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【はあ……不幸だ】

 突然だが、不幸しか訪れない人生を送ったことがあるか?俺は生まれてから23年不幸な人生しか歩んでない。どうせお前ら不幸だ、とかいいつつ結局良いことばっかりなんだろ?反吐が出る。俺なんか道を歩けば穴に落ちて、その後に店に行けば店は暴れ馬の影響で入店出来なくなることが珍しくない人生だ。


 数ある不幸の中で一番つらいのは結婚出来ないこと。俺は侯爵家の長兄で、家柄だけじゃなくそこそこ安定した領地経営をしている。だが最初に婚約した女性は執事と駆け落ち、二番目に婚約した女性は元気に浮気して、三番目に婚約した女性は相手の家と自分の家の利益が合わなくなって、四番目に婚約した女性は他の男性の子どもを授かり……いろいろな理由で婚約はなくなってしまった。不幸である。


 そんなレベルで不幸な俺は『結婚出来ない次期当主』 『結婚したら不幸になる』などの不名誉なあだ名や不愉快な噂を裏で流されてしまい、婚約することさえ困難になってしまった。そもそも後者に至っては結婚していないから分かるわけがないと思うが……まあ、そんな俺に両親は大層焦ったらしく、まさかの子爵令嬢と婚約を取り付けてきた。

 両親は上昇志向か現状維持のどちらの考え方かと聞かれれば誰が聞いても上昇志向であると言えるので子爵といえど婚約相手の家は歴史が浅く、家格が低い家との結婚は基本的に考えないのが両親だ。一般的な貴族の思考でもある。


 子爵令嬢といっても婚約者殿の家は大層儲かっているらしく、両親はどうしようもない不幸な俺と婚約を成立させ、かつそんな中でも利益を少しでも取り入れたかったらしい。そこには文句はない。どうせすぐに破棄されてしまうのだから。

 諦観に徹する俺でも気に入らないことはある。婚約者殿は幸運な事で有名なのだ。不幸な俺に幸運な女性をあてがうのはやっつけ仕事のような嫌みさえ感じる。不幸と幸運でバランスがいいってことか?余計なお世話だ。不満を従姉妹に述べると、文句を言うなと諌められた。


 ちなみに婚約者殿のその幸運っぷりは俺も耳にしたことがあった。そもそも婚約者殿は子爵令嬢ではなくもともとは男爵令嬢で、小さい頃に家族で馬車で移動していたときに盗賊に襲われて家族は亡くなってしまうが一人だけ無傷で助かったり、治るのは難しいという判断がされていた病気を患っても後遺症もなく完全回復したりと俺とは全く違う幸運さだ。


 そんなことをつらつらと考えていたとしても婚約は着々と進んで行く。今日は顔合わせの日だ。俺の家では手慣れた様子で使用人達が準備を済ませていた。なにせ五回目なのでね。

 普段はどっしり構えている両親はわずかに緊張を滲ませている様子が見て取れて、俺はもはやこの際、不運には幸運をという安直な考えに呆れてはいるものの前まで沸々としていた不満などはなくなってしまっていた。諦めの境地である。



「ご令嬢がいらっしゃいました」



 使用人の一言でピリッとした緊張感が部屋に走った。気を引き締めて扉を見つめると扉がゆっくり開いた。入ってきたご令嬢はぎこちないあいさつをした。

 髪は茶髪のボブで、痩せても太ってもいない体形で服装も流行に左右されない定番のものといった、俺が言うのもなんではあるが……一言で表すとするなら普通といった容姿で、唯一瞳が金で珍しいなと思った。



「テッド・ホワードです」

「リリアン・ウィンザーと申します」



 促されてお互いに名乗りあうと俺の親と相手の親が話し始めた。時々話を振ってくるのに愛想笑いや相槌を返しながらこっそりとリリアン・ウィンザーを観察した。

 今までの婚約相手は派手に着飾ってたりこちらに気に入られようとしてきたりしていたが、全く目が合わない上にリリアンは緊張を隠そうとしていなかった。リリアン・ウィンザーは婚約したことがないからだろうか。顔に緊張しているのが出てしまうのは人としては好感を持たれることはあるが、貴族としては短所であるのが一般的な認識だ。俺は少しだけ心配になった。


 そんな風に俺が意識を思考に落としてしまった瞬間にそれは起きた。ぼうっとしてる俺は、リリアン・ウィンザーにメイドが紅茶を入れようとしたときに足を踏み違えてポットから手を離してしまったのに気付くのが遅れてリリアン・ウィンザーに被るはずもない紅茶がリリアン・ウィンザーに被ると勘違いして自ら紅茶を被ってしまったのだ。


 紅茶は熱く、メイドは顔を真っ青にして、俺は恥ずかしさで顔を真っ赤にし、俺の両親と相手方は顔を白黒させていた。まさしくカオスで、俺は後ろに庇ったリリアン・ウィンザーの顔を見れなかった。


 俺は自分の不幸をいつものように呪った。部屋の窓からは優しい陽光が俺を慰めるように射していた。

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