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二話 魔剣というもの ①

    ◆◇◆◇◆

 

 おんなじデザインの魔剣が大量に作られたという奇異な時代がある。

 それは、前の魔獣大流出(スタンピード)が起こった後。

 約三百五十年前だ。


 樹海から溢れ出た魔獣に人類が蹂躙されていた時より、スタンピードが治まってからの方が大量に作られたってのは……ははっ、なんの皮肉だって話だろ。

 だが、それより前の時代、付与魔術ってのはあまり重要視されてなかった。


 俺は魔術なんざ専門じゃねぇから詳しくは分からんが、あれには色々と制約が多いらしい。

 とりあえず俺より詳しいやつに分かりやすく説明させたところ、付与魔術ってのは『何かを媒体としてこれを実行せよ』という命令を物に仕込むという術なんだそうだ。

 そしてそれには法則性があり、捧げたモノに等しいか、それ以下の能力しか発揮しないんだと。


 で、炎を纏う魔剣があったとしよう。

 十の魔力を注ぐと、一を使い術が発動、七で一定時間炎を刀身に纏わせ、その間二で持ち主を保護する。

 持ってるやつが火傷しないようにセキュリティも必要ってこったな。

 十の魔力を与え続ける限り、これは維持される。捧げるやつは(つか)を握って剣を引き抜けば良いんだから集中も詠唱もいらねぇ。便利なもんだ。


 でだ。

 じゃあ十の魔力で炎をぶっ放せばどうなるって話なんだよ。

 その場合十の魔力は余さず炎になりぶっ飛んでいく。当たった先に引火すりゃ、捧げた魔力以上の仕事をする。

 こっちの方が無駄無く威力もあんだろ? って、誰もが思ったわけだ。


 三百五十年前の時代ってのも、そんな考えが主流だった。

 で、スタンピードが起こり、後悔した。

 魔術ってのは発動するのは一瞬で、たいして維持できないもんが多いらしい。溢れる魔獣に対処しようと思えば、ぶっ放し続けにゃならんし、それは魔術が使える者が使うしかねぇ。

 魔術師ってのは、特別な教育を得て適性を開花させたやつだけがなれる職種で、その特別な教育を受けたやつが全員なれるわけじゃねぇ。やってみなきゃ分からん博打に大金を賭けなきゃならんわけだ。


 で、魔術を使えるやつってのは、何故か決まって体を鍛えてねぇんだよ……。

 だから前線に立たされたら役に立たねぇんだこれが。

 状況判断が適切にできねぇわ、無駄にぶっ放すわ、一発殴られりゃ死ぬわ……。

 三百五十年前ってのは、そうやって墓穴を掘りまくって窮地に陥っていったらしい。


 そんな中で、とある英雄が生まれたんだ……。


 公爵家の三男坊で、剣の腕も人並みで、魔術の才も大したことねぇボンクラだった男。

 だがこいつには、付与魔術の適性があった。

 つか、魔術と付与魔術は同じようで違うもんだって概念も無くてだな、その英雄がそれを確立したとも言われてんだわ。

 ただ……そいつ、死んじゃったからな。そのスタンピードで。重要な術を後世に伝える前に……。

 ははっ、そうそう。何してくれてんだって当時のやつらも思ったんだろうよ!


 それでもだ。

 そいつは英雄と称えられた。


 なんでかは分かんだろ? あぁそうさ、そいつがいなけりゃ、今の俺らはここにいない。

 そいつがスタンピードを、ほぼ一人でなんとかしちまったんだよ……命と引き換えにしてな。

 そう……文字通り引き換えだったんだって、今なら分かるぜ。

 技術を伝えなかったのも、元からそのつもりだったんだろ……。


 虫唾が走るぜ。

 ありゃ、外道の技だ…………。

 

    ◆◇◆◇◆

 

 「魔剣ってのは大抵が年代物だ。

 二百年、三百年、ものによっちゃ五百年前の代物でも現役はってやがる。

 理由をお前は知ってるか?

 ……そう。魔術の衰退。

 そもそも今、武具に魔術を付与できるやつがほぼいねぇ。

 魔術を扱えるやつすらちょびっとしかいねぇんだから、より適応者の少ない職種は廃れて当然だ。

 まず魔術師を育てるってことが博打すぎんだよな。

 才能があるかどうか、やってみねぇと分からん。大金払って何年も学んで、結局無理だったなんてやつが、貴族にはゴロゴロいるって話だ。

 だから民間で魔術を学ぶやつってのがまずいない。

 大富豪でもなきゃ、そんな無駄になるかもしれん金は出せねぇし、大富豪なら博打打つよりは確実な投資に金を出すわな。

 だもんだから、魔術ってのは高値が付く。

 リスクを冒し、結果を得た一握りだけが持つ特別な技だ。

 最低限のことができりゃ、それで充分認められる。だから余計……腕を磨くやつが現れなかった。

 それを前提としてだ。

 永続的に術が効果を発揮する魔術を付与した武具が大いに作られたのは、約三百五十年前。前回のスタンピードの直後だと言われている。

 とある魔剣が生み出され、魔獣を一網打尽にした。それでスタンピードの終息後、付与魔術って分野に一躍注目が集まったんだ。

 その立役者。

 うだつの上がらねえボンクラ公爵家子息が、実はとんでもない英雄だったって話は、誰だって知ってるだろ?」

「しってる!」

「勇者クラウディットでしょ」

「ボンクラって言っちゃダメだよ」

「へーへー、その勇者クラウディット、英雄クラウ様だよな」

「すごい魔剣をつくった人だよ!」

「魔剣じゃないよ、聖剣クラウディットだよ」

「まものをひとりでやっつけたんだよ」


 ガキは好きだねぇ、この話が。

 ちょっと語ってやったらすぐ集まってきやがる。


「聖剣クラウディット……かっこいいよねぇ」

「スタンピードが起きたら、王子様が聖剣クラウディットを持ってかけつけてくれるんでしょ?」

「王子様、早く来ないかなぁ」

「まものをえいやあって、やっつけてくれるんだよね!」


 無邪気な笑顔でそんなことを言われると、若干いたたまれねぇ気持ちになっちまう……。

 実際スタンピードが起きちまったら、ここの住人なんざ、大半がおっ死ぬことになるだろうし、当然このガキどもの未来も危うい。

 そんでこいつらを実際に守るのは、ここのゴロツキ同然の冒険者どもで、王子様じゃねぇ。駆けつけてくるはずねぇし、きたところで間に合うはずもねぇ。


(そもそも……王子なんて立場の人が、役に立つはずもねぇ……ってな)


 まぁ、それはよしとしてだ……。


「お前らぁ、家の手伝いはどうした、さっさと帰れ!」

「きゃああぁ」

「アトスが怒った!」

「アトスのケチ!」


 蜘蛛の子を散らすみたいにガキどもが散っていくと、レルフがそれで? と、また聞いてきた。


「三百五十年前、なんで魔剣が大量に作られたんですか?」

「あぁ……だからさっきガキどもが言ってた聖剣クラウディットだよ。

 それのレプリカがアホみたいに作られたんだ、国王のお達しでな」

「なんでまたそんなことを?」

「英雄クラウが死んじまったからだろうなぁ……。

 そいつの振るった魔剣は、他の魔剣と桁違いの威力だったそうじゃねぇか。

 制約が多くて与える魔力より大きな力を引き出すなんてできないはずの付与魔術。その常識を超えたってレベルじゃねぇ超え方した魔剣を作っちまったうえ、それを使いこなして魔獣を大量に屠った。

 まぁ最後は死んじまったんだが……その作り方を当人が残さなかったもんだからよ、再現させようとしたんじゃねぇかって話だな」


 一応そう言っておくことにする。

 実際は……若干違う目的だったのではと、俺は思っているが……国のことにはあまり首を突っ込むもんじゃねぇからな。


「その人が生きてたら、聖剣が量産されて今頃樹海の魔獣なんて狩り尽くされてるんでしょうねぇ」


 勿体ないなぁ。と、溜息を吐いてレルフが言う。そして、大抵のやつが口にする疑問を、こいつも口にした。


「そもそもなんで自分で使ったんだろう」

「あん?」

「すごい魔剣を作れたんでしょう?

 なら、戦場になんて立たないで、もっとじゃんじゃん作れば良かったと思うんですよ」

「そりゃまぁそうだろうがよ、特別な一本だったんだろ? 国家予算くらい金がかかりゃ、そう何本も作れねぇだろうが」

「うげっ、そんな高いんですかそれ⁉︎」

「知らねぇ」


 だけどレルフのその疑問は、ずっと昔から言われ続けてることのひとつだ。

 英雄クラウは、なんで自らその魔剣を振るったんだ?

 なんで自ら最前線に立った?

 ボンクラって言われてた三男坊が、わざわざ出張ってく必要あったかよって、普通思うわな。

 剣の腕もたいしたことないやつだったって話だし、当時の英雄が握れば死なずに済んだんだろうによ……って。

 そう、例えばその時代の英雄的存在だった、王家の四子、後に獅子王と呼ばれ武功を讃えられた、アルヴェリオ様とかよ。


「あー……でも憧れるなぁ……。

 レプリカでもいいから、聖剣……見てみたいなぁ」


 その言葉につい手の動きが止まった。


「俺もすっごい稼いだら、手にできるんですかね、聖剣のレプリカ」


 ……そんな、良いもんに聞こえたのかよ……。

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