母親
村から旅立ち、てくてくと歩いていた勇者達は、新たな仲間が加わったことにより話が盛り上がっていた。
「ジアのお母さんは、とってもすごい人だったって師匠が言ってました!」
「どんな凄いことをしたんだい?エルフの話は魔法使いとして聞いておきたいからね。どんな話でも聞かせておくれよ。」
「マスター、それは少々失礼です。このような時に適切な言葉を述べるのであれば、『一言余計』です。」
ロックんの冷静なツッコミに思わず全員が笑う。
草木が生い茂る森に声が響き渡った。
「お母さんはどんなすごいことをしただか?」
「お母さんは{エフィル}に結界を張るお仕事をしてたそうです!師匠が旅をしていてお母さんに一目惚れして告白したからお母さんは一度はそのお仕事を辞めたらしいですが、その仕事を受け継いだ後輩さんがうまくやれなくて呼び戻されちゃったらしいです。」
「そうでしたか…お母様も大変ですね…」
ジアの母親の話を隣で聞いていた強志は、ふと自分の母親のことを思い出した。
昔、父から聞いた話によると、母は強志がちょうど3歳になった頃に行方不明になったらしい。
それはいつも通りの日曜日の出来事。父が熱を出した為、母が買い物に出かけたらしい。
だが、それ以来母が帰ることは無かった。
警察に捜索を依頼しても見つからず、自分でも必死に探し回ったらしい。
しかし、母の姿はどこにもなかったという。
恐らく、父が厳しいのは、母に代わって強志を育てようとする責任感があったからこそなのだろう。
父に会えなくなった今だからこそ、そう思える。
父は今どうしているのだろうか。強志の死を嘆いている?それとも、妻と息子のことを忘れて呑んでいるのだろうか?
「おぅ!!お前ら、そこで止まりやがれ!」
不意に聞こえたその声が、強志の妄想を掻き消した。




