悲鳴を奏でるピアノにて④
「あんなこと言ってたけど、無理だよなァァァ。」
「……。」
帰宅中、愚痴を漏らす羽水と黙り込む夢。
これまでにも無茶をやってこなかったワケではない。
偶然に助けられなければ大怪我を負っていたかもしれないこともある。
ただ、今回は群を抜いて無茶だ。
幽霊に呪われるとか、変な館に閉じ込められるとか、そんなものより余程現実的で確定的な恐怖がある。
もしもセキュリティに引っ掛かってしまえば真冬は一巻の終わりだ。
オカルト部もどうなるか分からない。
「真冬さんを……信じて……みましょう。
……出来ないことを……やろうなんて……言わない人だと思います……。
根拠は……ないですけど……。」
「……。」
夢の思わぬ発言に、今度は羽水の方が黙ってしまった。
今まで真冬の傍にいながら、真冬のことを理解出来ていなかったということを感じたからだ。
今日出逢ったばかりの少女に、あっさりと出し抜かれてしまった。
「そう……だな……俺は今まであの人の何を見てきたンだか……。
自分で自分のことが……その、嫌になるっつーか……。」
「……。」
どうも会話が長続きしない二人。
すぐに途切れてしまう。
真冬に対してはあれだけ気兼ねなく無遠慮に話せる羽水も、夢に対してはスムーズに話せない。
緊張しているからだ。
同時に、夢の方もかなり緊張している。
そのことが伝わって、互いに『遠慮』しているのだ。
下手な発言をしないよう気を遣うあまり、言葉を発することすら儘ならなくなる典型的なパターンだ。
ここでようやく、羽水は普段の真冬に対する己の無礼さを知る。
別に真冬を軽く見ているわけではないし、むしろ尊敬しているのにも拘わらずだ。
「……ごめん。」
「な、何が……です……か?」
「あッ、違……いや、違わないか……?
いや、何でもないよ……うん。」
バカではないか。
咄嗟に出てきた言葉が『ごめん』である。
確かに会話が続かず気まずい空気になったことに対して申し訳ないという気持ちがあったのは事実だ。
しかし『ごめん』はないだろう。
謝れば良いというものではないし、彼女も謝罪に対して困惑しているではないか。
相手の気持ちを考えたつもりなのに、何ということだ。
羽水は柄にもなく(これが本性なのかも知れないが……)自分を責め立てた。