勇者一行、夜逃げする。
あれからたった一ヶ月ほどのことだろうか。
村の人々の間で「最近、魔物が襲ってくる頻度と魔物の数が増えてきているらしい。」
という噂が流れていることを知った。
強志達はロックんことロックゴーレムを連れて獣人国の村、{ティオール村}から立ち去った。
理由はいうまでもなくジェイマーが勇者だったため、自然と魔物を呼び寄せてしまうからだ。
別れる際にジオとジアの2人のみには事情を話した。
彼らは少し戸惑っていたが、「君達がそのような決断をしたのであれば俺は咎めない。だが、近くによることがあったらいつでも俺達の家に来てくれ。」と笑顔で言っていた。
夜の草原で、勇者一行は目的もなく歩いていた。ただ、{ティオール村}から離れるために。
「ジェイマー、そんなに落ち込むことないって!死傷者が出たわけじゃないしさ。」
「ツヨシの言う通りだぁ、落ち込むことないだよ。」
「でも…俺のせいで迷惑を…俺が…俺が勇者だから…きっと今までの『ムーブモンスター現象』も俺がいたから近いところで目撃されたんだ…」
俯きながらそう言うジェイマーの目には、絶望の色が浮かんでいた。
「そんなことないですよジェイマーさん!だって、だって{ティオール村}にいるときは起こらなかったじゃないですか!きっとたまたまです!」
「そうだよジェイマー。それに、君がそんなことで悩んでいてどうするんだ、リーダー。
君はこのパーティーをまとめるリーダーだろ?」
「マスターのおっしゃる通りです、ジェイマー様。それに、貴方は悪行などしていません。
気に病む必要はないと判断しました。」
「ピュイ!ピュピュイ!」
ロックゴーレムにまでそう言われ、ジェイマーは下を向いていた顔を少しだけだが上げた。
「そう…だよな。俺が、俺がこんなとことでくじけてちゃだめだよな。すまん、皆。」
両手を合わせ、「ごめん。」と言いながら再び頭を下げるジェイマー。しかし、先程とは違いその瞳には僅かだが光が灯っていた。
「いいっていいって。そんなことよりジェイマー、僕達これからどうする?
勢いよく走り出してきたのはいいけど…」
「…すまん、何も考えてなかった。」
ズコーッ、と全員が盛大にコケる。だが、彼はいつでも前を向いて後ろは振り向かない性格なので
彼らしいといえば彼らしい。そんな性格だが、いや、そんな性格だから
人を惹きつける何かがあるのだろう。
「なら、これはどうだか?今頃どこかでモンスターと戦っているカズヒコのところにい――」
「それだっ!カズヒコは1人だし、苦戦してるかもしれねぇ!」
「あー…でも、どうやってカズヒコの所へ行くんだい?」
「それなら…」
強志が[ストレージ]から何かを取り出そうとしている。
全員が気になって強志の傍へ寄り、[ストレージ]を覗き込んだ。
「これはどうかな?」
「こっ…これは…!」
サクロが驚いた表情でそう言ったので全員が揃ってなぜそのような顔をしているのか
不思議そうにサクロを見た。
「これは…なんですか?」
ジェイマーがボケたときより数倍は派手にズコーッ、と全員がコケた。
「えぇと…これは『モストラリング』って言うんだけど…」
強志はそれを入手した経緯と指輪について話した。
和彦が村を去る前日、強志は和彦に呼び出されていた。
何があるのかわからず訝しげな表情を浮かべている強志の手にこれを握らせた。
彼曰く、「指に装着していればこの指輪の対となる指輪の方向に1メートルほどの光が出現し、
相手の居場所を教えてくれる優れものだ。」
との事。
「でも、その光ってどうやって出るんだよ。」
「自分の体内にある魔力と空気中にある魔力。」
「じゃあ長時間使用したら…?」
「もちろん魔力切れ。」
「そういうことなら、『アレ』をしないとな。」
「ということで今回も始まりました嫌なことジャンケン!司会は私、サクロでお送りいたします!
それでは手を出して!さーいしょーはグー!ジャーンケ-ンポンッ!」
強志、ヘクセ、ジェイマー、カインがそれぞれ自分の手を出す。
「強志さんパー!ヘクセさんチョキ!ジェイマーさんチョキ!カインさんチョキ!
と、いうことで今回の嫌なことジャンケン、司会はサクロでお送りいたしました!
それではまたの機会に!」
と、いうことで指輪を装着するのは強志に決まったのであった。
最後のジャンケンは完全に深夜テンションです…ごめんなさい、ごめんなさい。




