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旅する鍛冶師と勇者たち。  作者: バドライ
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ジェイマーの過去と秘密

その日の夜は、雲一つなく、星が輝く美しい夜空が広がっていた。



「よう、ツヨシ。やっぱり寝れなかったか?」

「うん。…って、なんで僕が来たことに気付いたの?」


「なんというかまぁ、『勘』ってやつだ。そんな気がしただけだ。」

「そっか…」


静かな森の中2人の話し声だけが聞こえる。


「実はツヨシには黙ってたんだけど1つ言わなきゃいけない事がある。」

「え?なになに?」


「う~ん…これを聞いたらツヨシが普通に接してくれなくなるかもと思ったんだ。」

「余程の事じゃないと僕はそんな事しないよ?」

「…そうか。それじゃ、話すよ。」


やけに険しい顔になる。


「俺は――『勇者』だ。」


「あ、うん。」


「え?」


とジェイマーが言い、


「え?」


と強志も続く。


「いやいや、ちょっと待てよ?俺が勇者って驚かない?あんなに弱いのに。そもそも信じてないよね?」


「いやいや、嘘はつかないと思ってるけど、なんでそれだけで普通に接してくれないと思うの?」


「なんでって…そりゃ、勇者の近くにいると様々な強敵が現れるって予言が…」


「知らない。」

「なっ…しらないのかよ…有名な話なのに…」


「うん、知らない。…でも、ジェイマーが勇者だろうと別に僕はいいよ。」


「なんでだ?俺の近くにいると常に死の危険が隣り合わせになるようなものだぞ?」

「それは…ジェイマーが友達だからだよ。それに予言は予言。実際に見たわけでもない。違う?」

「友達…か。アイツらにも同じことを言われたな…」



と、ジェイマーは星空を見上げながら呟いた。


「アイツらって?」

「俺のパーティーメンバーだよ。」


「そっか…やっぱり皆は知ってたんだね。何となくこの話を聞いてそんな気がした。」

「ちなみに、俺がなんでこんなに弱いか知ってるか?」

「いやいや、知らない知らない!」


「だよな!それじゃ、説明してやろう。」


「うん。」


「俺は――」



ジェイマーはムート村という村で生まれ、つい最近、それも1ヶ月ほど前までその村で過ごしていたことを話した。そこでは両親と共に農家として暮らしていたらしい。


しかし、幸せが壊れる時は突然やってくる。


村の教会でシスター達が「神の声が聞こえた」と、騒ぎ始めた。


教会にいたシスター達は全員「神はジェイマーが勇者だと(おっしゃ)いました。このままでは村が危険です!」と村長へと伝えたのだ。


神を信仰していた村長はもちろん信じた。

勇者は強敵を呼び寄せるいわば『疫病神』なのだ。最近、村の中に入ってくるモンスターが多いことが気になっていた村長は、ジェイマーとその家族を殺せ、と言い出した。


両親は「早く逃げなさい」とだけ言って、時間を稼いだ。しかし、ジェイマーがやっと逃げ出した所で背後からクワで攻撃され、この世を去った。


ジェイマーは両親の死に大きなショックを受けつつもとにかく逃げた。


それから3日後の事。あてもなく森をさまよっていたジェイマーをある3人組のパーティーが救助し

た。


そのパーティーメンバーがカイン、ヘクセ、サクロだったそうだ。


その3人はメリットがあるわけでもないのに「まだ旅立ったばかりだからメンバーが欲しい」と言ってジェイマーをパーティーに入れた。


しばらくしてジェイマーは勇者だという事を説明したが、その3人は友達なんだからそんな事関係ないよ、と言って気にしなかった。


しかし、両親以外に初めて自分を認めてくれる人間がいたことに対してジェイマーは感動し、涙を流した。


そのようなこともありながら4人は3つの街に入った。

まだまだメンバーは戦闘経験が少ないので敵との戦闘は極力避けながら移動していたらしい。


1つ目の街ではジェイマーの最低限の装備買い、

2つ目の街ではグルメを満喫した。


そして3つ目の街では情報を手に入れた。

魔物が少なく、尚且つどれも弱い魔物がいる所が近くにある、という事を聞いて4日ほどかけてここまで来たときに強志と出会った。


「そんなことが…」


「でもまぁ、勇者がこんなに勇気がなくて弱いんじゃダメだな…全く、何のために勇者なんてあるんだ…神様はなぜ俺を選んだんだよ…」


「…ジェイマーはいいやつだよ。」

「?」


「嫌われることを恐れながらも正直に自分の事を話してくれたから。そんな小さな勇気の積み重ねが、大きな勇気になるんだと思うよ。だからジェイマーは勇者に選ばれたんだ。…多分ね」


少し照れくさくなったのをごまかそうとして、強志は微笑む。


「全く。お前こそいいヤツだよ…」

ジェイマーが涙を流す。


「それじゃ、僕はそろそろ寝るね」


「…あぁ、おやすみ。」


「おやすみ。」


静かな夜の森の中、1人泣く声だけが響いた。

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