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悲鳴を奏でるピアノにて⑧
あれから、夢は何事もなかったように学校生活を送っている。
オカルト部への入部が決まり、合唱コンクールの練習も努力しているという。
まさに充実した高校生活、というわけだ。
「……悪ふざけでも、嘘なんてつくものじゃないな……。」
部室で一人、小さく呟く真冬。
このピアノの呪いは、数十年前のたった一人の嘘から始まったもの。
それが現在に至るまでピアノに触れた人々の魂を奪い続けてきたのだろう。
───『言霊』という単語がある。
言葉に宿る不思議な力のことだ。
無意識であれ何であれ、一度発した言葉はこの世に生み落とされた一個の『命』。
一体どれくらいの人々が、その『親』に選ばれたのだろうか。
真冬はピアノに『暗示』をかけ、噂そのものを消去した。
だが、また同じ噂を流す者が現れたら……。
否。
もしかしたら、もう既に手遅れかも知れない。
誰かが噂を流し、呪いが蔓延しているかも知れない。
「……言葉の力は侮れないな……。」
真冬の独り言が、薄暗い部室に霧散していった。