表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神宮寺 真冬  作者: 闇雲
7/16

悲鳴を奏でるピアノにて⑦

ここからは憶測だが、彼は生前からピアノに取り憑かれていたのではないだろうか。

そして、次第に人々は彼に関する記憶を失うようになってしまった。

そういうことではないだろうか。

『俺ハ……ヤットコノ呪イカラ逃レラレル!

コノ女ニハ悪イガ……俺ハコレデ自由ナンダァァァァァァ───ッ!』

満面の笑みを浮かべる男。

長きに渡って音楽室に束縛され続け、気が狂うような思いをしてきたのだろう。

その苦痛から解放されることの喜びは想像に及ばない。

真冬は理解した。

この『噂』は何人もの人間に感染していくものなのだと。

そして、今回は夢に感染した。

たった今夢が『噂』の担い手となり、先代は解放された。

『ァァァァァァァァァァァァァァ……!!』

「うっ!?」

脱け殻のようになっていた夢の体が唐突に動き出す。

それはさながらマリオネットのようにぎこちない。

『ウガァァァァァァァラァァァァ!!』

ヨダレを垂らしながら突撃してくる。

やはり正気ではない。

最小限の動きで回避すると、夢は勢い余って転倒した。

ゴッ、という鈍い音がする。

彼女の肉体に傷がついてしまった。

だがまだだ。

ギリギリのところまで体感しなくてはここまで来た意味がない。

そのためならば、重傷を負う覚悟だってある。

と言っても、死ぬつもりは毛頭ないし、好き好んでダメージを受けるつもりもないが。

「夢には悪いがまだ足りないんだ……ハァ……ハァ……『もっと』だ……。

『もっと』『もっと』やってもらわなきゃ困る……!」

その声に呼応するように、夢は立ち上がり向き直る。

『ウグッ───ウグォッ───!』

動きは直線的だが、噛みつくなり引っ掻くなり、あるいはそのまま押し倒すなりされるとかなりのダメージを負うことになるだろう。

何せ、今の夢は獣も同然だ。

案の定爪を立てて襲いかかってきた。

この攻撃はあえて受け流さず、その腕をがっしりと掴む。

勝利宣言を聞かせるため、『わざと』だ。

真冬はそういう、少し子供じみた性格をしている。

「今度は私を『ピアノ』に縛りつけようって魂胆ね?

でもそうはさせない……『呪い』はここで終わるんだ……!」

言い終わってから夢を突き飛ばし、ピアノに『暗示』をかける。

呪いも噂も初めから存在しない。

そういう『暗示』をかける。

すると、立ち上がり再び襲いかかろうとしていた夢は電池切れのオモチャのようにバタンと倒れ、

その顔はたちまち健康な人間の顔に戻った。

真冬はホッとしながら、夢にも『暗示』をかけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ