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桜を追えと言うのなら  作者: かたなし
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三上桜から見た世界の知見

初連載です。ちょこちょこ更新していきます。ブクマ登録お願いします。



「次はこの世界かー」

 のんびりとした口調で、栗色の髪をした女性が呟く。名前は三上桜。見た目は20代半ば、黒一色のシンプルな服に身を包んでいる。足元にはあまり女性らしくない黒のブーツが光っている。袖口に簡易異世界転送機(1人移動専用、耐久保証なし)を仕舞い、大きく伸びをし、街への一歩を踏み出した。



 一章 魔法の国



 「パーティメンバー募集 魔法使い×4」

 「一緒に攻略しませんか。魔法使い3名募集」

 「急募!魔法使い!」


 勇者カイル•ヴァン•フラーは掲示板の前でため息を吐く。募集されているのは、魔法使いばかり。勇者である彼を求める声は一切ない。

 剣と魔法のどちらが優れているかと問われれば、多くのものは魔法と即答するそんな国。勇者の会心の一撃でバッタバッタと敵をなぎ倒し……と言うのはおとぎ話の話で、少なくとも今現在においては、道中の雑魚狩り、索敵、魔王城への道中含めて、魔法抜きでダンジョン攻略を語ることはできない。

 それでもパーティに1人勇者がいるのは、魔物へのとどめは勇者しか行えないからである。正確に言うと、一定以上のレベルの魔物に限るが。この辺の話は、魔導学院の1年生で習うナホロークス方程式に則る……。そんな学生時代の思い出を回顧しながら、勇者カイルは大きなため息をついた。

 勇者の需要過多。これがこの国の大きな問題である。神託によって選ばれていた勇者も、最近は「また勇者か」と言われるほどのものに成り果ててしまった。しかも、カイルの勇者ランクは1番下のZ。これでは魔法使いを募集することすらできやしない。パーティの最低構成数は3人。あと1人がどうしても見つからない。


 「魔法使い見つかりそう?」

 

 カイルの後ろから、凛とした声が聞こえた。

 

 「いーや、全然。これはまたしばらくダンジョンは無理かもなあ」


 カイルはそう答えながら、後ろへと振り返る。もう1人のパーティメンバー、エマである。明るい水色の髪は肩まで伸びており、濃紺のローブとよく似合っている。小動物のような見た目からはエマがA級魔術師であるというのは誰も想像ができないだろう。


 「全然大丈夫だよ。それまでは2人でゆっくりと森で狩りをしてればいいし。知ってる?最近またレッドベアが獲れるようになったんだって!」


 「そうだな」


 そう答えながら、カイルはエマに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。魔導学院を主席で卒業したエマを、誰でもできる森の掃除人にするのは、国立であった魔導学院からしても望ましい結果ではないだろう。魔法使い待ちの現状は、カイルの勇者ランクによって招いたものであるのは一目瞭然であった。


 「よーし!今年は10匹は狩るぞー!」


 そう高らかに叫ぶエマの後ろから、柔らかい女性の声がした。


 「あのー、もしよろしければパーティに入りましょうか?」


 カイルとエマは同時にその声の方へと目を向けた。のんびりとした口調の栗色の髪をした女性がそこにはいた。見た目は20代半ば、黒一色のシンプルな服に身を包んでいる。足元にはあまり女性らしくない黒のブーツが光っている。


 「え?本当に僕らのチームに入ってもらえるんですか?僕はZ級ですよ!」


 せっかくのありがたい誘いにも関わらず、思わずカイルはマイナス面をアピールしてしまった。パーティのランクは勇者のレベルに依存する。そして、このパーティの勇者はカイル。ランクは言うまでもない。


 「全然構いませんよ。最近パーティであまり行動していなかったもので、リハビリの意味合いも兼ねてますので」


 栗色の髪をした女性はゆっくりとした口調で再度答える。フワフワしているなあという感想が真っ先に出てくるような人だ。


 「失礼ですが、ランクはいくつですか?あんまり低いと流石に怖いので……」


 横からエマが口を出す。パーティのランクは勇者のランクに依存するが、パーティの生存率は、魔法使いのランクに大きく影響される。まあうちに限っては、エマがAランクなので全く心配はないが……。


 「この世界の基準だとAランクですね」


 またしても女性はゆっくりとした口調で呟く。


 「この世界?ってことはあなたは……」


 エマが訝しげな顔をする。


 「ご想像の通りです。私はトラベラーです。三上桜と申します」


 「はじめて見た……」


 エマはその可愛らしい顔からは想像ができないくらい口をあんぐりと開けている。

 トラベラー、その名前が意味するのは異世界を旅するもののことである。ただ、異世界を旅すると言っても、異世界の中を旅するのではない。異世界間を旅するのだ。

 異世界というのは並行世界のようなもので、無数にあると言われている。実際、この世界でも数多くの便利な発明品は異世界からトラベラーによって持ち込まれたとされている。ただ、世界は広いからか、はたまたトラベラーの気質によるものなのか、これまでにトラベラーに会ったというものはほとんどいない。神話未満、噂話以上。これがトラベラーである。


 「……よろしくお願いします」


 カイルは即答までは行かなかったが、すぐに答えた。


 「ちょっと本当にいいの?トラベラーなんか本当に信用するの?」


 エマは本人が目の前にいるにもかかわらず、とんでもないことを口走る。


 「それは失礼だろ!エマ!」


 カイルは焦って、エマを叱る。これはまたとないチャンスだ。やっとダンジョンに挑める。カイルの頭の中はそれでいっぱいだった。


 「それはそうだけどさあ……」


 「Aランクなんていう高ランクの、しかもトラベラー!お願いしない理由はないよ!」


 「うーん……」


 未だに渋るエマを横目にカイルはパーティ登録書を起動させた。永遠に埋まらないかと思われた3人目のパーティメンバー。これで埋まる……。カイルは喜びに震えていた。


 「お願いします!」


 カイルは三上へと登録書を渡す。


 「こちらこそ、お願いいたします。」


 そう言って、三上は永遠に埋まらないとされていた、チームカイルの3人目のメンバーとして登録行った。

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