悲鳴を奏でるピアノにて②
「あ、そーだそーだ……入部希望者がいるンすけど……良いっすかね?」
「入部希望者?
とーぜん、okだけど。
そして君が代わりに退部してくれれば尚更ok。」
「面白いネタをひとつ持ってるからお話ししたいそうっす。
何でもこの学校にまつわる話らしいっすけど……。」
「……トイレの桜子とか、準備室に置かれた模型が動く話とか?」
「そんな感じっすねェ……要はありきたりっつーか。
そろそろ来ると思うンすけど。
来るまで暇潰ししましょーよ、ねぇ。」
「はぁ?」
別に暇じゃないワケではない。
ただ、こんな男が勝手に『暇』だと決めつけてきたことが気に入らない。
何といっても彼女は、凡人と一緒くたにされることを忌み嫌うという女子高生らしからぬ性分なのだ。
まして凡人以下の羽水など言うに及ばず。
「え、え、もしかして暇じゃないっすか?」
「うるッッッさい、ホント。」
「世の中にはうるさい人間と静かな人間がいるンすよ。
俺はうるさい人間だからうるさいのが取り柄ってことっす!
自分の性格と向き合ってポジティブに生きていくっす!」
「生きる社会悪ってヤツね。」
「ヒドい、圧倒的にムゴい!
暴言いただきましたァ!」
羽水がドンと机を叩くのと同時に、部室の扉が開いた。
「……ん、誰?」
入ってきたのは如何にも絵に描いたように気弱そうな少女。
真冬の無差別に冷たい視線が少女の胸を射抜く。
「ひっ、ゴメンナサイ……ノック……ノックは……したんですけど……。
えっと、きこ、聞こえなかった……み、みたいなので。」
それはそうだろう。
このバカ男が年甲斐もなく狂人のように喚き立てるから、聞こえるべきものも聞こえなかったのだ。
「……ふぅん……で、名前は?」
「はいっ!?」
「名前だよ、名前を聞きたいの、分かる?
あー……What's your name?」
「か、か、加賀美 夢です……。
一年生……です。」
「君が入部希望者なの?」
「はい……ええ、そうです。」
と、真冬がそれなりに仕切っていたところ、
「はいはい、とりあえず座って座って。」
羽水が割り込んできた。
下等生物のくせに、と真冬は心の中で悪態をつく。