬間を目にしたこともあるぜ。

 偵察の帰り道、俺らもあと少しで樹海を出られるって気持ちがあって、多分集中できてなかったんだろう。

 仲間の一人が魔猿の爪で、腕を抉られた。

 その途端だ。魔猿が脇目も振らず、その仲間の腹に食らいつくさまを、この目で見た。


 骨を砕き肉を食い千切る音や血の匂い。それが今も、思い出すたび香る気がする。

 斬りつけられてもお構い無しに、目を血走らせて咥え、離さない。腹に顔を突っ込むようにして、一心不乱に(はらわた)を食っていた。まだ生きてた仲間は、それで悲鳴も上げなくなったんだ……。

 長く苦しむよりは、良かったんじゃねぇかと思う。が、俺は絶対に生きて帰ると誓った瞬間でもあった。こんな死に方はゴメンだ。絶対に嫌だ……ってな。


 そいつが無心に仲間を貪り食ってる間に、総出で仕留めたよ。あとはもう……一目散に逃げ帰った。等級印すら回収せず、死体は樹海に残した。血の匂いをさせてたんじゃ魔獣が寄ってくるし、あそこで死んじまったら、もう魔獣の糧になるしかねぇんだよな。

 その後数日内に、数匹の荒れ狂った魔獣が樹海からまろび出てきたが、多分仲間の死肉を食った個体だったんだろう。人の血肉を求めて彷徨(さまよ)い出て来て狩られ、そうしてまた日常が戻った。

 樹海近隣で死人が出るたび起こることだから、街はもう、こんなことには慣れっこなんだがな。


 おっと。話を本筋に戻すぞ。

 魔猪の足跡が刻まれた地点が見える位置にあった物置。

 その中に待機することにした三人は、扉を開け放ったまま、灯りはつけず、武装の上から毛布を纏って座り込んだ。闇に目を慣らしておかんと、魔獣とは戦えねぇからな。だけど始終力んで緊張してたんじゃ体力が保たねえ。この辺りは、経験とかがものを言う。

 魔猪は自らが通った道を再度利用する習性がある。だから同じ道を辿ってくるだろうと目星をつけていた。


「どんな化け物だろうが、大抵鼻が急所だ」

「動きを鈍らせればこちらのものですから、脚の腱を斬ることができれば有利になります」


 前日までは警備に雇われた冒険者が複数人、金物を多く身にまとい牧場を警備していたと、報告ももらっていた。

 金物をまとうってのは、魔獣が武具に使われる鉄の匂いを警戒すると分かっているからだ。これ以上家畜に興味を示さないよう、大変厳重に警戒していると見せかけるため、極力鉄製の品を多く装備するし、持ち出す。

 警備が目的なら、それが正しい対処法だった。だが、討伐を目的とするなら違ってくる。

 極力軽装で、鎧は革製。武器も必要最低限だけ帯びる。

 そうやって前日充満していた鉄器の匂いが急激に薄れることで、警備が手薄になったと魔獣に誤認させる手法だ。


「あのさぁ……急所とかってそんな狙ってられるもの?

 俺の八倍なんだろ? 一撃食らったら吹き飛ばされるじゃん。近寄れなくない?」

「一撃でも食らえば臓腑が潰れて死ぬ」

「やだよそんなの⁉︎」

「だから当たるなって話だろ」

「大丈夫。的は格段に大きいですから、狙いやすいですよ」


 牧場主の話によると、三日前に牛を一頭食い、死骸を引きずり持ち帰っているという。

 妊娠中の雌牛だったそうで、食い終わればまた来るだろうと思われたため、冒険者を雇い警備を続け、次の被害を防ぐつもりだったわけだが……俺の説得により、途中から討伐に依頼を変更した。

 獲物を得た魔獣は警備ぐらいで引き下がりゃしねぇ。運良く今回を回避しても、どうせ近く舞い戻る。

 だからケリをつけたいなら、討伐しかないんだと説得した。

 警備しているってのは、あそこにご馳走があると知ってて待てをされ続けてる状態なわけだからな。


 諦めて他の餌場を探しに行くやつは三割ほどか。

 だが被害が別の場所に移るってだけだから正直意味はねぇ。まぁ大体初めの獲物を得た場所を、再度狙う。

 家畜の味を知ってしまったうえで空腹になった魔獣は酷く獰猛になるんでな、被害もデカくなるし、錫や鉄等級の冒険者じゃ手に負えず、負傷しちまうことが多い。そうすると今度は更に凶暴化して、家畜にゃ目もくれず冒険者に食らいつきにいきやがる。

 血を流した奴が真っ先に狙われる。どんなに重傷を負わせようが、命が尽きる瞬間まで食うことを止めないバケモノになる。そうなったんじゃ困るんだよ。冒険者だって死にたかねぇし、その場つなぎで消耗品にされたんじゃたまらねぇ。

 だからこういった場合、途中から討伐に切り替える方法を、俺は極力提案してる。

 ま。これを任せられる銀等級以上がいるのが前提になるんだがな……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ