【めでたく結婚することが決まった】
あの後、リリアンの涙がとまって目の腫れが治まるのを待ってから舞踏会で何回も踊った。俺たちはそれはそれは晴れやかな笑顔だったらしく、後で見ていたロニーにからかわれてしまったのはご愛嬌だろう。
リリアンはあれから俺に敬語はつけなくなって、自然と二人きりのときはお互いに呼び捨てにするようになった。そんな俺たちは婚約者から夫婦への第一歩を踏むことになった。結婚がついにめでたく決まったのだ。それはもう嬉しかったが浮かれすぎていたらしく、弟は俺を見てうわ……と言い残してどこかに消えてしまった。
結婚と同時に侯爵を受け継ぐことになり、半年後のことではあるが家中てんやわんやである。爵位を継承する旨を伝えたり、結婚式に招く人たちのリストアップだったりとやることがあまりにも多過ぎて目が回っている。
いろいろと準備が始まるとリリアンに一ヶ月も会えないまま時が過ぎた。週に一回ぐらい手紙のやり取りをしていたので多少は寂しさが紛れたが、やはりさすがに会いたいと思う。リリアンも同じように考えていてくれたようで会いたいと書かれた手紙を読んだときは自室でニヤけてしまった。
結婚の準備を進める過程は片方だけは限界がある。俺の家が、というより俺が主導しながらもウィンザー家とも合同で進めていくことになる。つまりリリアンに会えるということだ。
「テッド!会いたかった」
「俺もだ、リリアン」
こちらもバタバタしていたのでウィンザー子爵に家に着てもらった。一緒に着いてきたらしいリリアンが笑顔で玄関に現れて驚いた。驚いた俺を見てさらにリリアンが笑って、その笑顔がかわいくて俺も笑顔になった。
いろいろとウィンザー子爵と必要な相談ごとを終えて、リリアンと一息ついていた。
「いろいろと決まってからバタバタしていたから疲れただろう?」
「うん、でもテッドと会えたから疲れなんか吹き飛んだわ」
「俺もだ、リリアン。忙しくてもリリアンと結婚するためだから頑張れた」
「テッド……」
「リリアン……」
「……ちょっと、兄さん。二人の世界を作らないでくださいよ!僕もいるんですよ!?」
急に弟が声をあげた。そう、この場には俺とリリアンと俺の弟のエディ・ホワードがいた。その一言で俺たちは我に帰って居たたまれなくて下を向いた。
「謝るなら最初から僕を呼ばなければいいでしょう!?」
「お前を紹介したことが無かったからな……いや、すまん」
「……あんなに自分たちの世界作ってたのになんでこの人たち今さら恥ずかしがっているんだか……まったく」
エディはブツブツ言いながら紅茶を飲んでいた。顔を真っ赤にしながら俺も恥ずかしさを隠すようにそれに倣った。
「まあ兄さんもようやく落ち着けそうでよかったね」
こいつは自分では隠しているつもりだが優しいやつだ。ツンケンしているがこういったことを臆面なく言うことができる。
エディは俺の唯一の兄弟で、俺が侯爵家を継ぐことが幼少のときから決まっていたのでホワード家直属の騎士団をまとめる騎士団長になると最近取り決められた。
「ありがとう、エディ」
「別に心配なんかしてませんから」
「そういうことにしておくか」
「本当だってば!」
「……うふふ。本当に仲が良いんですね」
エディをからかって遊んでいるとリリアンは耐えきれないといった感じで笑い始めた。俺はエディを見てにやりと笑いかけたらエディの顔がさらに歪んだ。
散々にからかったのでエディは退室してしまった。エディも紹介したし、ホワード家自慢の庭を案内するかとなっていざ外に出たところ急に雨が降ってきた。奇跡的にリリアンは濡れずにすんだが、俺はずぶぬれになってしまった。
久々に来た不幸に不愉快になりながら着替えた。リリアンに慰められていると、外が騒がしくなった。エディが雨と泥に汚れながら入ってくると緊迫した面持ちでこう告げた。
「エディ、どうしたんだ」
「兄さん、今庭に吸血鬼排除主義のやつが一人出たんだ。単独犯かもしれないけど家の周りを中心に今パトロールさせてるって報告に来た」
「……そうか、わかった」
「テッド……」
吸血鬼排除主義とは、吸血鬼はいらない、人間だけで生活できると言い張る差別団体のことだ。ロニーと仲の良い俺はこうした吸血鬼排除主義にたまに襲われることがある。基本的に単独犯が多いが、警戒するに用心したことはない。
リリアンは不安そうな瞳で俺を見た。安心させるようにリリアンを腕の中に引き寄せた。
「今日はウィンザー子爵と一緒に泊まっていくといい。雨も降っているし、帰り道もしかしたら襲われるかもしれない」
「確かにそうね……」
ウィンザー子爵にも話をつけ、ここに泊まってもらうことにした。俺とリリアンはもちろん別室だ。
ピリピリとした雰囲気の中、次の日を迎える。
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