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一時間目と二時間目の間の休み時間。
学級文庫に置かれていたミステリー小説を読む真冬。
ギャアギャアうるさい男子に説教する女子もまたうるさい。
いつもの光景だがいい加減呆れる。
かと言って、たかがこんな連中のために能力を使うのも馬鹿らしい。
結局放置してしまう案件だ。
「───ま~ふ~ゆ~さ~ん~。」
「えっ……?」
瞬間、気配を感じる。
誰かの悪戯か。
振り向くと、真冬の髪を美味しそうにもしゃもしゃと頬張る女がいた。
薄く赤みがかった長いミディアムボブの髪。
不健康さを感じるほど異常に白い肌。
血のように真っ赤な瞳。
「なッ───なァ……何やってんのッ!?」
真冬の珍しい叫び声に、周りの生徒達もざわめく。
「はやふぇん(早弁)。」
そんな状況をモノともしない女。
「ちょっと……汚いからやめろ!」
そもそも見知らぬ顔の見知らぬ女が後ろの席に座っているというだけで気味が悪い。
それに加えてこの女は、真冬の髪を食べようとしている。
「あ、タバスコはかけない主義なの。
でもチーズ……パルメザンいーっぱいかけなきゃね。
噎せない程度にぃ……それっ!」
「いやァァァ───ッ!」
咄嗟に離れた。
離れてしまった。
つい、不気味だと思ってしまった。
しかし気味が悪いと同時に、真冬はこの女に興味を抱きはじめていた。
素性を知りたいと思いはじめていた。
「……名前は?」
「はちへ ひおうぅー。」
「はち……何?
ちょっと、いつまで髪食べてるの!?」
「……駄目?」
「駄目に決まってるでしょ!」
「パスタはね、食べるものだよ。」
「これはパスタじゃなくて髪!髪!髪!」
「髪はパスタ、パスタは髪。
この世に食べられないものはあるの?
ねぇ、どうなの?」
「髪なんか食べられるワケない。」
真冬が女の頭を軽く叩くと、女はゴミ箱に向かった。
「……ん?」
ゴミ箱を頭から被る女。
きったないゴミが全て降りかかる。
「ん、んんんんん、んんん、んんんん!」
「……な……に……や……っ……て……。」
もう何も言えなくなる。
他の生徒達はただ見ているだけ。
「ぷはっ、ゴミ箱の中身ぜぇんぶ食べた。」
「嘘でしょ、何やってるの……。」
「ゴミ箱は……良い……良い臭いがする。
髪が駄目ならゴミ箱……で、次はこれェ!」
紙きれが頭についたまま、今度は学級委員長の体操服にかぶりつく。
もう何が何だか分からない。
学級委員長も、信じられない光景の連続で頭が壊れているらしく、一切反応しない。
しないと言うより、出来ない。
出来るワケがない。
「……こ……こふっ……これ、しゅき!」
「───あ。」
授業開始のチャイムが鳴る。
女は真冬の方をチラリと見て、そのままどこかへ立ち去った。




