悲鳴を奏でるピアノにて③
「早速ですけど、持ってきた『ネタ』の話をして……良いですか?」
「もちろん。」
「この高校の……音楽室の話です……。」
「……ああ、あのありきたりな話?」
真冬も羽水も知っている。
『そういう話』があるということは。
というか、聞かない方が珍しいのではないか。
どんな学校にもあるような、退屈で使い古されたネタだ。
「はい……夜になると……音楽室からピアノの音が聞こえてくる、という……昔からある『噂』です。」
「そんな話をここに持ち込んできたのは君が初めてだよ。
でも悪戯が好きってわけでもなさそうだ、一体どうしてそんな話を持ち込んできたの?」
別に威圧したつもりはないが、如何せん顔が冷たいので恐怖を感じたのだろう。
夢は少し縮こまってしまった。
「わッ……私……合唱コンクールでピアノの担当になって……触ったんです……ピアノに。
普通……そんなことで誰も……違和感なんて感じないと思うンですけど……私、感じたんです……。
何と言うか……この世のものだけれど、この世のものじゃないような……そんな不思議な感覚を……感じたんです……。」
「ふぅん、でもそれだけじゃあまだ浅いね……。
誰かに見られている感覚がするというのはよくあるけれど、それも直接的に霊感と関わるものとは限らない。」
「……ええ、でも問題はそれからなんです……無性にピアノが弾きたく……。
いえ、そうじゃないんです……心の中では弾きたくないと思っていても、体が弾こうと弾こうと動くんです……。
まるで音楽室のあのピアノに吸い寄せられるように……引っ張られるように……。
それが……日に日に強くなってる気がして……。」
「……。」
既に真冬は聞き入っていた。
まさか、ありきたりな話がこんなに興味深い話に化けるとは。
「授業中でも家で寝ている時でも、お風呂に入っていても……とにかく時間を選ばずに襲ってくるんです、衝動が……。」
「なるほどなるほど、そこまでくると確かに……。」
「これが『噂』と関係あるとは限らないし……もしかしたら私、精神の病気なのかもしれません。
けれど……調べてみたいんです……この現象を……。」
「でも、夜の学校なんてセキュリティがあるから入れないっすよ。」
「……じゃあ、私が行ってくる。」
「えッ、本気っすか部長……オレの話聞いてましたか!?」
「この私に不可能の文字はないの。
セキュリティなんてものは破るためにあるの。
……分かる?」
羽水と夢は同じタイミングで首を横に振った。
ただ、彼女はこれまでにも何度か夜の学校に忍び込んだことがある。
セキュリティを破ることが出来るだけの『能力』を持っている。
だからこそ自信があるのだ。