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【死ぬかと思った】

 リリアンとウィンザー子爵を泊めた次の日、エディからは昨日の吸血鬼排除主義の一人以外は見つかっておらず、恐らくはもういないだろうという進言をもらった。

 ウィンザー子爵は用事があるらしく、朝早くに帰るとのことで護衛とともに先に帰っていった。なんとなく不安に思ったのでリリアンのことは俺が帯剣して送っていくことにした。剣を抜くことにならなければいいが……。


 狭い車内の中、緊張感が漂いながらウィンザー邸へと馬車を走らせた。エディ含めた騎士団たちがいるから心配はいらないと思いながらもなぜか不安が胸の内でざわめいて離れなかった。

 リリアンを安心させようと思って俺は話しだした。

 


「リリアン、何があっても絶対にリリアンのことを守る」

「どうして急にそんなことを言うの……?」

「えっ、いやその……なんでだろうな」



 余計に不安がらせたようで失敗した。なんだか空回っている気がする。そっとため息をつきながら窓の外を見ると外になにかきらりと光るものを見つけて考えるより先に体が動き、リリアンを床に押し倒して覆い被さる。その瞬間ガン!という大きな音が響き、馬車が泊まった。


 車内はもちろん周囲にもビリッとした緊張感が走った。馬車周辺で怒号やガキンという剣と剣がぶつかる音が車内に響く。リリアンの体は震えていて顔は真っ青だった。大丈夫、大丈夫だ、と根拠もなく繰り返して落ち着かせようとした。言わないよりはマシだと思ったのだ。


 しばらくして音は止み、コンコンと馬車を叩く音が聞こえた。腰の剣に手をあて、抜剣する。ノックを無視をするとドアがバッと開く。ドアが開いた瞬間に剣を前に突き出すとグッという呻き声が聞こえた。



「テッド!行かないで!」

「ここで待っていてくれ、すぐ戻る!」



 リリアンの悲痛な叫び声が聞こえたが、ここで二人で閉じこもっていたところで解決はしない。エディほどではないが、エディと一緒に剣の稽古をしていたこともあって剣の扱いはそこら辺の貴族よりは心得ている自負がある。実戦経験はないため、恐怖や焦りの感情が心を占めてしまいそうになるが、リリアンの顔を思い浮かべて自分を叱咤した。


 剣を引き戻して剣と一緒に体を前に突き出して剣を相手に深く刺した。馬車から体を乗り出したことで周囲の状況を把握した。


 俺が屋敷から連れ出した護衛はエディを含めて10人だ。対して敵味方がバタバタと倒れているが、襲ってきた輩は確認できるだけで立っているのが10人ほどだった。

 馬車に弓があたったことで近くの木々に弓者がいることがわかる。何人か定かではないが、弓が飛んでくることを想定しながら動かなければならない。

 対して味方はエディが鎧を血に染めながらも果敢に戦っているのが見える。他は5人ほどが敵と相対しているのが見えた。しかし立っているのがやっとという者もいて、状況は悪いということが否が応でもわかる。



「兄さん!出てきちゃだめだ!逃げろ!」



 エディが話しかけてきたが無視をした。実戦に慣れていないのに言葉を返せるわけがないのだ。エディが叫んだことで俺に注目が集まり、二人ほどこちらに向かってきた。

 3人同時に相手をして苦戦していたエディが身軽になってすぐに相手の息の根をとめるとすぐにこちらに向かってきた。



「ごめん、兄さん。すぐに倒すから!」

「無理をするな、立っているのもやっとだろ!」



 お互いに背中を合わせて敵と相対する。俺の方に剣を振りかざしてきたので、それを剣で受け止めて右に流し、斜め上に素早く切り返した。敵も簡易な防具を着込んでいるのでそこまでダメージは見込めない。敵がよろめいた隙に踏み込んで防具の隙間に剣を差し込む。剣を抜いて相手を蹴飛ばすと地面に倒れ込んだ。


 後ろでバタンと人間が倒れた音がした。エディが倒したのか、と思いながら後ろを見るとエディが倒れている。



「エディ!」



 エディは利き腕を弓矢に射抜かれていた。エディを倒した敵がこちらに向かってきた。虚を突かれた俺は間一髪でそれを避けるが避けた際にコケてしまった。その好機を見逃さずに剣を振り下ろしてきたので咄嗟に剣で受け止める。

 敵は剣に力を入れて押し切ろうとしてくる。不利な体勢もあって押し負けてしまい、左肩から下を切られた。激痛が襲ってきて目眩がした。



「ぐ……ああッ」



 あまりの痛さに悶絶する。加えて矢も何本か飛んできて左脚に命中した。味わったことのない苦痛に顔をしかめていると、馬車から連れ出されたリリアンが制止を振り切って俺に駆け寄ってきた。



「テッド……!いやーーーーッ!」


「だめだ……リリアン逃げろ……」

「いや!もう置いていかれるのはいや!」



 ボロボロと泣き叫ぶリリアンを宥めることも出来ずに、ただ息をするだけでも精一杯だった。リリアンを見上げて涙を顔で受け止めながら、リリアンを残してしまうのが申し訳なくて後悔の念にさいなまれたその時、聞こえるはずのない友人、ロニーの声が聞こえた。



「はあああああッ!」



 ロニーが突然敵の背後に現れて切りかかる。咄嗟のことで敵は反応もできずロニーの剣を背中で受け止めるばかりだった。どうやって検討をつけたのか、木々の中に飛び込んだかと思うと弓者の断末魔が聞こえた。

 しばらくしてロニーが姿を現した。俺もリリアンも呆然としている。



「お待たせ、もう安心していいよ。皆やっつけたから」

「お前、カッコよすぎだろ……」



 俺はこんな有様なのに。リリアンの腕の中で俺の意識は途絶えた。


ブックマーク、評価ありがとうございます。執筆の励みになります。

誤字脱字あると思います。見つけたら連絡ください。


次話で完結致します。もう少しお付き合いいただければ幸いです。



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