サムライ
「誰だっ!?」
和彦が声を荒げながら扉の方を見る。
「そう警戒するのも無理はない…が、拙者、悪者ではないでござる。」
「いやいや!証明できるものないでしょっ!」
「廊下を通っていたらたまたま話し声が聞こえたもので、ついつい盗み聞きしてしまったでござるね!」
「いや盗み聞きすんなよ!」
ジェイマーの強めのツッコミが入る。
「結局、君は誰なんだ…」
「そうでござるな。自己紹介を忘れていたでござる。拙者は川近太郎と申す。
この地域で言うならば、拙者の職業は『サムライ』でござるな。」
「サムライだなんて聞いたことないだよ。他にも知らない職業があるかもしれないだぁね。」
「ところで、君は何故トロールの話に反応したんだい?」
ヘクセが探るように質問する。
「…拙者、里の仲間を守りたいでござるが、あの緑巨人は里の者も恐れて
誰も討伐に向かおうとしないでござる…しかし、あのまま放置しておけばいずれ里が襲われる…
拙者は、それを回避したいでござる。そこで先程の話を聞いた時、なんと勇敢な旅人でござるか!
この方々ならばかの緑巨人も討伐できるのでは、と思ったでござるよ。」
太郎の真剣な眼差しを見たヘクセは諦めたようだ。
「はぁ。疑って悪かったよ。」
「拙者も突然出てきて驚かせたでござる。こちらこそ申し訳ないでござる。」
そのやり取りをみていた強志達は、ようやく警戒心が解けた。
しばらく話して仲間と打ち解けた太郎は、キングトロールの情報を知っている限り教えてくれと
言われ、何の迷いもなく話し始めた。
「あやつはおよそ2週間ほど前、突然里の近くに現れたでござるよ。今までそこで猟師として生活していた里の者は緑巨人…強志達はキングトロールといったか。
あの憎きキングトロールを恐れて近づかなくなったでござる。漁師のお蔭で魚は入手できるでござるが…どちらにせよ、いずれは里も襲いに来ると言われ、拙者の仲間は7人程の少数精鋭で挑んだでござる。
しかし――仲間は全滅。さらにその後、仇討ちに行った里の者も全滅…
そのような事もあり、今では近づかずに様子を見つつ生活をしているでござる。」
「どんな攻撃をするかは知っているか?」
「残念ながら、戦っている所を見た者はキングトロールの餌となっているでござる…」
俯きながらも話す太郎に
「そうか…話してくれて、ありがとな、タロウ。俺達が仇を取ってやる。」
ニッとほほ笑むジェイマーを見た太郎は顔をあげて、頼もしい仲間を見る。
全員やる気に満ちていて、太郎の瞳をまっすぐに見つめていた。
「まだ出会って日の浅い…どころか時の浅い拙者の頼みをどうか1つ聞いてもらえるでござるか?」
「もちろんです!私達でできることなら何でも!」
「拙者も、キングトロールを討伐する時に連れて行って欲しいでござる。里の者の仇を取り、
あの時仲間と共に討伐に向かおうとしなかった情けない拙者と別れるためにも。」
太郎の決意を感じた6人は頷きあった。
「お前の決意、感じた。俺が手伝ってやる。」
「…ったくよぅカズヒコ、俺じゃなくて俺達だろ!」
「なんと…!このご恩、いつか返すでござる!」
「おう!期待してるぜ!」
「ジェイマー、ここは『礼には及ばん』とか、他に言う事があるんじゃないのかい?」
「いや、お言葉に甘えたいのが俺だからな。うん。」
他愛のない話をしているとやがて夜が訪れた。
翌日に出発すると伝えた6人は太郎と別れ、それぞれが布団に入った。




